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盛り上がるWBC! それにしても、試合時間が長すぎませんか?

楊順行スポーツライター
球春スタート。今年の東京スポニチ大会はぽかぽか陽気でした(撮影/筆者)

 WBC。日本は連勝スタートを切ったが、9日に日本に敗れた中国は、10日、チェコにも敗戦。日本戦の試合終了が午後11時前で、約13時間後の10日正午にチェコ戦、という気の毒な日程だった。

 それにしても、試合時間が長すぎませんか。日本は中国戦が3時間41分、韓国戦が4時間4分。まあ、一戦一戦が重要で、持てる戦力をどう最大限に使うか、選手交代に時間を要するのはわかるし、中継するテレビ局にとって、長時間高視聴率を稼げるのは慶賀の至りである。ただ、1998年夏の甲子園、伝説的なPL学園と横浜の延長17回が3時間37分だ。かつて松坂大輔に、その試合をビデオで振り返ったことがあるかと聞いたら、

「長いから、見ていないです」

 17回の半分ほどの9回で、それ以上の時間がかかるというのはやはり長い。4時間4分なら、東京駅で乗った『のぞみ』は、もう広島を出発している。

高校野球でも、2時間では終わらない

 もっとも、スピーディーな試合展開が魅力の高校野球も、いまはちょっと試合が長くなってきた。たとえば打者の技術が進歩し、追い込まれてもファウルで粘ることができるから、投球数が増える。かつてより格段に選手層が厚くなったから、代打や継投の選手交代でも時間がかかる。

 甲子園ではこれまで、1試合の所要時間を2時間と想定し、第2試合以降の開始時間を設定してきたようだ。8時開始の第1試合が10時に終われば、30分でグランド整備とシートノックを終え、第2試合は10時30分開始、という目安。だが2022年夏の48試合中、2時間以下で終わった試合はわずか8試合。逆に、2時間半以上を要したのが12試合、3時間超えも1試合あった。1試合2時間、という想定はもう無理がある。

 WBCなどのビッグゲームはともかく、試合の長時間化には球界も懸念を抱いているのだろう。試験的に、7イニング制なども実施されているが、体験した選手に聞くと「勝っていればいいけど、負けていたらアッという間に試合が終わります」。早い話、興ざめなのだ。

 そういう趨勢のなか、社会人野球では試合時間が短くなっている。

 シーズン開幕を告げる東京スポニチ大会が行われ、9日の決勝では東芝がHondaに勝利。大会最多、12回目の優勝を果たしたが、大会全27試合中、3時間を超えたのは1試合だけだった。昨年の前回大会では、全21試合中8試合が3時間を超えたことと比べると、かなりのスピードアップといえる。

 理由は簡単。この大会から、『スピードアップ特別規定』が適用されたのだ。詳しくは日本野球連盟のホームページ『日本野球連盟(社会人野球)スピードアップ特別規程』を参照いただくとして、

・走者なしでは、投手はボールを受けてから12秒、走者ありでは20秒と投球間隔を制限

・走者がいる場合、同一打者で2回けん制をした場合、3度目のけん制は走者をアウトにしなければボークとなる

 などだ。

 あるチームのエースと話していたら、「怖くて、よほどじゃないとけん制は投げられなくなる。投げても1回ですね」。かりに2回けん制を投げたら、3回目は投げづらいから、走者は思いきったリードを取れるだろう。また大きくリードを取りつつ、軸足を帰塁に置いて投手を挑発すれば、3回目のけん制でボークを誘うこともありうる。だから、「けん制は、投げても1回」なのだ。

 実際、見ていた試合で、一人の打者に対してけん制を2回投げる投手はほとんどいなかった。これで、間を取るためだけのけん制が減ったし、投球間隔についても、オーバーすると1度目は警告で、次からは「ボール」をカウントされるから、投球のテンポがよくなる。これらが、スピードアップの要因だといえるだろう。

 もっとも、ある監督との立ち話。

「スピードアップの効果はあったんでしょう。ただ、それも痛し痒しでね。効果あり、となるとこの規定がそのまま浸透するでしょうが、"間"というものも野球の重要な駆け引きですからね。その"間"を、すっかりなくしてしまうのもどうかな、と思います。まあわれわれは、決められたことに従うだけなんですが」

 蛇足ながら。猫も杓子も、ワイドショーもあまりにWBCで盛り上がるのには、ちょっとお腹いっぱいです。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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