スーパーコンピューター「京」の技術で『売れる商品』を見つけられるか?
富士通はスーパーコンピューター「京」の技術を使い、ビッグデータ解析の精度を格段にアップさせるシステムを開発し、このほど発表いたしました。(引用元:富士通、「京」の技術で誤差半分に ビッグデータ解析)
この高速分析システムにより、過去の商品アイテム、購入実績、価格、景況感、気候などのデータと組み合わせながら、精度の高い販売予測をすることができるようになります。このような分析システム、解析手法は過去からあり、目新しい発想ではないですが、スーパーコンピューター「京」の技術を使うことで、より高速に、高度なデータ解析が可能になる、ということだと言えます。
私は営業・マーケティングのコンサルタントですから、主にマーケティング分野におけるビッグデータの可能性や活用範囲に強い興味があります。経営の意思決定にビッグデータが役立つのであれば、経営者はどれだけ大枚をはたいてでも手に入れたいと思うことでしょう。「何が売れるのか?」「いくらで売れるのか?」「どれだけ売れるのか?」「いつ売れるのか?」「どこで売れるのか?」「どのような方法で売れるのか?」……といったデータの精度が100%に近い確率で知ることができるのであれば、夢のような話。意思決定に迷いは生じません。そのデータが示す通りにマーケティング戦略を策定し、粛々とそれを実行すればよいだけだからです。
ところで、本論に入る前に、ここでビッグデータの特徴「3つのV」を簡単に触れておきます。
● 容量 (Volume)
● 種類 (Variety)
● 頻度 (Velocity)
ビッグデータと聞いて誰もが思い浮かべるのが、文字通りその巨大な容量(Volume)です。しかしそれだけではなく、異なる属性(Variety)のデータが膨大にあってはじめて理解できることがあります。いわゆる異属性データの組合せである。そして何よりスピード(Velocity)。市場環境がめまぐるしく移り変わる昨今、データの更新頻度はとても重要なファクターです。ですから、ツイッターやフェイスブックなどで投稿された記事や写真、各種機器やセンサーなどの反応データ、消費者の購買情報などバラエティに富んだデータがビッグデータの対象となり得ます。
「1万人以上フォロワーがいる人がツイッターでこのフランス製ワインを紹介すると、東京目黒区のスーパーで9月22日の午後4時から3時間で57本売れる」
とわかれば、そのスーパーは、その時間帯になる前にそのワインを仕入れ、陳列しておくだけでいいのです。あとは勝手に売れていくのを待つだけとなります。
ただ、問題は、そんなことが本当にわかるのか?ということです。
別の発想を考えてみます。ビッグデータなどを使わず、商品のターゲット層を想定してアンケートを作り、1000人、2000人の対象顧客に調査したらどうでしょうか。いわゆる古典的なマーケットリサーチです。しかし、ここでよく考えてみましょう。本当にお客様の声を拾えば、売れる商品を開発することができるのでしょうか。もしも本当にそうなら、あらゆるメーカーは売れる商品をこれまでも簡単に開発できたはずです。時代のニーズに合った商品を市場に投下すれば、確実に売れたでしょう。しかし現実はそうなっていません。
なぜあの商品は売れたのか? というヒット作の考察は常に「後付け」で、残念ながら事前にはわからないものです。
脳科学の研究によると、人間の言語報告による「主観評価」と、脳の快・不快を示す「情動データ」に相関関係がないことがわかっています。正しいのは、言葉ではなく脳波です。意識と行動は微妙にずれているということでしょう。
「A・B・C」という商品があり、アンケートをとったところ、「A」が一番支持を集めたにもかかわらず、脳波を調べてみると、実際には「B」と接したときのほうが快楽の情動データが大きかった場合、結果としては「B」のほうが売れゆきが良いのです。つまり人の「言葉」に代表されるような静的データには限界があるということです。とはいえ、市場ニーズを把握するために1000人、2000人単位の脳波を計測するわけにはいきません。したがって、ここに人間の「行動」という異なる属性のデータを組み合わせるのです。
人間の行動が指し示すデータは、いろいろな器材、システムに記録されています。その行動の内容はもちろんのこと、その日時、頻度、種類を掛け合わせることで、どんな商品が売れるのか? 商品単価をいくらにすると利益が最大化するのか? どのようなプロモーション活動が最も効果的か? といったマーケティング情報が、ビッグデータの活用によって、正確に近い「答え」を導き出すかもしれないのです。(あくまでも可能性です)
前述したとおりビッグデータのキーワードは「3つのV」。構造化・非構造化を含めたさまざまな種類の/高頻度で更新される/膨大な量のデータが存在する業界であれば――たとえば大規模小売業――活用の幅は広がると私は思います。とはいえ、「売れる新商品」までデータ解析によって言い当てることは難しいでしょう。なぜなら、膨大に更新される過去データの蓄積があってはじめて理解できることがあるのですから。