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社会人野球日本選手権/絶賛開催中【2】JFE東日本、夏秋連覇への挑戦

楊順行スポーツライター
関係ないけど、京セラドームってつくづく宇宙船みたい(撮影/筆者)

「須田は責められません。都市対抗ではずっと、おんぶにだっこだった。明らかに調子は悪かったが、須田で負けるのならしかたがありません」

 落合成紀監督はいう。今年の都市対抗を初優勝し、史上4チーム目の夏秋連覇を狙ったJFE東日本。初戦は突破したが、10月30日に2回戦で大阪ガスに敗れ、ベスト8を前に姿を消した。守護神・須田幸太を、7回から投入。須田は都市対抗では、抑えとして5試合中4勝したから、これはJFEの"勝利の方程式"だ。

 先発の高木寿も奮闘した。社会人1年目だが、ボールの出どころが見えやすくて痛打を食らうケースが多かった。そこで、元ダイエーなどの井上祐二コーチの助言もあり、ミスター社会人・佐竹功年(トヨタ自動車)ふうのテイクバックに改造したのがここ1カ月ほど。すると、相手打者の反応が変わってきた。この日も、大阪ガス打線を4回1失点と好投した。

 今川優馬、峯本匠、平山快、岡田耕太と、都市対抗で大暴れした新人カルテットを二〜五番にすえた打線も1、2回で4点を先取。7回、4対3と1点リードした場面で、4人目の須田が登板することになる。だが、2018年都市対抗覇者の大阪ガス。今年の東京ドームでは、初戦で対戦したJFE東日本に延長12回、タイブレークで逆転サヨナラ負けしており、雪辱に燃えていた。8回には峰下智弘主将の犠飛で同点に追いつくと、9回、古川昂樹が須田から逆転のアーチ。大阪ガスが今度は、土壇場で逆転勝ちした。

須田で負けるならしょうがない

 都市対抗での須田の奮迅ぶりはすばらしかった。DeNAを戦力外となり、9年ぶりに古巣に復帰した今年。南関東二次予選からは、「須田が出ると球場の空気が変わる。打線も、点が取れるムードになる」(落合監督)とプロでも経験のある抑えに回ると、3試合9回3分の2を1失点。第1代表として、3年ぶり本大会出場の原動力となった。

 都市対抗でも、須田が投げると「球場の空気が変わった」。準決勝までの4試合は同点、2点ビハインド、同点、1点ビハインドの場面でマウンドに立つと、登板を待ったかのように打線が目覚め、須田は4試合すべてで勝ち投手になるのだ。そのうち、逆転サヨナラ勝ちが3。トヨタ自動車との決勝でも、最後を締めたのが須田で、5試合すべてに登板して14回を投げ、わずか3安打で自責1と、オーバーにいえば神がかりの活躍で橋戸賞を受賞する。ただ……今大会では、右足に不安を抱えていたという須田。「先発した高木に聞いてやってください」と言葉少なに球場を後にすることになる。

「こちらは須田、むこうもエースの阪本(大樹)君を出してきて、まさに死闘でした。3回以降に得点できなかったのが響きましたね」

 とは落合監督だが、ちょっと気の毒な事情があった。9月上旬に列島を襲った台風15号で、千葉県市原市内のグラウンドも被害を受けた。ネットがなぎ倒され、ベンチも浸水。都市対抗の激戦後に体を休め、本格始動しようとした矢先である。1週間ほどはトレーニングルームで自主練習するだけにとどまり、青写真を書き直さざるを得なかったのだ。都市対抗覇者、2回戦敗退。それでも、落合監督は前を向いた。

「高木を含め、新人たちの力はまだまだこんなものじゃない。来年が楽しみです。もっとも新人は来年が大卒2年目、あまり活躍しすぎて、ドラフト指名が多くなるのも困りますけど(笑)。ただ、強いチームというのはそういうものでしょう」

 ユニフォームの袖には、誇らしげに、都市対抗優勝チームを示す黒獅子のエンブレムが輝いていた。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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