行動力がない人に不可欠な知識「やり方のやり方」

(写真:アフロ)

あなたはM-1の審査員?

「以前からだいたい知っていた内容でした」「目新しい内容がなくて残念でした」

私たちコンサルタントがセミナーなどを開くと、アンケートにこのようなコメントが書かれることがたまにあります。

すでに本に書かれているような内容をセミナーで言われても意味がない。自分の知らない、新しいやり方を教えてもらえると思って参加したのにガッカリした――ということなのですが、これが出版社などメディア関係者に指摘されるならともかくです。一般企業の経営者、マネジャーに言及されると苦笑したくなります。

「M-1グランプリに出場しているわけじゃないんだから、斬新なスタイル、新しい笑いを求めるようなスタンスでセミナーに参加されると困る」と思うのです。

これは私だけでなく、一般的に「コンサルタント」と呼ばれる人たちが一様に持つ感想です。いまだに評論家タイプの経営者、マネジャーは多く、新しい知見に出会うと、それを誰かにひけらかしたくなるし、新奇性の低い情報には価値がないとレッテルを貼るのです。

高度情報化時代の副作用

高度情報化時代となった現在、以前は専門家だけが独占していた知識・情報を、誰でも簡単に入手できるようになりました。

ネットで検索すればいろいろな手法・メソッド・方法論が出てきます。少しお金を出して本を買ったり、セミナーに参加するだけで手に入ります。私たち経営コンサルタントが提供するサービスの分野では、「企業理念の考え方」「経営計画のつくり方」「人財育成の方法」「マーケティングの基本」……など。

以前なら数百万円~数千万円のコンサルティングフィーをいただいて提供していた問題解決ノウハウや仕組みが、です。

もちろん、それなりの訓練や経験を積まないかぎり仕事に生かせないノウハウもたくさんあります。が、それでも昔と比べれば、専門家が長年かけて編み出した多様な「やり方」が瞬時に手に入る便利さは、計り知れないほどの影響を現場に与えてくれます。

常に新奇性の高い「やり方」を探している「やり方コレクター」にとっては、いい時代となったと言えるでしょう。

しかし「やり方」がすぐ手に入る時代となったことで、多くの副作用を生み出すこととなりました。

「やり方」とは「やる方法」のこと。

「方法」を手に入れたら、あとは「やる」だけなのに、いっこうに「やる」に移行しない人が増えたのです。

たとえば現在が朝の10時で、東京にいるとします。そして今から24時間後の翌日10時に、札幌にいたいとします。東京から札幌まで移動する「やり方」は複数あります。

・飛行機

・新幹線

・鉄道(新幹線以外)

・自動車

・オートバイ

・自転車

他にも手段があるかもしれませんが、上記6種類の「やり方」を思いつき、東京から札幌まで移動する「やり方」の収集は終えたと仮定します。

こうなると、次のアクションは「やる」です。それしかありません。しかし実際にここまでのプロセスを踏んで意思決定しても、「やる」をしなかったらどうでしょうか。

翌日の10時に到着しなければならない、そしてその「やり方」を集め、意思決定した。なのに「やる」がない。とすると、どう考えてもおかしな感じです。

札幌まで移動する「やり方」を収集したいだけだったという「やり方コレクター」であれば仕方がありませんが、そうでないなら「やり方」を知った以上、「やる」を次にしなければなりません。

もし東京から札幌への移動という話であれば、常識では考えられないと誰もが思うでしょう。しかし、多くの職場でこのようなことが実際に起こっているのです。

すべての準備が整い、あとは「やる」だけという状態になっていても、「やる」をしないのです。

「今日のセミナーはとてもためになりました。こうすればわが社の生産性はもっと上がるに違いありません。あとはどうやるか、ですね」

このようにサラッと口にする経営者、マネジャーがたくさんいます。

「あとはどうやるか、ですね」

と。

当然その返答は、

「どうやるか、じゃなくて、あとはやるだけですよ」

……と、しか言いようがありません。

なのに、多くの人(しかも経営者やマネジャーが)は、

「あとはやるだけって言っても、そこが難しいんじゃないですか」

と、平気な顔で答えます。

こうすればダイエットができます。こうすれば英会話が上手になります。こうすれば営業スキルが上がります。こうすれば本を速く読めます。こうすれば組織の空気が変わります。こうすれば仕事の生産性が上がります。こうすれば先送りのクセがなくなります――。

いろいろな問題を解決するための「やり方」をその道のプロフェッショナルが考えて提案し、それぞれの「やり方」が有効であろうと本人も同意しているのです。

「とても参考になりました」

「これをやれば確実に痩せますね」

「この1on1ミーティングをすれば、部下の問題意識は変わるでしょうね」

などと言って。

しかし、決まって「あとはどうやるか、ですね」と自分から袋小路に入ってしまう。

「やり方のやり方」が必要な時代

このように、「やり方」を知っても「あとはどうやるか」と悩む人がいるわけです。「やり方」はわかったのに、まだ「どのようにやるのか」と悩むということは、「やり方のやり方」が知りたいということなのでしょう。

ですから、

「あとはやるだけと言っても、乱暴な。それが一番難しいんじゃないですか」

と反論するのです。

つまり「やり方」がわかっても「やる」をできないのは、「やり方のやり方」を知らないからであり、それが一番知りたい、ということなのです。

これだけ高度情報化時代になっても、業種も規模も関係なく、職場で起こっている問題は普遍的なものばかりです。

「上司と部下との人間関係」「業務の生産性」「管理者のリーダーシップ」「部下のモチベーション管理」……など。

これらのほとんどの問題解決方法は、10年も20年も前から公開されています。世界中に良書がたくさんあり、その多くは同じような「やり方」に集約されます。目新しいものが少なくなってきているのも現実です。

アイデアは発散と収束によって、練り上げられるもの。

すでに「やり方」のアイデアは収束に向かっているわけですから、私たちはどこの職場でも起こりそうな問題は、解決する「やり方」をすぐ手に入れられるようになっているのです。

結核やハンセン病は、一昔前、治りにくい病気と言われました。とくに結核は、戦後の昭和23年~25年において、日本の死因第一位だった病気です(厚生労働省調べ)。結核は今でも国内で1万人以上の方が発症する病ですが、治療法(やり方)が開発され、進化し、昔のように、治りにくい病気とまで言われることはなくなっています。

比較することは難しいですが、職場の問題を解決する多くの治療法、処方箋(やり方)が開発されているのにもかかわらず、多くの職場が相変わらず普遍的な問題を抱えて苦しんでいるのは、医師の立場と同じコンサルタントとしては腑に落ちないことが多いのです。

「やる」を分解する

「やるだけ」と言ってもやれないのは、東京から札幌へ移動する「やり方」のように、選択してあとは何かに委ねるだけではないからでしょう。ビジネス上の問題を解決するには、「やり方」を選択して行動に移すだけで自動的に成果が出るケースは稀です。

先述した「1on1ミーティング」を例にとってみましょう。

あなたは、1on1ミーティングという「やり方」で部下とコミュニケーションをとってみようと決断しました。1on1ミーティングが紹介されている書籍を読み、部下が主体性を持って課題解決するうえで、この「やり方」が有効だと判断したからです。

それでは、実際に「やる」をしようとしたときに、どうなるか。

本を読んだ翌日の朝、1on1ミーティングをしてみようと、まず部下のスケジュールを押さえるとき、このことを第一に考えるのです。

(そういえば、1on1ミーティングって何だっけ?)

と。

勢いのある人であれば、そんなことは気にしません。部下のスケジュールを押さえ、

「来週の水曜日から1ヵ月に1回、1on1ミーティングをやる。いいな」

と言えます。

「1on1ミーティングって何ですか?」

と部下に尋ねられても、

「やればわかるから」

などとごまかし、強引に押し切ります。そもそも、このように少しぐらい「やり方」について不理解であっても、勢いで行動できる人は、

「やり方はわかりました。あとはどうやるか、ですね」

といった発言はしません。

「やり方」さえわかればいい人であって、「やり方のやり方」はわからなくてもいい人です。

したがって、それ以外の人は、たいていの場合は、「やり方はわかった」と言いながら、いざやろうとしたとき、その「やり方」を自分が置かれた環境でやるための「やり方」がわかっていなかったと気づくのです。

たとえば自分が押しの弱い上司であり、部下が平気で口答えするような性格であれば、1on1ミーティングの本を読んで、「これはいいな。このやり方はいい」と思っても、すぐに次のような想像をするはずです。

(自分の部下に、1on1ミーティングのことを言ったらどうなるだろうか……)

「1on1ミーティングって何ですか? いつもやってる目標管理の面談と何が違うんですか」

「以前もキャリア・デベロップメントのための面談を何回かしましたけど、あれもいつの間にかなくなりましたよね。今度は継続してやるんですか」

「別にやってもいいですけど、月に1回もやる必要があるんですか。半年で1回でよくないですか」

実際にこういう反応があるかどうかはわかりませんが、妄想してしまうのです。そして、その反応に対して、次のように切り返せるかというと……。

「1on1ミーティングというのは、会社で決められた目標管理のための面談とは違う。何が違うかというと、ポイントは3つあってね――」

「たしかにこれまで、いろいろな形式の面談をやってきた。途中でやめてしまったのは自分の責任だ。悪かったと思ってる。しかし、今度は違う」

「1on1ミーティングは月に1回実施するほうが効果が高い。なぜかというと――」

……たぶん自分には無理だな、と思ってしまう。

だからこそ、

「やり方はわかりました。あとはどうやるか、ですね」

と言ってしまうのです。

「どうやるかと言いますが、あとはやるだけですよ」

と言い返しても、

「やるだけとは言いますが、それが難しいんじゃないですか」

と自然と口に出てきます。とくに、自分だけではなく、他者を巻き込まないと「やる」ができない場合は顕著です。

つまり「やり方のやり方」とは、書籍やセミナーなどオープンに公開されている「やり方」を、自分の置かれたシチュエーションで実際にやろうとしたときに、どのような課題を克服すると「やる」ができるのか、その「やり方」を指します。

前者の「やり方」は一般的、後者の「やり方」は個別具体的であるということです。

一般的な「やり方」を、自分の置かれた環境でどう実践するのか、その「やり方」さえも教えなくてはならないのか。

このように疑問を抱える人もいることでしょう。しかし企業の現場に入ってコンサルティングしているとその通りなのです。

本気度が高かったり、大きなプレッシャーを受けている場合は自分で工夫しようとすることでしょう。しかし、そうでない場合は「やり方のやり方」は必須です。これを知らないと、うまくいかないのを「やり方」の責任にし、

「このやり方は、当社には合わない」

「うちの業界で、こんなやり方をして、うまくいった例を見たことがない」

と、このように難癖をつけたくなります。

個別具体的な「やり方のやり方」さえ知っておけば、一般的な「やり方」さえ知れば、どんなことでも、たいてい「やる」ができるようになります。

世の中には、何をやってもうまくいく人、何をやってもうまくいく組織があります。その人たちはうまくいく「やり方」を知っているのではなくて、「やり方のやり方」をいつの間にか体得しているのです。

「やり方はわかっているけれど、なかなかやれない」という人は、「やり方のやり方」がわかっていないと知りましょう。

自分の置かれたシチュエーションで、何らかの「やり方」をどのようにやるのか。行動力がないと自覚している人、気合いで動くことができない人は、このような手引きを作っておくことが大事です。