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甲子園での導入が確定・そこで、ふたたびタイブレークの勝ち方を考える

楊順行スポーツライター
取材する側としては、スコアの付け方もちょっと試行錯誤(筆者作成)

 6月、『甲子園での導入が濃厚・タイブレークの勝ち方を考えるhttps://news.yahoo.co.jp/byline/yonobuyuki/20170615-00072124/』と題した原稿を書いたが、昨日、来春の第90回選抜高校野球の第1回運営委員会で、タイブレークの導入が決定したという。センバツ、夏の甲子園及び各地地方大会ではタイブレーク制度を採用しない……という、高校野球特別規則の文言の削除が決まったのだ。

 タイブレークとはそもそも、延長回で得点しやすくするため、たとえばあらかじめ一死満塁などと設定して攻撃を開始するものだ。社会人野球の都市対抗では2003年から実施されており、両軍とも延長12回1死満塁の状態で、好きな打順から攻撃を開始する。WBCやオリンピックなど、大会実施期間に厳格な大会では、すでに採り入れられている方式だ。

 高野連は、11年には明治神宮大会、13年には国体、そして14年からは春季各地区大会でタイブレーク方式を採用した。例外だった夏の地方大会と甲子園も、その限りではなくなったわけだ。運用の詳細については今後詰めていくが、「延長13回、無死一、二塁から」になりそうだ。というのも、過去の全国大会ではその98パーセント近くが延長12回までに決着がついており、08年からの10年間に限れば延長13回以上は夏が1試合、春が9試合。つまり、タイブレークとなるのは50試合に1回程度の例外ということになる。

 個人的には、ドラマチックな延長戦を人為的なお膳立てで結末に導く方式は、いかにも興ざめに思えるが、導入が決まった以上はしょうがない。ただひとつ気になるのは、都市対抗などで採用されている「選択打順」ではなく、流れを採用する「継続打順」となりそうなことだ。

 選択打順というのは、塁上に置くことになる走者の走力や状況判断力、そして打者の能力や適性、その日の調子などを判断基準に、任意の打順から攻撃を始めるもの。これが継続打順となると、タイブレーク突入が濃厚な場合、12回の攻撃を意図的に終わらせかねないのではないか。たとえば、2死から九番打者が出塁したとする。次の一番がアウトになれば、13回は二番からの攻撃だ。だが、一塁にいる九番が盗塁を試みてアウトになれば、13回は一番からの攻撃になる。一番と二番を比較したベンチの判断しだいで、わざとアウトになるという戦法もあるわけだ。

2点以上取れば先攻が有利

 それはまあともかく、すでに運用されている都市対抗を参考に、タイブレークにおける勝敗の傾向をちょっと見てみよう。12〜17年の6年間、188試合のうちタイブレークにもつれたのは11試合。およそ17試合に1試合という計算になる。タイブレーク初回の12回で決着したのが9、13回が2だから、早期決着を促すのは確かなようだ。先攻・後攻の勝敗の内訳は先攻が6勝。これまで野球界では、延長になると後攻が有利といわれてきたが、サンプル数は少ないながら、タイブレークではほとんど五分といっていい。

 タイブレーク初回の12回表に2点以上を取った先攻チームは5勝1敗、逆に12回表を1点以下に抑えた後攻チームは4勝1敗。都市対抗の場合、表に2点以上を取れば、その裏、1点あげてもいい1死満塁の守備で、内野陣は中間守備で併殺を狙える。逆に表の攻撃で1点以下だったら、1点も与えたくない内野は前に守らざるを得ず、ヒットゾーンが広がってしまう。だから都市対抗のタイブレークでは、表に2点以上を取れば先攻チームが、表が1点以下だったら後攻が有利になるわけだ。

 選択打順で始める都市対抗のタイブレーク。打順では、11試合のべ22チーム中三番から始めたのが8、四番が6(代打1含む)、一番が5、五番が2、二番が1。俊足あるいは走塁カンのいい走者を置き、主軸から始めるのがいちおうのセオリーといえそうだ。おもしろいのは、先攻の6勝はすべて先頭打者がヒット、もしくは四球などで打点をあげていること。もともと12回表の先頭打者は、11試合中7安打1四球でいずれも打点つきと、驚異的な勝負強さを見せるが、逆に先頭打者が凡退した3試合はいずれも敗退。先攻の場合、先頭打者で点を取れないと次打者に大きな重圧がかかり、1点以下に終わってしまうということだろう。

無死一、二塁なら一番から始めたい

 これを、高校野球に代入するとどうか。無死一、二塁から始めたら、攻撃側はまずバントして1死二、三塁とするのが常道だろう。守備側はここで、併殺を狙いやすい満塁策を取ってくるのも、やはり常道。となると、1死満塁で一番に、あるいは三番に打順が回る八番や一番から攻撃が始まるのがよさそうだ。まあ継続打順が採用されれば、意のままには行かないが。

 最後に、タイブレークが興ざめな実例をひとつあげておく。今年の社会人クラブ選手権の決勝。和歌山箕島球友会と大和高田クラブの一戦は、極上の投手戦だ。9回まで大和2安打、箕島4安打でいずれも無得点。決着はどうなるんだろう……というハラハラ感は、野球観戦の大きな醍醐味だ。しかも、決勝という大詰めですよ。それが無情にも、大会規定で10回からタイブレーク。大和が10回に2点を挙げたその裏、箕島が3点を奪い、劇的な逆転サヨナラ優勝となった。

 この試合、9回終了時点では試合開始からわずか1時間33分。せめて、自動的に10回からタイブレークというのではなく、たとえば2時間30分を超えるまでは正規のルールでやりましょう、というくらいの柔軟性があればいいと思うが、いかが。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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