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「念力」や「超能力」で部下を動かそうとする管理者たちが増殖中

横山信弘経営コラムニスト

私は企業に入り込んで目標を絶対達成させるコンサルタントです。現場に入ってコンサルティングもしますが、年間100回以上、経営者や管理者向けのセミナーや研修も実施しています。セミナーに参加した管理者の方々は私の話を聴くだけではなく、受講者同士で積極的に意見交換をされます。意気投合し、会社を変えるため、目標を達成させるためにどうすればいいかをお互いに相談されることもあります。「私たちが頑張らないと部下はついてこない」「率先垂範です。私らこそ変わりましょう」等と、とても前向きな姿勢で励まし合う方々も少なくありません。

いっぽう、部下に対する愚痴や悪口だけを言い合う管理者たちもいます。セミナー中はそういう発言を慎んでもらえるよう私は工夫しますが、そんなことお構いなしに「部下の悪口」で盛り上がる管理者たちも増えているのです。

「最近の若い子は昔と違って、本当に何もやりませんな。1から10まで言わないとやれない。困ったもんだ」

「おっしゃる通りです。当社の若いのもダメですよ。暇さえあればパズドラばかりやってる。特に30代の中堅クラスが一番ヒドイ」

「おや、御社もですか」

「と、言いますと……?」

「当社の主任や係長クラスがちょうど30代です。働き盛りなのに、全然やろうとしない。まったくダメですな」

「これだから日本は落ちこぼれていくんです。まったく、手詰まりですよ」

……このようなやり取りが延々に続きます。ハッキリ言って「言いたい放題」。私はこういう発言を聞き逃しませんので、

「そういった部下の方々にはどのように行動を変えてもらいたいですか?」

と尋ねます。すると、だいたい戻ってくる答えは2種類です。「ぼかし表現」か「すり替え」です。「ぼかし表現」ですと、

「まァ、キチンと意識してやってもらいたいですなァ。もっと主体性を発揮してほしいということです」

こうなります。「キチンと意識する」「主体性を発揮する」は「ぼかし表現」です。具体性がなく、どういった行動をしていることで、キチンと意識しているのか、主体性を発揮しているのかわかりません。これでは正しく部下育成ができないのです。部下育成できない上司は「具体化ストレス」を抱えているに書いたとおり、こういった管理者は「具体化ストレス」を覚えるから「ぼかし表現」を使ってしまうのです。

「すり替え」はさらにヒドイ。

「どうして最近の子は、ああなんですか? 横山さんはいろんな企業を見ておられるからそう感じることも多いでしょう。やっぱりアレですか? どこの会社にも、言うことを聞かない若い子ばっかりですか?」

私は「部下の方々にはどのように行動を変えてもらいたいですか?」と尋ねているのですが、その質問に対する答えがコレです。こういうのを「すり替え」と言います。私は「すり替え」には引っかかりません。

「その話はともかく、部下の方々にはどのように行動を変えてもらいたいのでしょうか。お聞かせいただけますか?」

と詰め寄ります。そうすると相手は返答に困ります。都合の悪い質問には答えず、自分の話したいことだけ話したいのです。

そういう管理者たちが、何度も私のセミナーに足を運んでくるケースがあります。相変わらず、他の受講者と部下の悪口で盛り上がるのです。私は挨拶をし、「いかがですか? 部下の方々の行動に変化は出てきましたか?」と質問します。

「いやァ、ダメですよ。全然ダメ。まったく何を考えてるんでしょうなァ。最近の子は積極性に欠けるというか、本当に自分から動こうとしないですからねェ」

などと、愚痴をこぼします。相変わらず「積極性に欠ける」などといった「ぼかし表現」が口から出てきます。ですから私はまた同じような質問を繰り返します。

「前回、部下に行動を変えてもらいたいとセミナー中にお話をされていましたが、あれから部下の方にどういう働きかけをされましたか?」

「なかなか言うことを聞かないですなァ。どういう神経をしているのか。羽生結弦さんとか、ああいう骨のある子はいませんか。はははは……」

またもや「すり替え」です。ですから、私は詰め寄ります。

「前回のセミナーから1か月が経過しましたが、部下の行動を変えるように何度、どのようなアプローチをされたんですか?」

「まァ、いろいろとやってはみたんですけどねェ」

「いろいろ、というのは、具体的にどんなことでしょうか?」

「うーん……。まァ、実のところ、この1か月、半分は関西方面に出張へ行っとったんですわ。ですからなかなか部下とは話ができてないんですよ」

「なるほど。それでは、部下の行動を変えるためのアプローチはゼロだった、ということですね?」

「うーん……。まァ、ゼロっていうと……どうかな、うーん……。まァ、あんまりストレートに言うすぎるとよくないと言いますしねェ……」

と、こんな感じで言い訳がはじまります。「部下が私の言うことをまったく聞かない」と言いながら、この管理者は私(横山)の言うことをまったく聞かないのです。この構図は同じです。

翌月のセミナーにも、この管理者は顔を出してきて、また「部下が全然動かない」と他の受講者と盛り上がります。私は暇だからセミナーに来ているのだろうかと勘繰りたくなります。私は何度でも同じ質問を繰り返します。

「部下の方へ行動を変えるアプローチはどれぐらいしたんですか?」

「この1か月、イベントの企画でバタバタしちゃって……」

と言い訳ばかり。結局、セミナーに来るだけで全然動かないのです。その割には、「部下が動かない」「部下が言うことを聞かない」と愚痴ばかりをこぼしているのです。

管理者による主体的な働きかけ、コミュニケーションもないのに、部下が変わるのでしょうか。もしかして「念力」や「超能力」で部下を変えようとでもしているのでしょうか。映画「アナと雪の女王」で表現されているような魔法を自分でも使えると信じているのでしょうか。自分からは何もせず、部下が変わらないのに愚痴ばかりこぼすなんて、何というエゴイズム。身勝手さ。

遠くで部下を眺めながらため息をつく管理者がいます。エスパーでない限り「念力」で部下は動かないのです。部下の悪口を言っている暇があるのなら、その分、コミュニケーションをとりましょう。働きかけましょう。ストレートに言いましょう。そのほうが「テレキネシス」を身に着けるよりも、はやく成果が出ると私は思います。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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