お客様が言う2つの「不思議な言葉」

今回は、お客様が口にする「2つの不思議な言葉」をテーマにしてコラムを書きたいと思います。それら不思議な言葉とは、

●「せっかくだから」

●「そこまで言うなら」

の2つです。具体的に書くと、「せっかくだから、いただこうか」「そこまで言うなら、ひとつ頼むよ」でしょうか。いずれも営業や販売員に何か言われた後、お客様がその気になった、断れなくなったケースをあらわしています。

私がコンサルティングをしていて非常に困るのが、クライアント企業の営業が、「お客様が商品を購入する理由/購入しない理由」を正しくとらえていないことです。お客様のニーズに合った提案をすれば、必ず売れると思い込んでいる人がいます。売れなければ、ニーズをキチンととらえていないか、お客様のニーズに合った商品を取り扱っていないかのどちらかだと考えてしまい、お客様をどう「感化」させるかについての発想がないのです。

お客様は、営業から熱心に情報提供されることで、「せっかくだから」と、その労力を買ってくれたり、営業の押しの強さ、情熱に負けて「そこまで言うなら」と白旗をあげてくれたりするものです。つまり、最初はニーズがなかったのに、営業の努力によって「新規ニーズ」が作られることがあるのです。

「すみません。強引に売り込んでしまったようで」

「いいよいいよ。実は前から欲しかったんだ。気にすることはない」

このように、本当は前から欲しかったわけでもないのに、後付けで「前から欲しかったんだ」と言ってくれるケースがあるのです。「君の押しの強さに負けた」などとは言いません。このような心理現象を、「空気」で人を動かすにも書いた「同調性バイアス」と呼びます。「同調性」というのは「協調性」とは若干異なります。「協調性」というのは意識的な意思決定や行動を指しています。チームや組織に貢献するため、意識して協調していこうという姿勢です。しかし同調性は、どちらかというと「無意識」。知らぬ間に誰かの影響を受けて同調してしまうということです。無意識的な意思決定ですので「認知バイアス」の一つに挙げられます。

この「同調性バイアス」が強く働く人は、初対面の人、もしくは信頼できる相手かどうかわからない人からでも、もっともらしい話を聞いただけで同調します。たとえば、トヨタ自動車の「ポルテ」という車が目当てでディーラーへ行ったお客様がいたとします。すると営業から次のように言われました。

「当店が扱っているトヨタ車で、最近もっとも支持されているのがコチラ。『ハリヤー』です。お客様の世代の方々なら、ほとんどの方がご購入を検討されるのではないでしょうか。それほど人気の高い車です」

このように営業に言われ、「そう言われてみると、確かにいいかも。そもそも前からハリヤーには注目していた」と感化されるかもしれません。少しでも「心が動いた」という表情をお客様がすれば、営業は攻勢をかけてくるでしょう。熱心にハリヤーの良さを事細かに説明します。するとお客様は、「せっかくだから試乗ぐらいはしてみようか」「そこまで言うなら検討してみようか」と思うかもしれません。

営業の言うことに、どこまで感化されるかは、「同調性バイアス」のレベルに左右されます。この同調性バイアスをレベル別で「2・6・2」に分解し、わかりやすく表現してみます。なお「2・6・2の法則」とは、組織は「20%のできる人」「60%の普通の人」「20%の物足りない人」に構成されやすいとした法則から来ています。この法則をお客様にも当てはめて考えます。「空気」で人を動かすでは、「自燃人」「可燃人」「不燃人」に分けました。(以下参考)

■「自燃人(じねんじん)」……自分で勝手に燃えている人

■「可燃人(かねんじん)」……火をつけられると燃えることができる人

■「不燃人(ふねんじん)」……なかなか燃えない人

今回はお客様での分類ですので、最後を「人」ではなく「客」にしてみました。

■「自燃客(じねんきゃく)」……誰にでもすぐ感化され購買欲を燃やすお客様

■「可燃客(かねんきゃく)」……信頼できる相手になら感化され購買欲を燃やすお客様

■「不燃客(ふねんきゃく)」……他人に感化されて購買欲を燃やさないお客様

営業のトークに論理性、真実性が欠けていたとしても、自燃客は「同調性バイアス」にかかりやすいため、「とても魅力的」「多くの人が支持している」「特にあなたの世代が」などと言われるとすぐに感化されてしまいます。しかも、自燃客が影響を受けるのは相手にかかわらず、ですから、チラシやホームページに書いてあったキャッチコピーだけでその気になってしまいます。

可燃客なら、信頼できる相手でない限り「せっかくだから」「そこまで言うなら」という発言はしないでしょう。営業が何度も足を運び、お客様と関係を構築しようとするのは、このせいです。営業は相手との信頼関係を構築し、まずは聞く耳を持ってくれるような間柄を目指さなければなりません。可燃客は、何度もお会いして営業の人間性を何となくでもいいので知り、「しっくり」くる関係になってからでないと、「同調性バイアス」にはかからないからです。

いっぽう、どんな相手からであろうと「同調性バイアス」にかかりにくいお客様もいます。自分で決めたことは曲げない人です。

「お子様がお二人いるのなら、『ポルテ』や『ラクティス』などはいかがでしょうか?」

「いえ、『86』に決めてますから」

「それでは、オーディオはどういたしましょうか。6スピーカーのタイプなどは……」

「オーディオレスでお願いします」

「アルミホイールなどは……」

「それも必要ありません。自分で手を加えますから」

まさに典型的な「聞く耳を持たない」人です。スーパーへ行くときも、事前に買い物リストを準備し、リストに書いたもの以外は買いません。お世話になっている人から勧められても、それが今の自分に必要なものか論理的に意思決定しようとします。これが「不燃客」です。とはいえ不燃客も「せっかくだから」「そこまで言うなら」を使うときがあります。相手との人間関係を壊さないほうが将来のためになる等、戦略的、打算的な意思決定をするときです。いずれにしても、そのような意識的な状況判断は「認知バイアス」にかかっているとは言いませんから、やはり不燃客は厄介なお客様と言えるでしょう。

まとめると、こうなります。

相手のニーズとそれほどかけ離れていないのなら、20パーセントの確率で、訴求ポイントを正しく伝え、情熱や押しの強さを前面に出せば、相手はその気になってくれるでしょう。20パーセントは「自燃客」だからです。しかし大多数(60パーセント)の「可燃客」には通用しません。信頼を持たれるような対応を日々心掛けることで「同調性バイアス」にかかりやすくすることができます。後の20パーセントは「不燃客」です。「不燃客」は本人が必要だと感じれば、購買欲が湧き上がりますが、そうでなければ、他人にどう言われようと感化されません。お客様が「不燃客」だと判断したら、営業は割り切った付き合いをしたほうが良いでしょう。

ちなみに心変わりのスピードが速いのも「自燃客」「可燃客」「不燃客」の順番です。営業の言うことに感化され、その気になっても、他の人からたしなめられたら、「同調性バイアス」にかかりやすい「自燃客」ほど、すぐに気持ちが冷えます。反対に「不燃客」は他人から影響を受けにくいため、周囲に反対されても購買欲が萎えることはありません。

ということは、営業が気を使わなければならないのは以下の3つです。

●「自燃客」……強く、スピーディな対応

●「可燃客」……弱く、継続的な対応

●「不燃客」……能動的な対応は控える(相手から何か言われない限り)

お客様のニーズを研究し、商品を開発したり、営業提案をするスキルを磨くのはとても重要なことです。しかしお客様のタイプによって対応を変えることを忘れてはいけません。昨今、頭でっかちな営業活動をしている人が多く見られます。ぜひ「同調性バイアス」を意識してお客様に接してみてください。

【参考図書】

「空気」で人を動かす