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営業・マーケティングコンサルタントが指南する「お金の使い方」「お金の貯め方」

横山信弘経営コラムニスト
カードはできる限り持たないほうがよい(写真:アフロ)

家計簿を買いに、ムダなお金を使った過去

数年前、ふと家計簿をつけようと思い、本屋へ行こうと決めました。家の近くに本屋さんがないため、車で郊外のGMS(総合スーパー)へ向かいます。GMSに展開している大型書店なら、家計簿の品ぞろえも豊富だろうと考えたからです。

GMSに行くと決めたら、妻も子どもたちもついていくと言いだしました。車に乗って15分運転し、妻は雑貨店へ。子どもたちはファンシーショップやおもちゃ屋へ。私は家計簿と、書店で目についた本を数冊購入し、その後、妻たちと合流して食材や日用雑貨の買い物。そうしているうちに昼近くになったので、「どうせならここで食べてく?」という話になり、人気ハンバーグ店の行列に並んでランチをしました。

妻や子どもたちが生活に必要のないモノを買っていたことへの不満を口にしながら、20分近くかけて運転し、帰宅。帰宅後、家計簿を買ったことなどすっかり忘れ、書店でついでに買った雑誌を眺めながら私は時間を過ごしました。夜になり、いざ家計簿をつけてみようかと今日GMSで支払った品目を整理します。すると途端にバカバカしくなりました。

何をやってるんだ! 私の選択は間違いだった――。

と。

家計簿を「GMSの大型書店で買いたい」という意思決定をせず、ネット書店で買っていたら使わなかっただろうお金を算出すると【1万2808円】にのぼります。その金額は、妻や子どもたち、そして自分自身も、GMSという「誘惑係数」の強い場所で消費欲を喚起されて支払ったお金の総額です。

買い物は、それ自体が「エンターテイメント」。私は常にそう思っています。ですから、少しぐらいムダなお金を使ったからといって、目くじら立てる必要はありません。しかし「おもちゃ屋さんに行かなければ、そのおもちゃを欲しがることはなかったはず」「そのキャンペーンさえ目にしなければ、ダイエット最中にそのショートケーキを食べたいとは思わなかったはず」というような、明らかに必死に自己肯定しないかぎり説明できない買い物は、ストレスをためる支出です。

終わったあとで自分の意思決定を、みずから否定するのは難しい。しかし、それをやらないのであれば「家計簿」など意味がありません。

コストは「1万2808円」の支出だけではありません。GMSへの移動や滞在に要した時間、ハンバーグ店の行列に並んだとき、帰りの運転中に渋滞にはまったときのストレス(精神的コスト)、なんといっても妻や子どもたちに「ムダなものばっかり買って!」と愚痴ったあと、「お父さんだって要らない雑誌買ってた!」と言い返されたときのストレス。これらも大きなコスト。支出です。

コストは3種類に分けて算出する

私はこれらのコストを「スケールテクニック」を使って計算するクセがあります。スケールテクニックとは、自分が抱いた「感覚」を数値化するテクニックのことで、先述した「浪費した時間」「浪費したストレス」を、数字に変換し、お金と合わせて認識するようにしています。

紙幣や硬貨といった物質的なモノではなく、お金という概念によって脳の報酬系を刺激することが目的のはずです。しかし、報酬系を刺激するのは「お金」だけでありません。そう理解できれば、マイナス要素となるコスト(経済的コスト、時間的コスト、精神的コスト)の存在意義もわかると思います。

世の中の「誘導システム」を知る

私は平均以下のサラリーしかもらっていない時期から、それほどお金に困ったことがありません。家が貧乏だったことから、散財しないクセがあったかというと、そうでもありません。親と同居していたわけでもなく、可処分所得が高いわけでもなく、節約する習慣もなかったのですが。(資産運用など、お金を増やす工夫も何もありません)

営業・マーケティングのコンサルタントになってからでしょう。自分の購買決定の「クセ」がわかったのは。

私はその場の雰囲気や、周囲の空気に流されて消費することがほとんどないのです。典型的なのは、観光地でのお土産です。私は旅行へ行っても、昔からお土産を買うことがありません。おそらく、お土産屋でアルバイトした経験があるからでしょう。お土産の中身、原価、作られるまでの工程……。裏のカラクリを知れば知るほど購入できなくなったのです。

ファストフード、喫茶店、ファミレス、一流レストラン……など、それなりの飲食店でも働いた経験がありますから「裏側」を知っています。知れば知るほど、外食を控えるようになりました。

コンサルタントになってからは、ドラッグストアやコンビニの裏側を知ることができました。知れば知るほど、何をどこで購入したらいいのかもわかってきますし、何より

「どのようなキャンペーン、どのようなプロモーション、どのような誘導システムに影響を受けて購買決定をしてはならないか」

を知ることができました。

マーケティングの仕組みを知れば……

現場に入って営業やマーケティングの支援に入っていると、ドンドン世の中の仕組みがわかってきます。いかにして消費者にお金を1円でも多く支払ってもらうか。100円よりも150円、1万円よりも1万3000円、100万円よりも120万円……、その積み重ねが企業の財務基盤を潤します。

大型の駅に行けばそこらじゅう設置されたデジタルサイネージを目にします。レストランに入って紙のおしぼりをもらえば、そこに広告が入っています。前述したGMSやコンビニには、「インストア・マーケティング」の技術を駆使した誘導システムが張り巡らされています。もちろんネットのショッピングサイトも同様。アマゾンや楽天、ゾゾタウンへアクセスすれば、欲しい物を欲しい分だけ買うのは難しいでしょう。

キーワードは、「完璧をめざさない」

「誘惑係数」という指標を持ちましょう。

私が心掛けていることは、こだわりがないことに完璧を求めない、ということです。先述の家計簿がいい例です。せっかく家計簿をつけるなら、何が一番いいのか? 自分に最適な家計簿を選びたいと考えてしまった、だから品揃えの豊富な大型書店へ出向きたいと思ってしまった、この意思決定がなければ、家族そろってGMSへ出かけることもなかったのです。

ですから、こだわりのない品を購入する場合は、身近で手軽な選択をするようにします。楽しみのためならともかく、車や電車を使って買い物へ出かけません。定価販売であろうが、コンビニで入手できるもので十分。最近は、方眼紙のノート、ボールペン、シャツや靴下、ハンカチ、整髪料、清掃用具などもコンビニで買います。品揃えは限られていますが、GMSやデパート、ネットショップよりは誘惑が少ないのです。

コンビニやドラッグストアなどは、客単価を上げる努力より、来店数(リピート率)をアップさせるマーケティング戦略をとっています。そのため「誘惑係数」が低い店舗と捉えます。

「誘惑係数」が高い場所は、郊外にあるGMSや駅前にある大型デパートなど。

その場所へたどり着くまでにコストがかかるため、来店客は支払った時間や労力というコストを回収しようと「せっかくだから●●も見ていこうか」ということになり、余分な「経済的コスト」を支払いたいという心理効果(サンクコスト効果)が働きます。

店舗側も、一回の「客単価」を最大化したい戦略をとりますから、店舗内の「誘惑係数」はきわめて高い。

キッカケは小さなことでも(本を買いにいく。電球を買いにいく等)、「誘惑係数」が高い場所へいくと、支出の総額が大きくなります。住宅や車、スマホ……なども同じ。所有するときに支払うコストのみならず、維持し活用するために支払うコスト(時間や労力を含む)も加味しないと、大事なことを見失ってしまいます。

株や不動産などで資産運用するときも同じ。

資産運用して得る「絶対的な金額」のみに意識を向けるのは愚かです。ボタンひとつでお金が増えていくはずはありませんから、正しく資産運用するための勉強時間、見知らぬ人との交渉、失敗体験によって受けるストレス……なども加味しなければならないのです。

お金を使うときのコスト、お金を増やすときのコスト……。特に何か大きな決断をするときは、正しく理解してからにしましょう。私の知人で、お金が欲しいからといって不動産投資をはじめた人がいます。現時点では確かに資産は増えているようですが、不動産投資をスタートさせてから失った諸々のコストを考えると割に合っているようには見えませんでした。

(不動産投資など資産運用そのものを楽しめると、たとえコストがかかっても精神的報酬は得られます)

ポイントカードとの付き合い方

「誘惑係数」という概念で考えた場合、ポイントカードはできる限り持たないほうがいいでしょう。よほどポイント集めが楽しいと思えない限り、「ノイズ」「雑念」を自動発生させる装置のようなもの。

私たちコンサルタントが店舗マーケティングを支援するとき、必ずお客様のデータベース化、ロイヤルカスタマー化をどうするかを考えます。「客単価」も「リピート率」もアップできる取組みであるため、あらゆる手段を使ってお客様に専用カードを持ってもらうよう仕向けます。

お客様のお得感アップ、利便性アップのためだけに、企業側がポイントカードを用意するはずがありません。ポイントカードを運用するために企業側が支払うコストは、人員や情報システムなどを含めて大変な額にのぼります。さらに、会員募集のために大規模キャンペーンをすれば、電通や博報堂などの広告代理店に支払うコストも尋常ではないほど膨らみます。

そういった大きなコストを企業が支払っても回収できると考えているわけです。それだけポイントカードを作れば作るほどお客様は損をすると考えたほうがいいでしょう。「そんな世の中のカラクリはわかってる。でも私はポイントカードをうまく利用し、損はしていない」と考える人は「自信過剰バイアス」にかかっているでしょう。

人間の消費行動は、後付けで肯定する傾向があり、「企業のマーケティング戦略に引っかかってムダにお金を支払った」などと、なかなか自覚できないもの。

ポイントカードは、習慣化された消費行動だけのために作ります。毎月必ず利用する飛行機、毎回必ず行く美容院。必ずここで買うと決めているドラッグストアでは、あってもいいでしょう。しかしそうでなければすべて断ります。「自動ノイズ発生装置」を手に入れるだけだからです。

店員から「ポイントカードを持ってますか?」と尋ねられてはじめて「ああ、そういえば持っていた」と思い出すぐらいのレベルならOKです。店員に言われる前からポイントカードを出すような人は、ポイントを意識し過ぎ。

ポイントを貯めることに意識を向けはじめると、消費行動に影響を与えます。「あと1000円買えば、ポイントが余分につく」「どうせいつかは買うんだから、ここで買えばポイントが増える」という雑念は取り払いましょう。

「マインドフルネス」の理屈で「今・ここ・自分」に意識を向けます。ポイントが貯まったあとにもたらされるメリットに心を奪われるということは、「今・ここ・自分」に意識を向けていない証拠。「雑念」というコストを支払っていることになります。

家計簿は必要なのか?

冒頭に書いた通り、一度は家計簿をつけようと決意した私でしたが、元来ずぼらな性格ですから、すぐにやめてしまいました。なぜなら「家計簿つけなきゃ」「レシートとっておかないと」「使ったものを分類分けしてメモろう」という行為そのものがストレスだからです。このストレスがコストそのものですから、家計簿をつければつけるほど支出(コスト)が増えることになります。(ゲーム感覚で家計簿をつけられる人ならいいと思います)

企業に「管理会計」は必要です。「財務会計」だけでは、お金をマネジメントしているとは言えません。しかし家計にそこまでの思想を取り入れる必要があるのか疑問です。家計のやりくりに四苦八苦している人、ストレスなくできる人はいいでしょうが、そうでないなら考えものです。

これだけ情報があふれる時代ですから、細かく管理しようとすると、心が狭くなってきます。先述した「誘惑係数」を意識し、あまりに大きな「誘惑係数」がある場所には近づかないとルールを決めるだけでも、コスト(支出)の総額は減っていきます。

細かくセルフマネジメントしなくても、シンプルなルールを決めるだけにしましょう。ストレスなく継続できることが一番いいことですから。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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