[高校野球]2022年の私的回顧(2) 山田vs浅野の名シーン。それにしても近江の人気が急上昇だ
仙台育英(宮城)が東北勢として初優勝を果たした夏の甲子園。須江航監督のインタビューが心に残る。個人的に、ほかに名場面に挙げたいのは、近江(滋賀)が7対6で高松商(香川)に勝った準々決勝の7回だ。
5対3と2点リードの近江だが、エース・山田陽翔は本調子とはほど遠く、1死一、二塁のピンチを招く。打席には、一番・浅野翔吾。今大会、投打の注目度No.1対決だ。だが、ここで……。近江ベンチは、浅野を申告敬遠。3万1000人の観客が一瞬戸惑い、そしてドッとわいた。
「浅野君との勝負には完敗してしまって」
最後は7対6でしのぎきり、ベスト4に進出はしたが、山田は試合後、そう振り返った。なにしろ初回は、真ん中寄りのスライダーをレフトに痛烈な二塁打。2点リードの3回には、センターにライナー性の2ランを浴びた。
このとき、1死一塁での浅野の打席前に、ベンチからは「申告敬遠するか?」という伝令を出している。これに、「勝負させてくれ」と首を振っての被弾だった。さらに、3対2の5回。3打席目の浅野は、ツーシームをレフト前に運ぶ。そして迎えた7回のピンチ。近江・多賀章仁監督の決断は、敬遠だった。
一、二塁が埋まっていての敬遠は、タイブレークなら常道だとしても、ふつうめったにない。なにしろ、満塁にしてしまうのだから。しかも2点差のこの場面、その敬遠する打者は逆転の走者となる。百歩譲って2死ならまだしも、1死なのだ。現に高松商はこの回、3点を奪って一時は試合をひっくり返しており、浅野自身も、「あの場面では(敬遠は)ないと思ってたんで、ビックリしました」。近江と山田にとって浅野は、それだけ危険な打者、ということだろう。
入場者数がそのまま人気を示すわけじゃないけれど……
それにしても……球場にいてじかに感じたのは、近江の人気の高さだ。3年ぶりに有観客となったこの夏。球場の活気がなんとも心地よかった。たとえば清宮幸太郎(現日本ハム)が早稲田実の1年生として甲子園デビューした2015年、人気の過熱ぶりは異常で、梅田発の始発電車が超満員、その時点で満員札止めということが何回もあった。全席が指定席となった今年はそれほどの混雑はなく、観客数は8月14日、大阪桐蔭と聖望学園(埼玉)の4万人が最多である。
試みに、3回戦に進出したベスト16の、それぞれの試合の入場者合計を調べてみた。むろん入場者数には対戦相手や地域性、曜日、あるいは天気など、さまざまな要因がからむから、あくまでも機械的な数字だと断っておくが、それでもどのチームが人気なのかを示す目安くらいにはなるだろう。
ベストテンは以下のようになる。
1 大阪桐蔭 4試合 12万9000人 平均3万2250人
2 近江 5試合 15万6000人 3万1200人
3 九州国際大付 2試合 6万1000人 3万0500人
4 二松学舎大付 3試合 9万人 3万人
5 高松商 3試合 8万9000人 2万9667人
6 愛工大名電 4試合 10万9000人 2万7250人
7 下関国際 5試合 13万0200人 2万6040人
8 国学院栃木 3試合 7万2000人 2万4000人
9 聖光学院 5試合 11万6000人 2万3200人
10 敦賀気比 3試合 6万4000人 2万1333人
ちなみに、優勝した仙台育英は5試合・10万1200人で平均2万0240人の11位に入っている。
繰り返すが、あくまで目安である。たとえば二松学舎大付の2回戦は地元・兵庫の社で3万9000、3回戦は人気の大阪桐蔭で3万8000が入ったし、お盆にあたる14〜16日の試合は例年、総じて観客数が多い。
それでも、だ。近江といえば過去、01年夏の準優勝があるが、失礼ながらそれほどの人気チームとはいえなかっただろう。むろん過去のデータを集計したわけじゃないけれど、古くは池田、最近の早稲田実のように、出てくればスタンドがぎっしり、という印象はない。それがこの夏は、大阪桐蔭に次ぐ2位である。
おそらく高校野球ファンには、山田の活躍で大阪桐蔭に勝った昨夏、そして準優勝したこのセンバツの残像がある。ことに、京都国際の無念の出場辞退で急きょ補欠出場となったセンバツでは、山田が死球を受けながら、魂のピッチングで浦和学院(埼玉)との延長戦を制した。その感動的な試合ぶりが、人気の裏にあるのではないか。
思い出した。山田を中心にまとめたセンバツの拙稿を近江・多賀監督にメールしたら、
「あの山田という男、これからがとても楽しみです。応援してやってください」
と返事を頂戴したんだった。ドラフト5位で西武入りする山田。応援します。