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データで見る「沖縄の民意」 世論調査と出口調査から分かる7つのこと

米重克洋JX通信社 代表取締役
沖縄県知事選で当選した玉城デニー氏(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

9月30日に投開票が行われた沖縄県知事選では、普天間飛行場の名護市辺野古への移設に反対する前自由党衆議院議員の玉城デニー氏が39万6632票と史上最多の票数を獲得し、前宜野湾市長の佐喜真淳氏(自民・公明・維新など推薦)を大差で破る結果となった。この選挙に伴い行われた事前の世論調査や出口調査のデータから分かる7つのことをまとめた。

1. 早かった当確判定 9時台に出揃う

報道各社が激しくしのぎを削るのが「当確打ち」だ。早く、正確に当選確実を打った報道機関は、事前の情勢調査や出口調査でより自信や確証を持っていたということになる。今回は朝日新聞が午後8時ちょうどに玉城氏に当選確実を出した。いわゆる「ゼロ打ち」だ。その後、NHKや毎日新聞、共同通信など他の多くの社が午後9時30分過ぎに相次いで当確を打ち、朝日に続いた。玉城陣営はこのNHKなどの当確発表のタイミングを待って万歳をした。事前に「大勢判明は深夜」との見込みが報じられていた割には、各社とも早めの時間に当確を出せたことになる。

実は、事前の出口調査の結果は、多くの社で共通して玉城氏が大差で優勢となっていることを示していた。しかし、今回は事前の慎重な情勢判断も踏まえ、大票田である那覇市の開票(午後9時10分開始)の経過を見て、当確の確証を得た段階で打った社が多かったようだ。9時30分過ぎに多くの社の当確発表が相次いだのはそのためだと思われる。

今回最も早く当確を出した朝日新聞の世論調査部長・前田直人氏は、NewsPicksで「出口調査も期日前、当日のデータについて子細に分析を重ね、逆転の可能性がゼロであることを複眼的に確認して、20時に当選確実を報じました」とコメントしている。

2. 佐喜真氏は自公を固めきれず無党派も劣勢に

NHKの出口調査によると、佐喜真氏には自民党支持層の約8割、公明党支持層の約7割が投票していた。逆に言えば、玉城氏にも自民党支持層の2割ほど、公明党支持層の3割ほどが「流出」したことになる。

この「流出」の傾向は、事前の各社情勢調査でも見られた。多くの調査で共通する傾向として、玉城氏が立憲民主党、社民党、共産党の支持層をそれぞれ9割以上固めた一方、佐喜真氏は自民党支持層の7〜8割、公明党支持層の5〜8割と固めるにとどまっていた。無党派では玉城氏に対して劣勢になっている点も共通していた。

佐喜真氏は今回の選挙で31万6458票を獲得したが、この数字は同氏の「基礎票」の数に近い。同氏を支持した自民党、公明党、日本維新の会は、2017年総選挙では県内で30万票近い比例票を得ているからだ。投票率なども考慮すると、佐喜真氏は玉城氏に食い込まれた自・公・維の基礎票を埋め戻すのに手一杯で、無党派での支持拡大が追いつかなかったと言えそうだ。万歳をする玉城氏の背後では、創価学会の三色旗がはためいていた。

3. 辺野古への基地移設に反対多数

JX通信社が琉球新報社、沖縄テレビ放送と行った沖縄県知事選の情勢調査(9月14日〜16日実施)では、普天間飛行場の名護市辺野古への移設に伴う埋め立て承認を沖縄県が撤回したことについて「強く支持する」「どちらかと言えば支持する」とした人が69.3%に上った。また、同じ調査で普天間飛行場を「県外」か「国外」に移設すべき、もしくは「無条件で閉鎖、撤去すべき」とした人は計69.0%に上った。約7割が辺野古への基地移設に反対しているという調査結果は、4年前の前回知事選の際にもある。また、報道各社の出口調査でも、投票にあたって重視したこととして基地問題が4〜5割ほどと最多になっている。

沖縄県内では、辺野古への基地移設の賛否を問う県民投票の実施を目指す動きがある。県民投票が実施されれば、改めて大多数により県内移設反対の民意が示される可能性が高い。

4. 高齢層ほど玉城氏支持が多数に

朝日新聞やNHKの出口調査では、年代別の投票意向が報道された。この報道からは、10代(18〜19歳)と20代では佐喜真氏への支持がやや多く、30代では佐喜真氏と玉城氏がほぼ分け合い、40代以上では玉城氏への支持が多いことが分かる。若年層は佐喜真氏を支持し、それ以上の世代は玉城氏を支持した格好だ。特に高齢層に行くほど玉城氏への支持は増える傾向にある。

この傾向は事前の情勢調査とも概ね一致する。JX通信社が琉球新報社、沖縄テレビと合同で行った情勢調査でも、高齢層ほど玉城氏への支持が増える傾向があった。

5. 玉城氏は女性からは男性以上に広い支持

男女別に見ると、女性からの支持がかなり強かったのも玉城氏の勝因だ。朝日新聞の出口調査では、男性からの玉城氏・佐喜真氏の支持は53%対46%なのに対して、女性からの支持は61%対38%と大差がついた。男女ともに玉城氏への支持が佐喜真氏への支持を上回っているものの、女性からの支持の厚さでその差を広げた格好だ。この傾向もまた、事前の複数の情勢調査と一致している。

6. 玉城氏勝利の決め手は「翁長後継」色か

選挙戦序盤の9月14日〜16日にJX通信社、琉球新報社、沖縄テレビ放送が合同で実施した情勢調査で、翁長県政の評価について質問した。この結果、翁長県政を「高く評価する」「どちらかと言えば評価する」とした人は合わせて71.9%に上った。こうした層の多くは、玉城氏支持に流れていた。玉城氏の元々の知名度に加え、任期途中で急死した翁長知事が「録音テープ」で玉城氏を後継指名したと報じられたことも影響していそうだ。

こうした調査結果を受けてか、玉城陣営は選挙戦中盤以降、ポスターを翁長氏後継を強調したものに張り替えたり、翁長知事夫人が演説に立ったりするなど「翁長後継」色を強調する動きにシフトした。

7. 台風でもほぼ下がらなかった投票率

投票前、現地の記者や陣営関係者などからは、投票率は前回より下がるのではないかという見立てがよく聞かれた。しかし、投票2週間前のJX通信社・琉球新報・沖縄テレビの合同調査では、態度未定者が約1割と少なく、選挙に必ず行くとした人も9割近くに上るなど、他地域の首長選挙と比べてもかなり高い関心が寄せられていることが窺えた。このため、筆者は投票率は前回2014年の64.13%よりも一定程度上昇すると見込んでいた。

しかし、投票日前日から当日未明にかけての台風24号直撃で、沖縄県内では期日前投票所が閉鎖されたほか、県内で広範囲に停電などの影響が大きく残る中での投票日となった。

それでも投票率は最終的に63.24%と前回並みと言える水準に達した。また、期日前投票率は35.1%に上り、当日の投票率を上回った。那覇市内では、期日前投票期間の途中から、自治体の施設に加えて民間の商業施設内にも期日前投票所が設置されたが、この日以降には投票者数が急増した。こうした結果は、組織の期日前投票呼びかけに留まらず、広く一般有権者にも徐々に期日前投票の認知や習慣が根付いてきたことと関係しそうだ。

結果、台風の影響があっても前回並みの最終投票率となったわけで、それだけ県民の関心は高かったと言えるだろう。

JX通信社 代表取締役

「シン・情報戦略」(KADOKAWA)著者。1988年(昭和63年)山口県生まれ。2008年、報道ベンチャーのJX通信社を創業。「報道の機械化」をミッションに、テレビ局・新聞社・通信社に対するAIを活用した事件・災害速報の配信、独自世論調査による選挙予測を行うなど、「ビジネスとジャーナリズムの両立」を目指した事業を手がける。

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