「柔軟性がある人」と「柔軟性がない人」と、その他4つのパターン
頭も体も柔軟性がある(柔らかい)と、いろいろなシチュエーションでストレスや痛みを感じなくてよくなります。柔軟性がないと、不必要な軋轢(あつれき)を生み出し、人間関係に痛みが生じたり、自分の望んだ成果を手に入れられなくなることも多くなります。頭の柔軟性について「会話の”ゆがみ”を整える」という視点で考えてみます。
誰かと会話をしていて、話が「あさっての方向」へずれていったり、相手が会話の論点を「誤解」して話がこじれてきたりする場合があります。私はこういった現象を総称して「会話の”ゆがみ”」と名付けています。
次の会話文を読んでみてください。
部下:「部長、新入社員のAさんのことでちょっと相談に乗ってもらいたいんです」
営業部長:「ああ、要するにアレだろ?」
部下:「え」
営業部長:「入社して3ヶ月ぐらいしたら、誰でも1度はあることなんだよ」
部下:「いや、たぶんそういうことではなくて、ですね」
営業部長:「大丈夫、大丈夫。話せばわかることだから」
部下:「話せばわかるって、そんな。そういうことではなくて」
営業部長:「じゃあなんだ? 会社に不満でもあるっていうのか? 入社してまだ3ヶ月の子に何がわかるというんだ? 今の若い子は勘違いしてる子が多い。君も知っておくべきだ。たまにはガツンと言わないといけないときもある」
部下:「いえ、そんな……」
途中から会話のゆがみが発生しています。話が思わぬ展開となり、正しい会話のキャッチボールができなくなっているのです。
この会話の”ゆがみ”を正しく認知できるか、できないか。そして相手に合わせることができるか、できないか。これら4つの事象ごとに、人の特性を4パターンに分類してみたいと思います。それぞれ「柔軟」「頑固」「無邪気」「思考停止」と名付けました。
● 柔軟(会話がゆがんでいることを認知でき、”ゆがみ”を整えることもできるが、話し相手やシチュエーションによっては相手に合わせることもできる)
● 頑固(会話がゆがんでいることを認知でき、どんな場合でも”ゆがみ”を整えようとする)
● 無邪気(会話がゆがんでいることを認知できず、とにかく相手に合わせる)
● 思考停止(会話がゆがんでいることを認知できず、相手に合わせることもできない)
まず「頑固」の場合はどうなるかというと、こうです。
部下:「部長、話せばわかると言っておきながら、ガツンと言わなくちゃいけないと言ったり、おかしいですよ」
営業部長:「私は最初からガツンと言わなくちゃいけないと言っている」
部下:「言ってませんよ。最初は話せばわかると言いましたって」
営業部長:「なんだと? じゃあ、だったらどうだっていうんだ?」
部下:「自分の発言に一貫性がないんです。だから新人の子は悩んでるんですよ。はっきり言わせてもらって、部長のやり方にAさんがついていけないんです」
営業部長:「俺のやり方に文句があるっていうのか!」
会話のゆがみを見つけると、それを補正しないと気が済まないのが「頑固」のパターンです。「正義感」が強かったり、自分の意見に固執したりする人が多く、「柔軟」とは真逆です。
次は「無邪気」パターンを見てみましょう。
部下:「ああ、そうですかねェ。ガツンと言わなくちゃいけませんか」
営業部長:「そうそう。今のうちに厳しさを知っておいたほうがいいんだ」
部下:「そうですね。厳しさを知っておいたほうがいいでしょうね」
営業部長:「隣の課のB君も、それで目覚めた子なんだから」
部下:「へえ。B君もそれで目覚めたんですね」
「無邪気」な人は、会話のゆがみを認知できないので、本来の話の論点・主旨がずれても相手に合わせるだけです。要するに何も考えていないと言えます。人間関係を悪化させることはないでしょうが、問題解決能力はどうしても低くなってしまいます。
続いて「思考停止」パターン。
部下:「え……。ガツンと……?」
営業部長:「そうだよ、どうせモチベーションが上がらないだの、やる気が起こらないだの言ってるんだろう? そういう子には一発ガツンとやるのが一番いい」
部下:「……」
営業部長:「違うのかね? 君はどう思うんだ?」
部下:「いや、あの……」
営業部長:「もういい。私に任せておきたまえ!」
部下:「え……」
話の論点がおかしな方向に行ってしまったせいで「思考停止」状態となってしまうケースです。どこで会話が歪んだのかがわからず、何がなんだかわからなくなって次の言葉が出てこないのです。
最後に「柔軟」のパターンを紹介します。
部下:「そう、ですね……。確かにガツンと言わないといけないときもあるでしょうね」
営業部長:「そうそう。隣の課のB君も、それで目覚めた子なんだから」
部下:「ああ、B君ですよね。彼は本当によくやってくれます。部長のおかげです」
営業部長:「いつも言っているとおり、そういう汚れ役は私に任せたまえ」
部下:「はい。本当にいつもありがとうございます。ところで先日の会議での件ですが」
営業部長:「ん、どうした?」
部下:「社長が会議資料が多いので、ひとまとめにしろと言っておりまして――」
このパターンでは、「この部長は話にならない」「ストレートに部長に相談した自分がバカだった」「人事部長なら話せばわかるから、別の対策を考えよう」「営業部長がAさんにガツンと言わないよう、この話を忘れさせることが先決だ」……このようなことを頭で思い描きながら、すぐさま対応を考えます。意固地になることなく、まさに柔軟な姿勢と言えます。
会話がゆがむ人は思考もゆがんでいる可能性が高く、「話せばわかる」とは思わないことです。論理的に、根気よく話し合うことでわかり合えることはあるでしょうが、相手が少し感情的になっていたりすると冷却期間も必要です。柔軟性がある人はそのようなことも知っているため、会話がゆがんでも、すぐに補正しようとせず、いったん相手に合わせておいて、時間をかけながら根回しをしたり、別の視点で考えてもらったりしながら、じっくりとゆがみを修復していくのです。
営業部長:「この前、人事部長と飲んでいるときに言われたが、やはり若い子は難しいな。昔のようにガツンと言えばいいかというと、必ずしもそうとは限らんようだ」
部下:「部長、本当にそうですよね。私もよく間違えます」
営業部長:「私は少し、焦りすぎたのかな……」
部下:「そんなことはありませんよ。ただ、大変お忙しいと思いますので、新入社員の教育に関しては私と主任のSさんとでやっていきます」
営業部長:「ああ、そうしてくれるとありがたい」
部下:「かしこまりました」
柔軟性のある人は、腹の中では「やれやれ」「ずい分遠回りしてしまった」と思っても、決して表情には出しません。このように、会話の”ゆがみ”を見つけたときの整え方は、柔軟な対応が求められます。そうでないと、体のゆがみと同じように、人間関係に「痛み」が生じるからです。