Yahoo!ニュース

フレックスタイムVS在宅勤務? ホンダの「ノー残業デー廃止」が意味するもの

横山信弘経営コラムニスト
(写真:ロイター/アフロ)

ホンダが4月1日から定時退社日(ノー残業デー)を廃止した。

フレックスタイム制の利用者が増える中、かえって退社時間を制約してしまうことが課題だったとされる。しかし、この取り組みが本当にうまく機能するのか、疑問が残る。

時代が多様性を求める現代において、なぜホンダは在宅勤務を原則禁止し、ノー残業デーを廃止するのか。

(ホンダは2022年5月から全従業員を原則週5出社に移行した。いっぽうNTTは同年7月から最大3万人にテレワークを推奨している)

今回のコラムでは、意外とも思えるホンダの決断、その意図や考え方についてを考察する。働き方改革に関する新しい視点も手に入るだろう。ぜひ最後まで読んでいただきたい。

■多様性を尊重する時代にあって、企業が一本化を図る意義は?

私がそもそも疑問に思うのは、多様性の時代なのに、なぜ今さら一本化を図るのか、ということだ。

ノー残業デーがいいとか悪いとか、在宅勤務がいいとか悪いとか、そういうことではない。

個々人の働き方やライフスタイルに応じた柔軟な対応が求められる時代だ。企業が一律のルールに固執してしまうことは時代にそぐわないと言える。

フレックスタイム制を利用する社員が増えたことは事実だろう。

しかし、実際の職場環境を考慮すると、残業を抑えるための「ノー残業デー」は依然として重要な役割を果たすと私は思う。

たとえば、早く出社して早く帰ろうと考える社員がいたとしても、遅く出社して遅く帰ろうとする上司がいれば、上司のプレッシャーや職場の雰囲気によって、帰ることが難しくなる場合がある。

いわゆる同調圧力だ。

「私はそんな圧力をかけた覚えはない」

と上司は言うだろう。しかし、良くも悪くも空気を読んでしまう日本人は、環境に強く影響を受ける。

マスクを外してもいいと言われても、なかなかマスクを外さないのが日本人なのだ。

さらに、ホンダは在宅勤務を原則禁止している(前述したとおり)。これが「ノー残業デー」の必要性をさらに高めていると思う。

在宅勤務では「同調圧力」を受けようがない。働く時間をより自由にコントロールできる。しかし出社が前提となると、そのような自由度は低くなるのだ。

だからこそ「ノー残業デー」が必要なのだと私は考えている。

■それぞれの働き方のメリット・デメリット

時間帯をずらすフレックスタイム、そして働く場所をずらす在宅勤務(テレワーク)等。それぞれメリットとデメリットがあるのは、ご承知の通りだ。

それでは整理するために、それぞれ代表的なメリット・デメリットを書き出してみよう。

●フレックスタイム

【メリット】柔軟なスケジュール

自分の都合に合わせて働く時間帯を選ぶことができる。それによって、ライフスタイルや家庭の状況に合わせた働き方ができる。

【デメリット①】不足するコミュニケーション

勤務時間帯が異なるため、社員同士や上司とのコミュニケーションが減少する。

【デメリット②】業務分担が難しくなる

従業員の勤務時間が重ならないと、業務の引継ぎや共同作業が難しくなる。

●オフィス勤務

【メリット①】対面コミュニケーション

職場での対面コミュニケーションが容易であり、情報共有や問題解決がスムーズに行える。

【メリット②】社内リソースの活用

会社の設備やリソースを自由に利用できるため、仕事の効率が向上する。

【デメリット①】通勤時間

出勤が必要なため、通勤時間が発生する。従業員のストレスや疲労が増加する可能性がある。

【デメリット②】職場の環境

職場の環境によっては集中力が低下したり、話しかけられたり会議に誘われたりして仕事の効率が悪化することがある。

【デメリット③】時間外労働の増加

同調圧力により、周りが残業しているのに自分だけ早く退社できないという心理作用が働く場合がある。

●在宅勤務

【メリット①】通勤時間の削減

通勤が不要なため、通勤時間を削減でき、その分を仕事やプライベートに充てることができる。

【メリット②】自宅での働きやすさ

自分にとって最適な環境で働くことができるため、仕事の効率や集中力が向上する可能性がある。

【メリット③】ワークライフバランス

家庭と仕事の両立がしやすくなり、ライフスタイルに合わせた働き方が可能になる。

【デメリット①】コミュニケーションの困難さ

直接的な対面でのコミュニケーションが減少し、情報共有や問題解決が難しくなることがある。

【デメリット②】仕事とプライベートの境界の曖昧さ

自宅での仕事が増えることで、仕事とプライベートの境界が曖昧になり、メンタル負担が増加することがある。

【デメリット③】自宅環境の制約

家族やルームメイトとの共同生活で、プライバシーや静かな環境が確保できないことがあり、仕事に集中できない場合がある。

■個人と企業がそれぞれ柔軟に働き方を考える時代

それぞれの働き方には、メリット・デメリットがある。個人にとってのメリットが、会社側にとってのデメリットになる場合もある。そのため、

「何が最適なのか?」

と聞かれると、答えは一概にはない。個人の考えや職場の方針によるのではないかと私は思う。

会社にとっては、個人の考えや要望に合わせるわけにはいかないこともる。個人の都合を優先できないケースが存在するからだ。

だからこそ、各職場で対話を通じて方針を合わせるべきなのだ。

ホンダは日本を代表する大企業で全国に様々な職場がある。多岐にわたる事業や部署が存在し、多様なリーダー像もある。

だからこそ、企業が一律のルールに固執してしまうのはどうなのか、と思ってしまう。

企業だけでない。働く個人も自分にとって最もパフォーマンスが向上する働き方は何なのか? 常に問いかけ続けることが重要だ。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

横山塾~「絶対達成」の思考と戦略レポ~

税込330円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

累計40万部を超える著書「絶対達成シリーズ」。経営者、管理者が4万人以上購読する「メルマガ草創花伝」。6年で1000回を超える講演活動など、強い発信力を誇る「絶対達成させるコンサルタント」が、時代の潮流をとらえながら、ビジネスで結果を出す戦略と思考をお伝えします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

横山信弘の最近の記事