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もうすぐドラフト・その2……山本武白志

楊順行スポーツライター
(写真:アフロ)

「高校に入ってから、なぜか打球が高く上がるようになったんです」

山本武白志は、そういった。

夏の甲子園、大阪偕星戦。九州国際大付の四番・山本は、1点を勝ち越した5回裏、滞空時間の長い3ランアーチを左翼に架けると、逆転されて1点を追う7回には中堅にライナーで同点弾。史上31度目(29人目)の2打席連続アーチで、3回戦進出に貢献した。

鳴門との1回戦では5打数1安打ながら、アーチを架けそうな予感はあった。大阪偕星戦の1、2打席目は、レフトとセンターへの大飛球。いずれも狭い球場ならホームランになっていてもおかしくない飛距離で、さらにスラッガーならではの高〜い軌道だった。そして、三番の岩崎魁人が3回にホームランを放ったのが「刺激になり」、3、4打席目の連発につながった。

2打席連続の偉業は、最近では森友哉(大阪桐蔭、現西武)が記録している。

「高校野球の頂点を極めた選手。名前だけでも並べて光栄です」

と笑った"ムサシ"は、次の作新学院戦でも豪快な一太刀を浴びせた。0対0の6回裏二死から、値千金の先制ソロが左中間スタンドに飛び込んだのだ。

ムサシの一太刀

プロ野球を経験し、楽天では編成部長も務めた九国・楠城徹監督はいう。

「山本は調子が悪いと腰の回転が止まってしまうけど、きょうはよく腰が回っていましたね」

これが、高校通算24号。巨人で四番を務めたこともある、元ロッテ監督・山本功児氏の長男だ。神奈川・都筑中央ボーイズでは関東選抜、NOMOジャパン入りを経験している。その中学時代は、どれくらい打ったの? という問いに本人、

「あまりに少ないんで恥ずかしくて……(笑)。5、6本ですかね。中学では、ライナー性の打球が多かったんです」

そして続くのが、冒頭の「打球が高く上がるようになったんです」という台詞だ。長距離砲としての覚醒。高校入学以後の食トレで、187センチ85キロという立派な体になったのも一因だろうが、プロで64ホーマーを放った父譲りの天性もあるはずだ。

「ホームラン……球場の注目を、一身に集められるのがいいですよね。あの歓声、イメージしていたのと同じでした。人生で最高の気持ちだった」

いくつかの、挫折がある。九国では1年秋から三塁のレギュラーとなった。昨夏は、県大会で2試合連続ホームランを記録し、勇躍甲子園に乗り込んできた。だが、東海大四・西嶋亮太の低め変化球に苦しみ、4打数無安打でしかも空振りの3三振。優勝候補に数えられていたチームも、初戦敗退した。

「あの悔しさを、ずっと忘れずにやってきたつもり」というその後も、苦しんだ。歯車が狂い、練習試合でも結果が出ず、悪いことに今年4月には左手小指を骨折。春の県大会では、四番をはく奪された。

だが、

「つねにバットを振っていましたね。練習後も夕食が終わったら、毎日バットを振りに行く。移動のときにも、バットを手放しません」(藤本孝治部長)

という日々が、春の九州大会で3試合連続アーチという果実をもたらす。さらに「2ストライクからでもムチャ振りしていた」(山本)前年の夏を反省し、追い込まれてからはコンパクトなスイングを意識。それが、この夏の県大会7試合で打率5割、三振0という数字につながっている。

元プロも認めるバット操作

「ハンドリングはトップレベル。柔らかくて、うまく使います」(楠城監督)というから、三振かホームランか……という一発屋じゃない。

事実夏の甲子園では、15打数5安打3ホーマーの打点5、三振は2にすぎない。和歌山国体では、その三振のうちひとつを喫した秋田商・成田翔から、右翼へあわやの大飛球を放っている。

幼少期を通じて、父から指導を受けた記憶はほとんどないという。

「グラブはこっちの手にはめるんだぞ、という程度で(笑)。だけど、小さいころは父の職場である千葉マリンスタジアムで過ごすこともあり、いろんな選手からかわいがってもらいました。当たり前のようにプロの世界にいたので、自分のなかで(進路は)決まっています。打撃をもっと鍛えたい」

剣豪の宮本武蔵は"二刀流"だったが、さて、こちらのムサシは……。

スポーツライター

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。85年、KK最後の夏に“初出場”した甲子園取材は63回を数え、観戦は2500試合を超えた。春夏通じて54季連続“出場”中。著書は『「スコアブック」は知っている。』(KKベストセラーズ)『高校野球100年のヒーロー』『甲子園の魔物』『1998年 横浜高校 松坂大輔という旋風』ほか、近著に『1969年 松山商業と三沢高校』(ベースボール・マガジン社)。

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