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「名ばかり高プロ」は違法性が高い

横山信弘経営コラムニスト
高度プロフェッショナルの定義とは?(写真はイメージです)(写真:アフロ)

高プロをおさらいする

高度プロフェッショナルとは、高度な専門知識を有して一定水準以上の年収を得る労働者を指します。「働き方改革関連法案」によって時間外労働、休日労働などの割増賃金の支払いが除外される対象となりました。

高度プロフェッショナル――「高プロ」は、今年の「ユーキャン新語・流行語大賞」にもノミネートされており、注目を集めています。

さて、この制度は、長らく「残業代ゼロ法」と揶揄されつづけていました。それはなぜか? 法案が通ったあと、高プロの制度が形骸化される可能性が非常に高いと多くの識者が見ているからです。

現在、高プロは年収を「平均給与額の3倍を相当程度上回る水準」と規定しています(年収1075万円は参考値)。この水準は現在、全労働者の3%未満とされていますが、もしも、「労働者派遣法」の基準が緩和されていったように、この水準もまた徐々に引き下げられていけば、対象となる労働者も増え続けることでしょう。

榊原元経団連会長は以前「少なくとも全労働者の10%」と発言していることからも、思惑がうかがえます。

「名ばかり管理職」の二の舞に?

「名ばかり管理職」という言葉があります。管理職という肩書がついたおかげで、残業代などの割増賃金が支払われなくなった労働者を指します。

実際に労働基準法で定められている、割増賃金の適用外となる「管理監督者」とは、企業経営に携わり、自身の業務量も裁量的にコントロールできる人のことを指します。

私は企業の現場に入ってコンサルティングする身ですから、この定義からすると、かなり経営トップに近い人でなければいけないとわかります。部署を統括し、経営に対してハッキリ意見を言い、人事権などの裁量も持ち合わせている役職者です。

大企業でいえば「事業部長」「本部長」クラス。中小企業なら「専務取締役」「常務取締役」クラスでしょうか。大企業でも中小企業でも「部長」とか「課長」と呼ばれる人に、労働基準法が定める「管理監督者」が当てはまるかどうかは疑問です。

「部長になったとたんに、年収が激減した」

と愚痴をこぼすような人は、とても「管理監督者」と呼べません。肩書の割には権限がないうえ、責任ばかり押し付けられる人を「名ばかり管理職」と言って差し支えないでしょう。

十分な権限、厚遇を与えられた管理職でないかぎり「管理監督者」と認定されませんので、このような事案は違法性が高いと言えます。したがって「高プロ」も同様に、会社によって拡大解釈されることはないのでしょうか。

「部長」や「課長」といった、管理職っぽい肩書がついただけで「管理監督者」とする会社が存在するのは、厳密な基準を無視し、まさにニュアンスで物事を決めている文化が日本企業には多いからです。

「名ばかり高プロ」を考える

「名ばかり管理職」のみならず「名ばかり店長」という表現もメディアを賑わしました。ということは「名ばかり高プロ」も出てくる可能性があります。

そもそも「高プロ」とは、どういう人を指すのでしょうか。前出した年収の水準のみならず、「高度な専門知識を必要とする業務に従事している」ことが基準です。

「管理監督者」の定義よりも曖昧と言えるでしょう。現時点では、

・金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリストの業務(企業・市場等の高度な分析業務)

・コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案又は助言の業務)

・研究開発業務等

などを対象とするそうですが、明確には決まっていません。

年収が約1000万円以上で、上記の業務に従事する者に限定されるのであれば、多くの方に影響のない制度ですが、これで終わるはずがない。

全労働者の3%未満の人(しかも特殊な専門職)に影響のある制度が、どれほどこの国の働き方を変革させるというのか。いずれ適用範囲が広がることは間違いありません。

高度プロフェッショナルって?

そもそも高度プロフェッショナルという言葉は、正しい表現なのでしょうか。ネーミングとしてレベルが低いと私は思っています。

対象業務に私の職種である「コンサルタント」が入っています。同業のことを悪く言いたくはありませんが、コンサルタントの業界には「名ばかりコンサルタント」も多く、とてもプロフェッショナルとは言えない人もいます。

それは金融関係でも、研究開発職に従事している人もそう。お客様のことを本気で考え、金融商品を提案するプロ意識の高い金融関係の人はいったいどれぐらいいるのか? 

日本の将来、人間の未来を考えて研究開発に勤しんでいる人はどれぐらいいるのか? 名誉欲に駆られた研究者を排除すると、どれぐらいの割合がプロと呼べるのか。

「プロフェッショナル」は、NHKの名物番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介されるような方々を基準とされるほうがいい。現場に入っていると、昨今「プロフェッショナル」という言葉を軽々しく使う人が増えていることに強い違和感を覚えます。

そして「高プロ」です。

繰り返しますが「高プロ」とは、高度プロフェッショナルの略。言葉だけを捉えるなら、「プロフェッショナル 仕事の流儀」で紹介される人たちよりも、さらに高度なプロフェッショナル意識をもった方を指します。あくまでも私の定義では、ですが。

いずれにしても、金融関係で働こうが、コンサルタントと名乗ろうが、プロフェッショナルかどうかは別次元の話です。「特定の専門職=プロフェッショナル」ではありません。

したがって、高度な情報処理技術者も、高度な溶接工事をする方も、高度な技術でコーヒー焙煎する方も、みんな「高プロ」。軽々しく「高プロ」と制度名を付けた以上、「名ばかり高プロ」が増え、労務上の問題を抱える企業が増えるような気がしてなりません。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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