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なぜ海外旅行の「お土産チョコ」はあんなに高いのか?

横山信弘経営コラムニスト

私は営業・マーケティングコンサルタントです。企業の目標を絶対達成させるために現場に入ります。ゴールは「金額」。したがって特に「プライス戦略」には神経を使います。人間はすべてにおいて経済合理性に基づいて意思決定しているわけではありません。人間がどのような状況でどのような認知バイアスがかかるのかを正しく知る必要があります。そうすることで安定して目標を絶対達成させることができます。再現性があるのです。

ちなみに認知バイアスを考える場合、人が意思決定するときは「しっくり」くるかどうかであると受け止めます。そうすることで、なぜこんなに自分が動けないのか、なぜあの人はこんなに高いものを買うと決断したのかなど、日常の「ナゼ?」を理解しやすくなります。

たとえばハワイのお土産でお馴染みの「マカダミアナッツチョコレート(ハワイアンホースト)」は、16粒で1800円(税抜)。8粒だと900円。1粒だいたい110円超のお値段です。いっぽう、一般的なコンビニやスーパーで売っている、明治やロッテの、マカダミアナッツの入ったチョコレートは180円前後(オープン価格)です。いずれも9粒入っていますから、1粒だいたい20円程度のお値段です。

前述のハワイアンホーストのマカダミアナッツチョコと、明治やロッテのチョコとは大きさが異なります。目算だと、ハワイアンホーストのチョコのほうが2倍程度の大きさに見えますから、明治やロッテの2個分と考えることで、お値段の単純比較がしやすくなります。ハワイアンホーストのチョコのほうが約2.5倍高いと言えるでしょう。

つまりこう考えられます。ハワイへ旅行し、戻ってきたときに親族やオフィスの同僚たちにお土産を配る場合、ハワイアンホーストのマカダミアナッツチョコレートを配るより、明治やロッテのマカダミアナッツのチョコにしたほうが2.5倍の量、配ることができるということが。

買ってきて配るほうはともかく、もらうほうはどう受け止めるでしょうか。意見は大きく3パターンに分けられると考えます。

● 味は同じようなものなので、量が多いほうがいい。

● ハワイアンホーストのチョコは50年の歴史がある。味が違うのでこちらがいい。ハワイの気分も味わえる。

● 比較自体がナンセンス。

そしておそらく一番多い意見が3番目の「比較自体がナンセンス」でしょう。確かに同じような「マカダミアナッツのチョコレート」です。しかしハワイのお土産を買ってきてくれたのだから、同じようなものと値段の比較をすること自体が「野暮」な話。旅行中にわざわざ買ってきてくれたのだから、ありがたくいただこうじゃないか、こう考えるのが普通の受け止め方です。どんなにお土産で買うチョコが高くとも、それは「そういうもの」という言い分です。経済合理性に基づいた発想ではありませんが、そのほうが「しっくり」くることでしょう。ただ、意思決定の論拠が「そういうもの」「せっかくだから」……だと認知バイアスにかかっている証拠です。

現地でハワイアンホーストのマカダミアナッツチョコレートを購入する場合を想像してみます。多くの人がその売り場に群がり、買っている姿を見たら、その場の空気に飲まれ、16粒入りを3箱ほどポンポン!と買ってしまいます。「集団同調性」という認知バイアスにかかり、なんとなく意思決定するのです。そして一緒に旅行した人が、「職場だけでなく近所の人にも配ったら? せっかくだから」と言えば、「そうだね。せっかくだもんね。ないよりはあったほうがいいよね」と言って、「それじゃあ16粒入りを、もう2箱」と、さらにポンポン!と決断することでしょう。これは「一貫性の法則」という認知バイアスです。いったん決断すると、その決断を一貫して維持しようとする心理が働くため、緩んだ財布のヒモを固く締めるのが難しくなります。

5箱も購入したら1万円近くなります。もし私が客観的な視点で「チョコレートに1万円も費やすなんておかしくありませんか」と問うても、まず確実にこう反論されるでしょう。「何を言ってるんですか。せっかくハワイまで来てるんですし。それに海外旅行のお土産で1万円なんて普通でしょう。まだまだ買うつもりです」その場の「空気」に感化され、財布のヒモが緩んだだけなのに。

私は財布のヒモを「緩くする空気」「堅くする空気」の2種類があると考えています。商品や広告のデザインやキャッチコピーでも人の購買意思決定は変化するかもしれません。しかし人は人に影響を受ける生き物です。人が作り出す空気に「感化」されて、認知バイアスが働き、動かされてしまうのです。プライス戦略を考える場合、「空気」はきわめて重要なファクターです。商品そのものは同価値であっても、その商品をどの「場所」で販売するか? 「誰」が販売するか? 「いつ」販売するか? 等によって価格が大きく変動することを忘れてはならないのです。人が意思決定するのは置かれた環境において「しっくり」くるかどうか、だからです。

【参考図書】

「空気」で人を動かす

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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