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全日本バドミントン 強い桃田賢斗が帰ってきた! ほかにも大谷翔平世代が躍動

楊順行スポーツライター
桃田賢斗は全日本総合選手権で5回目の優勝(撮影/筆者)

 あの、強い強い桃田賢斗が帰ってきた。第76回全日本総合バドミントン選手権大会。男子シングルス決勝では、同じ大谷翔平世代の西本拳太をストレートで下して、2年ぶり5回目の優勝だ。桃田は、やはり決勝で西本を破って優勝した2019年は、ワールドツアー(WT)に10大会優勝してギネス記録とし、WTファイナルズも制した絶対王者だった。その後、交通事故などもあって本来の姿とはほど遠かったが、復活ぶりを印象づける今季初優勝だ。

 ほかにも女子シングルスでは山口茜、女子ダブルスは福島由紀/廣田彩花と東京五輪組が3種目で優勝。廣田も、桃田や西本と同学年の大谷世代で、2024年のパリ五輪も十分、狙える。

 ただ……「正直、先のことは見えてません」と桃田はいう。

 年明け発売の雑誌に寄稿する仁義もあって、これ以上詳しいことは書かないでおこう。

 悩ましいのは、この大会の位置づけだ。

 かつては、WTがいまほど整備されていず、なによりも日本の実力が世界的に立ち遅れていたこともあり、この大会は誰しもが目の色を変えてほしがるタイトルだった。だが昨年は、WTの日程とにらみ合わせ、いわば一軍にあたる日本A代表がほとんど出場せず。今年も、12月27日付の世界ランキング(WR)2位と、女子ダブルスで日本勢トップの志田千陽/松山奈未、混合ダブルス5位でやはり1番手の渡辺勇大/東野有紗、女子シングルス13位で2番手の奥原希望がケガにより棄権。大会中にも、女子ダブルスの東京五輪組・永原和可那/松本麻佑、WTファイナルで準優勝し、男子シングルスのWR9位と、日本勢トップの成長株・奈良岡功大が大会中に棄権した。

パリ五輪レースを見すえると……

 国内、国外と、シーズンオフのない過密日程は確かに気の毒で、年が明ければ10日からは早くも大きなWTが控えている。全日本のタイトルもほしいが、WTに向けて無理はしたくないし、コンディションを整えたい事情はある。リオ五輪・女子複の金メダリスト、松友美佐紀とのペアで、初めて混合複を制した金子祐樹(ちなみに夫人は、松友との金メダルペア・高橋礼華)も、こう語っている。

「全日本の重みは十分感じていますが、気持ちは1月4日から始まる日本代表合宿に向いています」

 なにしろ来年5月からは、パリ五輪に向けたオリンピック・レースがスタートするのだ。一国に与えられる出場枠は、各種目最大で2。5月からの1年間、WTで獲得したポイントの合計上位者からその枠を獲得することになる。そして、WRの上位者ほど、グレードの高い(つまり、獲得ポイントの大きい)WTに出場できるから、5月までには一定以上のランキングを維持しておきたい。

 一方、この全日本総合は代表選考に大きな比重を持つ。だが、五輪レースの戦略としては当然、スタート時にWR上位にいる者を優先して代表に選考する。たとえば、女子複で準優勝した櫻本絢子/宮浦玲奈は、半年前に結成したばかりでWRは75位に過ぎず、日本代表には選ばれても、出場できる大会のグレードが一段落ちる。だが現在WR上位にいる志田組、永原組なら、最高グレードの大会に出場可能だ。うがった見方をすれば、両ペアが棄権したのは、この大会で結果を残さなくても、代表には選ばれるという計算からだろう。混合の渡辺組にも、それはいえる。

 日本代表は明日にも発表されるだろうが、誤解をおそれずにいえば、全日本総合というタイトルが少々軽くなっているのは、そういう構図もあるのではないか。

 さまざまな事情はあろうが、年が押し詰まってという開催時期もやや"?"。だって、12月30日の決勝ですよ。最寄り駅で出会ったあるチーム関係者は、「これから帰って大掃除」と苦笑していた。恒例の格闘技イベントならともかく、この時期の大会に足を運ぶのは関係者、あるいはよっぽどのファンしかいないんじゃないかなあ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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