「直感力」はどのように鍛えられるのか?
よく「直感を信じろ」と言う人がいます。何らかの意思決定をする際、迷ったときは「直感」という武器を使えばうまくいく、という発想です。私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルティングをしています。実際に、いろいろな局面で、「直感」という武器を使う人を目にします。
「Aの計画とBの計画と比較すると、Aのほうがいい気がする。根拠はないが、そう思うんだ」
「万が一のことを考えると、今はヘタに動かないほうがいいような気がする。理由はない。ただ、そう思うんだ」
……こういった発言です。
直感の意味を辞書で引くと、「勘」や「第六感」のことと書かれています。分析や考察に頼らず、感覚的に物事を瞬時に感じとることを言います。当然のことながら――「直感」というぐらいですので――論理的な状況判断、意思決定ではありません。もし多くの事柄が「勘」や「第六感」でうまくいくというのであれば、誰もロジカルに物事を考えようとしたり、事前にデータを集めて分析・検証しようとしたり、すでにうまくいっている人に相談しようと考えたりはしないでしょう。
最初に結論を書きます。直感で物事を判断したり、決断するということは、自暴自棄に陥っています。「やけくそ」「どうにでもなれ」「投げやり」精神ということです。直感で決断してうまくいくことがあるのは「たまたま」であり、再現性がないことは頭に入れておきましょう。しかし、あなたの周りに、いつも「直感」で判断して、うまくやっている人もいるように思うかもしれません。「直感力」という言葉もあるわけですから、一般的には
「あの人の直感力はスゴイ」
といった感じで使われるのでしょう。しかし、その人の意思決定の拠り所は「直感」ではなく、「直感」を使っているように見えるだけであることを見逃してはなりません。
客観的なデータに基づく論拠もなく、瞬時に意思決定しても、うまくいく人は確かにいます。同じような状況において過去、複数の体験があり、その体験へと瞬時にアクセスして、ある程度の合理的な判断のもとに推論を導き出せる人のことです。そういう人は、ごく限られた時間の中で脳の回転数が一気に上がり、そのうえで仮説を立て、検証し、決断しているのです。瞬く間に、的確に、決断できる人は脳にブースターがついている、と考えてもよいでしょう。
脳にブースターをつけるためには「時間感覚」を意識することです。きちんと立ち止まって考える習慣と言いましょうか。何も考えずに条件反射で答えを出すのではなく、1分や2分などと極端に短い期限を切り、脳の基本回転数を強引にアップし、脳の「長期記憶」の深い部分にアクセスします。
「よくよく考えてみたら……」
という状況を作り出すのです。思考の流れを、未来から現在に向かって逆流させることで、どのようにしたら効率よく物事が運ぶかを考えられるようになります。ただ、前述したように、自分の脳の「長期記憶」に意思決定につながる過去の体験が潤沢になければ、どんなに脳のブースターを働かせたとしても判断材料となるデータにアクセスすることはできません。つまり、過去の蓄積のない人が、拠り所となるデータもなく「直感」で意思決定するのは非常にリスキーである、ということです。
成功は消去法でしか手に入りません。
うまくいった事柄と、うまいかなかった事柄のそれぞれを体験し、うまくいかなかった事柄だけを、自分自身で消去した体験があってはじめて成功に導かれていくと私は思います。そういった過去の体験が「直感力」を磨いてくれるわけですから、その歴史がない人に、いきなり「直感を信じろ」というのは少々乱暴ですね。