イクメン、カジメン、もう御免!
イクメンとは? カジメンとは?
女性が結婚相手に「イクメン」「カジメン」を望むようになってきた、という調査結果が出ています。そもそも「イクメン」とは、育児を積極的に率先して行う男性、育児を楽しんで行う男性を意味します。育児休暇をとる男性と、限定しているわけではないようです。「カジメン」とは、まさに家事を率先して行う男性です。
「イクメン・オブ・ザ・イヤー 」というイベントも2011年から開催されています。その年一番育児を楽しみ、頑張った男性を表彰するイベントで、毎年イクメンの日(10月19日)に実施されています。このイベントの主旨は「世の中のママを子育てから解放し、ママの幸せを考えてゆくイクメンを、世の中に増やしていく」です。なるほど。イクメンでなければ、ママの幸せを考えていない、とも読み取れる文章ですね。こういうキャッチコピーは、新たな価値観を扇動し、醸成する作用が働きます。ちょっと気になる文書と言えます。
私は子どもたちと接するのが好きです。毎日ではありませんが、4年以上、子どもたちが夜寝る前、一緒に布団の中に入り、私の創作の物語を聞かせています。洗濯や掃除は苦手ですが、料理は率先してやっているつもりです。大したものは作れませんが、クックパッドや料理本を見ながら、スパゲティやカレーライスなどを週末に作ったりします。しかし、それでも私はイクメンでもカジメンでも何でもありません。
なぜなら、先日、子どもに「お父さんの趣味って何かわかる?」と質問したところ、「パソコン?」と返ってたのです。このことからもわかるとおり、それぐらい家にいるときパソコンに向かって仕事をしている、という印象があるのでしょう。これでは、とてもイクメンとは言えません。コンサルタントとして全国を飛び回っているので、出張で留守になりがちです。妻からは整理整頓などに関する注文をよくもらいます。私本人が、「育児は好き」「どちらかというと料理は率先してやるほうかな」なんて思っていても、イクメンだのカジメンだのと言えないのです。
イクメン、カジメンの定義とは?
そもそもイクメン、カジメンと呼ばれるくらいですから、妻の要望どころか、それ以上の期待に応えなければ、とてもそのような称号を手に入れることはできないでしょう。世の中の多くの男性が育児に関わる時間、家事に割く時間の平均値を大きく上回ってはじめて、イクメン、カジメンなどと胸を張れるのだと思います。男性側の心構えや自己満足ではイクメン、カジメンになれないわけですから、女性側にその判断基準を尋ねなければなりません。世間の物差しに委ねることは難しいと言えます。たとえば、です。
「週に2回は家のすべての部屋の掃除をすること。週に3回は家族全員の洗濯をすること。週末は昼と夜の合計4回料理すればカジメン。それを1つでも下回るとカジメンではない」
「イクメンの定義は、育児休暇をとる。もしくは月に15回以上は子どもを風呂に入れること。食事、着替え、夜泣きしたときの対処は、女性側と同等か、それ以上の時間を費やさなければイクメンと呼ぶことはできない」
……などとしたら、誰もイクメンやカジメンになりたいと思わないでしょうし、「それだけやったらカジメンなんだろ! お望み通りカジメンになってやるよ!」などと男性に言われながら家事をされても、女性側はツラいだけです。
家庭や仕事の状況にもよるわけですから、どうすればイクメン、カジメンとなるのか、相手の女性側の判断基準が重要になってきます。ここで問題になるだろうことは、相手にそのような明確な基準がないことです。
「イクメン、カジメンの基準? そんなの必要?」
「そんなの何となく、でしょう? 育児や家事に関わった時間や回数で定義するなんて、絶対におかしい」
という感想が戻ってきそうです。私もその通りだと思います。つまり、基準は「何となく」なのです。
「うちの夫は、全然育児をやってくれない。その点、あそこの旦那さんはイクメンだよね~」
「去年のイクメン代表は、ボクサーの村田諒太選手か。村田さんってイクメンっぽい!」
このような「何となく」の感覚なのです。この「感覚」が重要であるし、大切な基準なのです。
イクメン、カジメンになれば夫婦円満なのか?
そもそもパパが「育児」をすればママは幸せになるのでしょうか。パパが率先して家事をすればママの幸福感は増大するのでしょうか。根本的な問い掛けをしたいと思います。
マザーテレサの有名な言葉「愛の反対は憎しみではなく、無関心である」をご存知でしょうか。相手に関心を寄せることが「愛」なのです。経営学に「機会コスト」という言葉があります。実際に行った投資の価値と、行わなかった選択肢の価値との差のことです。育児や家事に限らず、男性側が、時間、お金、労力といった何らかのコストを女性側に費やした場合、そのコストを他に振り向けたら、どれぐらいの価値を得られただろうか? これを「機会コスト」という概念で考えるのです。
高級なバッグを女性にプレゼントした場合、その分だけのお金がかかります。お金をかけなくても、男性が女性のために時間や労力をかけることで、別の選択肢に費やした結果、得られたはずの価値を犠牲にしているのです。この「機会コスト」の概念を無意識に理解しているから「愛」を感じるのです。そのお金、時間、労力を他のものに振り向けようと思えばできたのに、あえて自分に費やした。それが「関心」だからです。
イクメン先進国のノルウェーでは「冷凍ピザ」の消費量が世界一だということは有名な話です。イクメン男性が「冷凍ピザ」などのレトルト、インスタント食品を多く利用するからです。イクメン、カジメンのネタとは異なりますが、以下の事柄は頭に入れておきましょう。
● 面倒なことをすることでストレス耐性がアップする。
● ストレス耐性を正しく維持することで感情のコントロールができる。
カナダの医師ペンフィールドは、脳を活性化させるためには「手」を動かすこと、「口」を動かすことが大切だという重要な発見をしました。「手」は第二の脳とも言われます。手を動かして調理をすることは面倒なことかもしれませんが、脳を活性化し、ストレス耐性をアップさせる有効な手段です。日々それを繰り返すことで感情のコントロールがしやすくなっていくのです。
行き過ぎた「効率化」「合理化」が人を怠惰にし、感情の抑制や衝動のコントロールをしづらくするのです。感情のコントロールができなくなると、将来の大きな報酬より、目先の小さな報酬を優先したくなります。こういう状態で本当に正しい「育児」ができるのでしょうか? 冒頭書いたとおり、「世の中のママを子育てから解放し、ママの幸せを考えてゆくイクメンを、世の中に増やしていく」という文章は、本当に正しいのか、疑問です。短絡的すぎませんか、と問いたいです。
男性側に、育児をすればいい、家事さえすればいい、という誤解を与えかねません。世の中には、単身赴任の生活をして頑張っているパパもたくさんいるのです。残業で遅い時間にしか帰宅できないパパもたくさんいます。会社側の都合でそうなっているケースがほとんどです。イクメン、カジメンがフューチュアされ過ぎると、そういったパパを持つ子どもたちはどう感じるでしょうか。ママは不憫な思いをしないでしょうか。
夫婦生活を続けていると、いろいろな問題に直面します。育児や家事だけではないのです。そのひとつひとつに対応するため、そして愛を育むため、お互いが常日ごろから「関心」を寄せあうことが重要だと私は思います。笑顔で挨拶をしたり、ねぎらいの言葉をかけたり、相手の存在欲求を承認することが大切です。遠く離れていても、毎日残業で遅くなっても、お互い関心を寄せ合うことはできるのです。
最後にあえて書きます。イクメン、カジメン、もう御免!
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