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清宮だけじゃない! センバツの主役/その5 野村大樹[早稲田実]根尾昂[大阪桐蔭]etc.

楊順行スポーツライター
大阪桐蔭は藤浪晋太郎(写真)で春夏連覇した12年以来の優勝を目ざす(写真:岡沢克郎/アフロ)

Dブロックにも、昨秋の地区優勝校が4。さらに神戸国際大付は、秋の公式戦4ホーマーの猪田和希を中心に、チーム打率・377は2位で、エース黒田倭人も防御率3位。ここに大阪桐蔭もいるのだから、熱く厳しい4強争いになりそうだ。

楽しみなのは、昨秋東京優勝の早稲田実と、四国優勝の明徳義塾の一戦。早実は強力打線が圧巻だ。新チーム結成以来、オープン戦も含めた清宮幸太郎のホームランは25本、野村大樹が17本と、他を引き離す。公式戦に限っても清宮5、野村4と、これも1、2位だ。昨秋、1年生として清宮のあとの四番を打った野村は、福岡大大濠との神宮大会準決勝で、三浦銀二から左中間に2ラン。これが高校通算23号で、野村曰く「清宮さんを超えたいな、と思っていました」。そう、清宮が1年秋までに放った22本を超える一発だったのだ。野村はいう。

「あの人(清宮)のあとを打つのは、すごいプレッシャーでした。歩かされることも多いんで……ただ夏、そして新チームと経験し、だいぶ慣れましたけど」 

4四死球と、清宮が勝負を避けられた大濠戦で野村は、2ラン含む3本の適時打で4打点。神宮大会3試合では、打率・556、6打点。東京大会決勝の日大三戦で、サヨナラ3ランを放ったのも野村で、四番として文句のつけようがない活躍だ。大阪福島シニア時代は、U15日本代表。身長172センチながら、体重81キロとがっちりした体格で、飛ばすことなら清宮にもヒケをとらない。

明徳は、昨秋防御率2位の左腕エース・北本佑斗が清宮をどれだけ封じるかがまずカギになるが、馬淵史郎監督が自信を持つのは「甲子園4強の去年より上」という攻撃力だ。中心は、その夏の甲子園でグランドスラムを放った西浦颯大だ。細身に見えるが、昨年の冬は「1.2キロの重いバットを使ったロングティーで、ソフトボールを打っていた」ことでパワーアップ。技術的には、吉田正尚(オリックス)を参考にスタンスを狭め、フォームを固めている。「チームとしては優勝、個人としてはサイクルヒットと5割」を掲げている。

大阪桐蔭は2年生にも逸材ざくざく

昨秋の東海覇者・静岡は、最速144キロの左腕・池谷蒼大が高い奪三振率を誇り、中国優勝の宇部鴻城には嶋谷将平という好ショートがいる。とにかく守備がうまい。中国大会の準決勝では、創志学園に1点差に詰め寄られた9回裏、三遊間寄りのヒット性の打球を軽いステップで処理し、一塁に送球して試合終了。「(左打者の振り出しの)タイミングが遅い。逆方向に来る」と、ミート直前に三遊間に1歩寄った瞬時の判断が、美技の伏線にあった。尾崎公彦監督によると、

「感性を生かして、好きなように守りなさい、といっています。エラーはほとんど見たことがない。表現するとしたら、打球がグラブに入る前から送球が始まっている感じですね」

あこがれは、同じショートを守る北條史也(阪神)。そういえば光星学院時代の北條は、「ふつうならショーバンになる送球が伸びてくれる」と、甲子園の独特の空気を表現した。「スタンドの"うまいなぁ"という声が快感」という嶋谷が、その大舞台でどんなプレーを見せてくれるか。相手は……大阪桐蔭である。

逸材の宝庫である横綱で、とくに注目は新2年生。藤原恭大、山田健太、宮崎仁斗、中川卓也……らが秋から経験を積んできたが、特筆はなんといっても根尾昂だ。飛騨高山ボーイズでは投手と遊撃手。中学日本一になり、世界大会にも出場したスキーで鍛えた土台から、すでに146キロのストレートを投じ、スーパー中学生と騒がれたものだ。

148まで球速を上げた高校では、秋の大阪大会からデビュー。完封、代打ホームランと真価を発揮し、近畿大会の智弁学園戦では、四番・ショートで先発すると、中越え本塁打を放った。守備でも、三遊間の打球に飛びつき、起き上がりざまに二塁送球。

「スキーではバランス、体幹の強さ、負荷をかけた横の動きが重要なんです。それが生きたかもしれません。ただ1年目は、全然できませんでした。打つほうでは打率が残っていませんし、1本ほしい場面でもあまり打てなかった。ピッチングも、思った通りに投げられず……ただ、西谷(浩一監督)先生からは"日々が大切。急にはうまくならない"といわれていますし、ひとつひとつやるしかない。甲子園の試合は初めてですが、自分の力を引き出してくれそうな場所。楽しみにしています」。

投げて、打って、走って、守って。けた外れの能力を持つ根尾が、高校でも"スーパー"になるか。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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