北朝鮮のミサイル発射「報道」で地下鉄と新幹線がストップ、果たして適切か?

ミサイルを発射し続ける北朝鮮。日本の市民生活にも影響が。(写真:ロイター/アフロ)

29日朝6時7分ごろ「北朝鮮がミサイルを発射した」との報道を受けて、東京の地下鉄や北陸新幹線などが一時運転を見合わせた。言うまでもなく、ミサイルは日本国内に着弾したわけではない。間もなく運転を再開したが、1万3000人の乗客に影響が出たという。

Jアラートでなく「報道」を起点にストップ

今回特異だったのは、東京メトロ各線が「北朝鮮のミサイル発射情報」を理由に運転見合わせとなった初めてのケースであるだけでなく、Jアラートなどを通じた政府からの発報を待たず、報道「だけ」で運転見合わせに至ったことだ。

北朝鮮によるミサイル発射は、今月だけでも3回目だ。5日には日本海に面した新浦から弾道ミサイルが発射され60キロほど飛行したほか、16日にもほぼ同じ場所からミサイルが発射され、直後に爆発したとされる。また、先月22日に発射されたミサイルは午前11時前に共同通信が日本政府関係者の情報として初めて報道し、韓国メディアもそれを引用して報道している。

このように、ミサイル発射の報道そのものは過去の事例が多いにも関わらず、今回に限っては「地下鉄の運転見合わせ」という過去になかった対応がとられたことで、異質ぶりが目立った。同様の対応は北陸新幹線でもとられた。NHKによると、JR西日本の金沢にある指令所で発射の「報道」を知ったことで、一時運転を見合わせたという。

ただ、現実には、こうした報道発の対応で鉄道を止めても目的とする「安全対策」に資するかどうかは疑わしい。

知られていない意外な「時間差」

韓国メディアによると、今回ミサイルが発射されたのは朝5時30分ごろとされている。日本国内の報道でこの発射情報が伝えられたのは、それから40分近く経った朝6時6分(NHK)だ。この時の各社の国内初報はいずれも韓国最大の通信社である聯合ニュースに依拠している。東京の大半のテレビ局や通信社などの報道機関、企業に緊急情報サービスを提供している我々JX通信社でも、同じ6時6分に情報を各社に通知している。

その聯合ニュースが情報源としているのは韓国軍であり、今回のミサイル発射情報は韓国軍→聯合ニュース→日本メディアというルートを通じて鉄道事業者や一般の人に伝わったことになる。

このように、日本で報道される海外発の情報は、一定の時間差を含むことが多い。日本では「今」報道されたものであっても、現地では30分~数時間前に報道されているケースであることはざらだ。まだしも日本で関心の高いミサイルの話題だけに、今回は転電にほとんどタイムラグが無かったが、他のケースでは海外メディアの転電によるニュース配信には更にもっと長い時間がかかるのが通例である。

有事における国民保護のための「Jアラート」

鉄道各社は、今後は「Jアラートを基準に対応を決める」としているというが、このJアラートは小泉政権下の有事法制で制定された法律に基づき構築されたものだ。有事法制は9.11米同時多発テロやその前の北朝鮮不審船事件などを契機に、強い反対はありつつも推進されたものである。その趣旨は「国民保護」であり、その一翼を担うJアラートも政府から自治体や公共交通機関などに「瞬時に」情報を伝えることを目的としている。

このJアラートで発報対象となるミサイルの情報は、日本の領土や領空などに飛来する可能性があることが前提だ。北朝鮮のミサイル発射情報は、日本海に展開するイージス艦や青森・京都に配備されているXバンドレーダーなどで覚知された後、政府が日本領にミサイルが飛来する可能性があると判断した時に発報するものである。発報する前提が国民保護であるだけに、避難などの呼びかけに直結するものであり、韓国軍やその情報に依拠する韓国メディアよりも性質上速くなる。

実際、その「速さ」が証明された事例もある。2012年12月に弾道ミサイルが発射された際には、9時49分に発射されたミサイルについての情報が2分足らず後の9時50分過ぎにはJアラートで発報されている。この時、当該ミサイルは沖縄上空を通過しフィリピン沖に落下したとされるため、Jアラートでの発報に至ったわけだ。

言い換えると、日本の領土や領空に届かないミサイルの発射有無や成否を都度速報してくれる「国営ニュースサービス」ではない、ということに留意が必要だ。

東京メトロもJR各社も今後は「Jアラートを基準に対応する」としているようだが、上記のようにJアラート発報と、海外発の報道それぞれの性質を踏まえると、そのJアラート基準の対応方針こそが適切と言えるだろう。北朝鮮から日本を狙うミサイルの場合、発射から10分も経てば着弾している可能性が高いとされる。こうしたミサイルについて、一報までに一定のタイムラグが避けられない外信の転電報道だけを起点に動くというのは情報の吟味が不足した過剰反応であり、乗客などのパニックの原因にもなりかねない。慎重な対応が必要だったと言えるだろう。

「地上よりは地下、屋外よりは屋内」

では、もし実際に、私たちの近くにミサイルが飛んできたらどうすれば良いのだろうか。筆者を含む大半の日本人には戦時下の経験が無いだけに、適切な先例に倣うことが必要そうだ。ここでは、韓国で長年行われてきた「民防」(民間防衛訓練)を参考として挙げたい。

民防とは、北朝鮮の侵攻などの有事や災害などに備えて韓国国内で行われている訓練のことである。最近は頻度も緊迫感も減っているとされるが、1995年には阪神大震災を受けて地震災害を想定した内容の訓練が行われたほか、2010年の延坪島砲撃事件後には通常より規模を拡大した訓練も行われたという。

1988年1月16日の朝日新聞記事では、この民防について以下のように紹介されている。

毎月15日は北朝鮮の空襲を想定した「民防の日」。道を走る車はすべてわきに寄って止まり、バスやタクシーを降りた人が地下道に駆け込む。ビル内の電灯も消され、人影の消えた町は静まり返る。20分後、再びサイレンが鳴り、市民が活動を再開。

出典:1988年1月16日 朝日新聞記事より

こうした訓練の模様を伝えた韓国国内の過去の報道では、避難の原則は「地上よりは地下、屋外よりは屋内」だとも記されている。実は、同様のことは日本の消防庁の資料にも記載されているので紹介したい。

核攻撃に際して、安全な地域へ広域的に避難するいとまがない場合、被害軽減の観点から、以下の避難がより効果的。

1. 屋外より地上の屋内施設、

2. 地上の屋内施設では、木造施設よりコンクリート造施設

3. 地上の屋内施設より地下施設

屋外 < 木造施設 < コンクリート造施設 < 地下

「国民の保護に関する基本指針」(「基本指針」)における核兵器攻撃の際の避難のポイント(総務省消防庁)より

つまり、「地上よりは地下、屋外よりは屋内」に加えて「(屋内施設避難の場合)木造よりはコンクリート造」である方が良いという。

今年に入って行われた北朝鮮のミサイル発射実験はその多くが失敗しているものの、当然、それをもってして今後私たちの身近な場所に着弾しないとは言えない。実際に「有事」となった際には混乱はつきものであり、情報を瞬時に正しく見極めるだけでなく、こうしたシンプルな対処法を頭に入れておくことも重要かもしれない。