不機嫌なときの対処法 頭の中で飛び交う「ハエ」をどう減らすか?
■頭の中の「ハエ」の存在
機嫌が悪いとき、不機嫌なときというのは誰にでもある。何か腹立たしいときがあったとき、誰でも機嫌が悪くなるものだ。「機嫌が悪い」というのは「苛立つ」などの表現と異なり、その感情が一定の期間続いている状態を指す。したがって、できれば早めに対処してその状態から抜け出したい。そうでないと、機嫌の悪い自分に嫌悪して、さらに不機嫌になっていくからだ。
機嫌を悪くする原因は、多くの場合、誰かに不誠実なことを言われたり、されたりしたことが引き金だ。
「あれ? お客様から仕事もらえたんだ。君でも契約をとれるときがあるんだね」
「どうせ君みたいな若い奴は漫画しか読まないんだろう。たまにはこういうビジネス書でも読んだらどうかね?」
このように馬鹿にされたような態度をとられると、腹が立ち、そしてその感情が持続して、いつの間にか機嫌が悪くなる、ということだ。
一瞬だけ抱く感情なら、そのときに処理すれば終わりだ。しかし機嫌が悪いと、無意識のうちに頭の中で嫌な体験などを思い出してしまい、それらの思考ノイズが頭の中で乱反射してしまう。
正しい判断をするとき、論理的に物事を処理しようとするときには、脳のワーキングメモリーを活用する。しかし、頭の中に羽音を立てる「ハエ」がずっと飛んでいるなら、正常な処理はできない。誰だって、一刻もはやくワーキングメモリーの中からこの「ハエ」を取り除きたいと思うだろう。
■覚えておきたい2種類の体験
私はよくセミナーで2種類の「体験」について紹介する。体験は大きく分けると、2つの種類があることを覚えておこう。それが「外的体験」と「内的体験」だ。
●「外的体験」……現時点で起きている実際の体験のこと
●「内的体験」……想像やイメージ、頭の中での体験のこと
たとえば読書に集中しているときでも、いつの間にか他事を考えたりしたことはないだろうか。
5ページぐらい読んだはずなのに、後半の2ページほどは記憶にない。別のことが頭にあったからだ。電車の中で音楽を聴いていたはずなのに、目の前に座っている人が気になって音楽に意識を向けられない、ということもある。これらはすべて「内的体験」と呼ぶ。
それでは、機嫌が悪い人の頭はどうなっているか。そのメカニズムはこうだ。
●嫌な「内的体験」が頭の中で無限ループしている
●無限ループは脳の思考プログラムが引き起こしている
●脳の思考プログラムは過去の体験の「インパクト×回数」でできている
要するに、頭の中で嫌な「内的体験」が堂々巡りしているため、過去の体験によってでき上ったネガティブな思考プログラムがさらに強固になっていく。そのため、何かあるたびにこの思考プログラムが作動し、同じ「内的体験」が延々と続いていくことになる。
したがって、
小さな仕事であっても、契約がとれたとき喜ぶ前に、
「あれ? お客様から仕事もらえたんだ。君でも契約をとれるときがあるんだね」
という言葉を思い返してしまうのだ。
「一所懸命に努力しているのに、どうしてあんなことを言われなくちゃいけないんだ」
「自分が気弱だからか。話し下手だからか。それとも高学歴じゃないからか」
「学歴なんて関係ないと言う人は多いけど、実際はそうなってない」
「そういえば、どうして自分は大学に行かなかったんだろうか。親も高卒だから、大学の進学を勧めなかったんだろうか……」
このように、考えても仕方のないこと――まさに「ハエ」のような思考ノイズが脳の中を飛び回る。
■不機嫌な状態を悪化させないたった一つのこと
不機嫌を治す特効薬はない。しかし悪化することを防ぐことはできる。まず簡単な対策としては、とにかく他人に言わないことだ。
自分の機嫌が悪いことを他人に言うと、そのたびごとに過去を思い返して「内的体験」を増やすことになるからだ。これを追体験(フラッシュバック)と呼ぶ。「インパクト×回数」で思考プログラムができているのだから、当然、このような追体験は、ネガティブな思考プログラムを強固にしてしまう。
また、最悪の場合、別の種類の「内的体験」を増やしてしまうこともある。重大な問題を抱え、不機嫌になっているのならともかく、もしもちょっとしたことで機嫌を悪くしているのであれば、ほとんどのケースで、他人に言っても共感を得られない。
「そんなことで不機嫌にならないでよ。それぐらいのことなら、私なんか毎日のようにあるって」
「おいおい、それで最近、機嫌が悪いわけ? 冗談じゃない。そんなこと誰だってあるだろ」
……などと、一笑されるか、適当にあしらわれる。
しかしたとえ小さなことであっても、本人の頭の中では堂々巡りをしているのだ。正常な価値判断などできっこない。だからそのように軽んじられると、その体験によってよけいに不機嫌になっていくのだ。
「どうしてあの人は私を理解してくれないのだろう。頭悪いんじゃないの?」
「どうせ私の悩みなんて誰も理解してくれない。私は一人ぼっちだ」
このように頭の中で飛んでいる「ハエ」が二匹、三匹に増えてしまう。さらに誰かに話して軽く一笑されたりしたら、さらに三匹に増えてしまうだろう。
これは絶対に避けたい。
繰り返すが、機嫌が悪いときの特効薬はない。だから、できるとしたら頭の中の思考プログラムを作動するキッカケを減らすことが第一だ。
つまり考えないようにすること。他人に話すだなんてもってのほかだ。
自助努力で解決できないなら、その「内的体験」をしないような工夫をしよう。何か別の事柄に夢中になる、一所懸命体を動かすなど、「外的体験」に意識を向けることがいちばんポピュラーで即効性が高い。
新型コロナウイルス感染症の影響など、不確実性の高い事柄が多く起こっている昨今、なるべく多くの「ハエ」を頭の中に住まわせないことが重要だ。