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さあ、都市対抗野球開幕。出場チームのちょっといい話9/NTT東日本

楊順行スポーツライター
NTT東日本・飯塚智広監督が感動した15年ラグビーW杯の日本代表(写真:アフロ)

 チームの取材に行ったとき、なにも野球の話ばかりしているわけじゃない。ときには脱線し、むしろそのほうが盛り上がることもあるのですよ。

 NTT東日本・飯塚智広監督との対話で印象深いのが、2016年のキャンプ取材にたずねたときのこと。前年に行われたラグビーW杯で、日本(当時世界ランキング13位)が、南アフリカ(同3位)を相手に演じた「史上最大の番狂わせ」についての話である。

 15年9月19日。この試合日本は善戦健闘し、終盤まで世界トップクラスの強豪に29対32と食らいついていた。ロスタイムに入り、敵陣深く入ったところで南アが反則。もしここでペナルティーゴールを決めれば3点が入り、引き分けになれば勝ち点2をゲットできる大チャンスだ。ヘッドコーチのエディー・ジョーンズも、当然それを考えた。だが、フィールド上の選手たちは違った。ゴールまで5メートル。大男を相手にしたスクラムを選択し、逆転トライにかけたのだ。

 引き分けなど、いらない。勝負しようぜ。そして……いったんプレーが途切れれば即座にノーサイド=敗戦となるこの場面で、日本は感動的にボールをつなぎ、カーン・ヘスケスが劇的な逆転トライを決めることになる。

「あそこでトライを取りに行くというのが、やってきた練習を信じるということなんですよねぇ」

 感に堪えないように、飯塚監督。自身、シドニー五輪の代表だったから、国を背負って戦う重圧は身にしみて知っているだろう。引き分けでいいという場面で、しかも横綱を相手に、あえて逆転を狙いにいくことの怖さも。

練習を信じる、とはこういうこと

「だからわれわれもふだんの練習からリスクを冒し、失敗しても下を向かずにやっていきますよ」

 意表をつく三盗など積極果敢な攻撃を仕掛け、NTTが36年ぶりの都市対抗制覇を果たすのは翌17年のことだった。昨年は、前年覇者として出場した都市対抗で、優勝する大阪ガスに敗れたもののベスト8。で、今季のNTTである。

「強化練習開始の1月31日から、いきなり紅白戦を始めたんです。監督として6年目、これまで野手陣には"ゆっくりでいいよ"といってきましたが、今季は有望な新人が加入したため、"横一線、ゼロからのスタートだよ"と初めて宣言しました。去年のレギュラーでもポジションは不動じゃないぞ、と競争をあおりたかった」(飯塚監督)

 そういう競争から、阿部健太郎と新人の上川畑大悟が二遊間に定着。実績のある下川知弥は三塁に回った。課題だった捕手にも、上田祐介兼任コーチの指導で2年目の保坂淳介の成長が著しく、さらに外野に食い込んだのが新人の向山基生だ。2次予選ではホームランを放つなど、打率.375を記録している。

 この向山、熊谷組で久慈賞やベストナインを獲得した隆康さんを父に持つ。法政大では1年の秋からベンチ入りすると、2年からは出場機会も増え、外野に転向した3年秋に定位置を獲得。4年春秋はベストナインに輝いている。遠投105メートル、50メートル6秒0と、走攻守の高いレベルが魅力だ。打線ではほかにも中軸を担う喜納淳弥、越前一樹らが高打率を残し、積極的な走塁を仕掛ける姿勢も健在だ。

 投手陣では、東京2次予選で目立ったのが12年目の大竹飛鳥だ。明治安田生命との第2代表決定戦では、14三振を奪ってノーヒット・ノーランを達成。同じベテラン・10年目の末永彰吾、5年目の左腕・沼田優雅も防御率0.00と、救援陣の信頼度も高い。18日の初戦で当たる日本新薬は都市対抗ベスト8の常連で、今季のスポニチ大会では1対4で敗れている難敵だ。

「エースの榎田(宏樹)が安定していて、粘り強く大崩れのないチーム。われわれは挑戦者です。一昨年に優勝したプライドを持ちながら、レベルの高い野球を見せたい」

 と飯塚監督。折りしも、ラグビーW杯日本開催イヤーの記念大会で、「練習してきたことを信じて」戦うつもりだ。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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