欲求不満、フラストレーション・ゼロの「ゼロフラ企業」への道
過重労働、違法労働によって若者を「使い捨て」にするような「ブラック企業」問題が、昨今の日本経済に暗い影を落としています。いっぽうで、「ブラック企業」「ブラックバイト」「ブラック上司」などといった言葉だけが独り歩きし、理不尽な要求を会社側につきつける「モンスター社員」の存在も大きな社会問題となっています。
承認欲求の高い若者は、適度に褒められたり認められたりしないと「モチベーションが上がらない」と言い出しますし、不器用な上司は「最近の若者は気合が足りん」といって、部下たちの意見を理不尽に退けます。
昔と違うのは、やはりインターネットの存在です。立場が弱いのはダンゼン会社側。会社に対するフラストレーションをネットの掲示板にでも書き込まれたら、実情がどうあれ同調するネット住人が拡散し、マスコミが取り上げ、会社側は窮地に立たされます。そこまで行かなくとも、「若者を使い捨てにするブラック企業」と噂が立てば、若くて優秀な人材を採用することが困難になっていきます。
中小企業にとっては深刻な問題です。20人、30人しかいない社員がフラストレーションをためた状態で働いていると、経営に対する影響度が大きい。採用難の時代ですから、誰かが辞めたときの代わりがなかなか見つからない、という事態にもなります。そもそも「フラストレーション」とは、直訳すると「欲求不満」です。欲求があるにもかかわらず、それが叶わない状態が続くと、
「フラストレーションがたまっている」
という表現をします。
こういった従業員のフラストレーションを極力なくし、風通しのいい組織にするにはどうすればいいか。今回は現場でのコンサルティング体験、実施手法などについて簡単に触れます。
さて、世の中には「社員満足度調査」というものがあります。多くの企業で実施されていますが、現状に満足しているかどうかという物差し・価値基準は人それぞれ異なります。そこで「社員”不満足度”調査」を実施してみるのです。「問題」という言葉は、「あるべき姿」と「現状」とのギャップを指します。しかし多くの人は、問題点を挙げることはできても、どうあるべきなのかを明確に表現することができません。研修形式で社員を集め、「あるべき姿」をディスカッションさせても、
「地域に貢献していきたい」
「働きがいのある職場であるべきだ」
「お客様の笑顔が見られるサービスをしよう」
「美味しい食事を出せるお店でありたい」
といった、かなり上位の概念しか出てこないものです。「もっと身近な行動レベルで出して」と問い掛けても、意外に難しいのです。
そこで、前述したように社員の「不満足(フラストレーション)」を調査してみます。「あるべき姿」と比較して愚痴や不満は書きやすいですし、以下のような、より身近な意見がたくさん出てきます。(もちろん、誹謗中傷のような意見は論外。建設的な意見を書くよう事前にフレーミングすることが不可欠です)
「社長が職場の5Sを徹底しろと言っているが、実際に5Sを意識している人は半分もいない」
「目標管理制度が導入されたが、定期的に面談が行われていない。ちゃんとやってほしい」
「営業で茶髪はどうか。特に男は髪を黒くしたほうがいい」
「経営陣の中で挨拶を返してくれない人がいる。とても残念な気持ちになったことがある」
「レジに並んでいるお客様がいるのに、商品の陳列ばかりしているスタッフがいる。店長は注意してほしい」
このような「不満」「フラストレーション」を集め、そのうえで議論をしていきます。
「目標管理制度の運用ルールが曖昧だったようです。管理者任せにするのはやめましょう。では、運用ルールはどうあるべきなのでしょうか?」
「営業の髪の毛の色はどうあるべきなんでしょう? 他社のことはいいですので、みんなで考えてみませんか」
「挨拶を返さない経営幹部がいるというのは話にならない気がします。これは議論の余地がないですよね。あと、社長方針でもあるので、5Sはキッチリやるべきです」
「店舗における動きで、他に気付いたことがありませんか?」
……このように意見交換することで、「職場環境」「身だしなみ」「時間の概念」「上司と部下との関係」「営業とお客様とのコミュニケーション」等、いろいろなシーンにおける「あるべき姿」を再認識・再定義できるようになっていきます。
重要なことは以下の2点です。
●「全員参加」でディスカッションする
●「外部」のファシリテーターに依頼する
まず第一に「全員参加」でディスカッションすることです。大勢になる場合は、グループ分けして意見交換します。しかるべき管理者だけ集めて「あるべき姿」を定義し、その価値観を社員に押し付けるようなことはやめましょう。特に中小企業であれば、なおさら気を付けたいですね。「あるべき姿」の内容ではなく、決めるまでのプロセスが大事なのです。幹部やマネジャーが集まって決めても同じ内容になることがほとんどですが、全員参加で決めたという歴史が社員の不満をなくす抑止力となります。
また、ファシリテーションは外部の人に任せましょう。たとえ社内にプロ級の人がいたとしても外部の人に託すのです。ファシリテーションの「腕前」の問題ではありません。組織のしがらみのない人に議論を仕切ってもらうことが大切です。社内の管理者が議事進行役をやってしまったら、たとえ「全員参加」となっていても、担当者レベルの人、契約社員の人は意見を出すことができなかったり、ヒドイ場合は、
「不満足度調査をしたら、こういう不満を書く人がいたけど、誰なんだろうね。だいたい想像つくけどさ」
といった「犯人捜し」のような事態に陥ることもあります。これであれば、実施しないほうがましです。また、ディスカッションの場は、温泉地や海の近くなどのホテルや旅館がお勧めです。日ごろの「ねぎらい」の意味も込めて、一泊二日で研修旅行をしながらしてみてはいかがでしょうか。
現場のコンサルティング経験でわかっていることは、このような取り組みをする企業は、もともと「組織風土」が良い会社ばかりだ、ということです。組織風土が悪い会社は「社員のフラストレーションをあえて聞き出すだなんて、とんでもない!」と受け止めます。「臭いものには蓋」という企業体質があるからです。
「社員”不満足度”調査」をして、社員のフラストレーションをゼロにしたい、こういった取り組みを繰り返しながら社員の不満をゼロに近づけていきます。まさに「ゼロフラ企業」と言えるでしょう。
理念や社訓といった大きな心掛けのようなものならともかく、組織としての価値基準、判断材料をしっかりと定義していない企業は多いです。これを明らかにする取り組みを繰り返し、「ゼロフラチーム」「ゼロフラ組織」「ゼロフラ企業」を目指していきましょう。