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ポーランド、韓国に猛追を受けながらも3-2勝利。監督「日本戦のプラスになる。よいデータが得られた」

”仮想日本”の韓国選手と競り合うポーランド代表選手。28日同国ホジェフにて(写真:ロイター/アフロ)

ヨーロッパの中央部・交通の要衝カトヴィツェにほど近いホジェフのシュラスキスタジアムは5万5000人の観衆で埋まっていた。ホームのポーランドは決して手を抜けるような状況ではなかったはずだ。

 

28日午前3時45分(27日27時45分)、日本のロシア・ワールドカップでの対戦国ポーランドが韓国を迎え、国際Aマッチを戦った。“仮想日本”との対戦だ。

86分までポーランドが2-0とリード。そこから韓国の猛追を受け2-2となったが、後半アディショナルタイムに23歳FWジエリンスキが決勝ゴールを決め3-2の勝利を挙げた。

序盤はカウンターからの探り合い

ポーランドはレバンドフスキが先発出場する3-4-3の布陣で臨んだ。いっぽうの韓国も3-4-3。シン・テヨン監督は試合前に4-4-2の採用を明言していたものの、24日の北アイルランド戦で左膝を負傷した左サイドバックのキム・ジンス(チョンブク)が緊急帰国。同ポジションの人材が不足したため、3人のCBを並べる布陣としたのだ。

参考:【プレビュー】今週、ポーランドも”仮想日本”韓国と対戦! 大韓サッカー協会「昨年12月に対戦決めた」

序盤はお互い探り合う展開。低い位置でボールをつなぎ、相手のスペースを探りあった。30分までに双方2度ずつチャンスを掴んだ。

先制点は32分。グロシツキ(ハル・シティ)が左サイドから右足で上げたクロスに、レバンドフスキ(バイエルン・ミュンヘン)が合わせた。執拗に攻撃を繰り返していた左サイドからゴールを決めたのだ。

この後、韓国は38分にCBキム・ミンジェ(チョンブク)を下げ、FWファン・ヒチャン(ザルツブルグ)を投入。4-4-2に陣形を変えた。攻撃が活性化したものの、逆にポーランドはこのスキを突く。

 

前半アディショナルタイムにカウンターから中央で受けたFWグロシツキが左足で難なく決め、2-0とした。

86分、ミドルシュートから韓国が反撃も……

後半は韓国が果敢な攻撃を見せるが、ゴールには至らず。

しかし、80分に投入されたイ・チャンミン(チェジュ)が6分後の86分にペナルティエリア外からの右足ミドルシュートを決めると、一気にゲームが動いた。韓国は88分、ソン・フンミン(トッテナム)の左サイドでのスルーパスからパク・チュホ(スーウォン)が抜け出し、折り返す。これをファン・ヒチャンが左足で決め2-2とした。韓国は続けて2本ペナルティエリア内でシュートを放つなど攻め立てた。

しかしポーランドが「役者が一枚上」だった。

後半アディショナルタイムに韓国のボランチとDFラインのギャップを突いた。4枚の守備ラインを前にしてジエリンスキ(ナポリ)が左足を振り抜くと、これがファーサイドに決まり、3-2。相手の追撃を受けながらも、「仮想日本」に勝利した。

ポーランド監督「韓国はポーランドの組織力と繰り返しのパターンプレーを研究していた」

「我々は最近、それぞれスタイルの違う2チームと試合をした。ナイジェリアと韓国だ。本当に、全く違った」

試合後、ポーランドのアダム・ナバウカ監督はまずこう口を開いた。続けて、”仮想日本”という点でこんな発言も。

「今日の試合はポーランドにとって非常によいトレーニング資料になると思う。まさに日本戦を準備するにあたり、プラスになると思う。韓国代表は非常にいい試合をした。特にチームワークが優れていた。もっともこの点はすでに想像していたものであり、驚くことはなかったが」

 

「個」の力よりも「組織」がやはりアジア的な特徴。そう理解していると取れる。また、韓国に関してはこんな印象も。

「韓国はポーランドの組織力と繰り返しのパターンプレーを見て、多くの準備をしたと思う。またフィジカル的にも準備をしてゲームに臨んだように見えた」

最後に3月の国際Aマッチウィーク(この試合の前、24日にはナイジェリアに0-1の敗戦)をこう締めくくった。

「勝った事自体が重要だと思う。テストマッチはワールドカップまでの過程だと考えている。(決勝点を挙げた)ジリエンスキが継続的に成長する姿を見せてくれて嬉しい」

“我慢して、最後に仕留める”がやはり理想の展開か

韓国が行った”分析”とは何だったのか。追って取材するとして、試合を見た限り、日本にとっての”研究材料”がいくつか転がっていたように見える。

ポイントのひとつは、38分に韓国がCBを下げFWを投入、4-4-2とした点だ。最近はボランチ起用も多いレフティーのパク・チュホを左サイドバックに下げるリスクを取ってでも布陣変更をした。

シン監督は「3バックのトレーニングを一日しかできなかった」と試合後口にした。またエースのソン・フンミンの得点力を活かすためにも、3トップの中央で多くのプレッシャーを受けるよりも2トップにして”分散”させたほうが有利と見たか。

アクシデントもあり、序盤はやむなく3-4-3同士の”ミラーゲーム”となった。ポーランドはカウンター狙いだった。韓国も「つねに相手をドイツだと思って(守備的に)戦った」(シン監督)こともあり、お互い探り合う展開に。

しかし、同じかたちでやると、”力負け”する。32分、分かっていたはずのレバンドフスキにやられたのだ。

4-3-3をベースとする日本とすれば、当然、布陣(ポーランドのここ数試合のベースは3-4-3)の違いから生まれるギャップがゲームのポイントとなるのではないか。

また、シン・テヨン監督は試合終盤の自チームの連続ゴールについて、こう証言している。

「相手の集中力が落ちていた。あの時間帯に集中を保てていれば、ポーランドはドイツ級になれる」

終盤まで”いい勝負”を続けるゲーム展開を保ち、最後に仕留める。ポーランド相手に良い結果を得るとしたら、そんな絵が想像できる。欧州の強豪相手に何も真新しいものではないが、”鉄板”の試合展開の重要性が垣間見えた。

”仮想日本”になったか? 韓国側の事情

いっぽうで、ポーランドにとっても(あるいは日本にとっても)、ワールドカップに向けた準備としては重要だった”裏のポイント”がある。韓国のシン・テヨン監督が197センチの長身FWキム・シヌク(チョンブク)の起用を30分に限定したことだ。

日本には明らかにいないタイプの大型選手がゲームに入ると、どうしても「キム・シヌクをめがけて蹴る」という傾向が出る。昨年12月に日本で行われたE-1東アジア選手権で一気に評価を上げたキムは、ポーランド戦の3日前に行われた北アイルランド戦で先発出場。先にテスト機会が与えられた、という状態だった。このあたりはシン監督の”配慮”があったか、なかったか。

いっぽうでJリーグでも活躍し、ポーランドの力を知る指標になりえたイ・グノ(カンウォン)が筋肉系の負傷で出場できなかった点は残念な点だった。

韓国代表ではこの日、GKキム・スンギュ、DFチャン・ヒョンス、MFチョン・ウヨンのJリーグ組が先発出場した。彼らは29日に帰国予定だ。対戦した印象を聞いていきたい。

参考1:両国のスターティングメンバー

ポーランド 

GKシュチェスニー(ユベントス)。DFピシュチェク(ドルトムント)、グリク(モナコ)、パズダン(レギア・ワルシャワ)。MFイェンドジェイチク(同)、ロマンチェク(ヤギロエニア)、マチニスキ(ヴィスワ・クラクフ)、リブス(ロコモティフ・モスクワ)。FWジエリンスキ(ナポリ)、レバンドフスキ(バイエルン・ミュンヘン)、グロシツキ(ハル・シティ)。

韓国

GKキム・スンギュ(ヴィッセル神戸)。DFホン・ジョンホ(チョンブク)、チャン・ヒョンス(FC東京)、キム・ミンジェ(チョンブク)。MFイ・ヨン(同)、キ・ソンヨン(スウォンジー)、チョン・ウヨン(ヴィッセル神戸)、パク・チュホ(スーウォン)。FWクォン・チャンフン(ディジョン/フランス)、ソン・フンミン(トッテナム)、イ・ジェソン(チョンブク)。

参考2:【プレビュー】今週、ポーランドも”仮想日本”韓国と対戦! 大韓サッカー協会「昨年12月に対戦決めた」

吉崎エイジーニョ ニュースコラム&ノンフィクション。専門は「朝鮮半島地域研究」。よって時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。20代より日韓両国の媒体で「日韓サッカーニュースコラム」を執筆。「どのジャンルよりも正面衝突する日韓関係」を見てきました。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。北九州市小倉北区出身。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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