ヤフー「爆速経営」の成功は、そのネーミングにある?
新生ヤフーの「爆速経営」は順調だ
2012年初頭に、宮坂社長のもと新体制となったヤフー(Yahoo! JAPAN)は、高速を超えた「爆速」というスローガンを掲げて改革をスタートさせました。食べログやクックパッド、イー・アクセス等と次々に業務提携(爆速提携)し、新しいサービスの立ち上げ・刷新も猛スピードで進めています。まさに「爆速」という名の通りの意思決定の速さです。
「爆速経営」が始まって1年以上が経過しました。201X年までに営業利益を2倍にするという目標に対しては、現時点で順調であると見てよいでしょう。今年6年ぶりに2桁の増益を記録。時価総額も宮坂社長就任時と比べ2倍の3兆円にまで膨れ上がりました。
成功した要因は何か?
宮坂社長は「社員が思う存分活躍できる舞台作りに徹したい」と、日経ビジネスのインタビューで答えています。社員の意識を変えるために権限委譲型のマネジメントに移行するのは、閉塞感漂う組織には妙手です。しかしその手法よりも何より、この「爆速」というネーミングが、新生ヤフー社内の「空気」を変えたことは間違いないと私は考えています。
今回は、スローガンやプロジェクト名に焦点を合わせ、スローガンなどをどのようにネーミングすることで組織が活性化するか、「爆速経営」をヒントに考えてみたいと思います。
組織の問題は、組織内の「空気」にある
人間の思考プログラムを変えるのは、体験の「インパクト×回数」で決まります。ですから、人の集合体である組織も「インパクト×回数」で変わっていきます。「守りに入りすぎたヤフー」を改革するためには、インパクトの強い体験と、そして繰り返し意識させられる何かが必要だったに違いありません。
社長をはじめ、経営陣を大幅に刷新したことは、まさに「インパクト」の強い出来事です。このようなショック療法を内外にアピールすることで、組織の「空気」を変えることは可能。しかし持続性があるかどうかは疑問です。どんなにインパクトの強い組織改変を執り行っても、現場で働く人たちが繰り返し「意識」することがなければ、組織の「空気」が変わることはありません。
経営陣と現場との距離は遠い。それほどヤフーは大きな会社に成長したのです。現場が絶えず意識するようなことがなければ、結局は以前と同じような「空気」に戻ってしまい、「守り」の姿勢から脱却することはできません。
ネーミングが組織の「空気」を変える
意識しやすいプロジェクト名、スローガンを作ることは組織の「空気」を変える意味で、とても有効です。実際に、私たちコンサルタントが現場へ入って組織改革するときも、何らかのスローガンを掲げたり、「■■プロジェクト」という名前をつけたりすることが多いのです。
スローガンなどの名称は、改革の目的や意味合いと多少のズレがあったとしても、それほど気にする必要はありません。「口コミ」で広がりそうなネーミングをすることのほうが重要です。ポイントは以下の3要素。
● 短いこと
● 普段あまり使わない言葉であること
● 意味はわかるもの
「短いこと」と書きましたが、長い名前の「略称」でもかまいません。もともと日本独特の「場の空気」というのは、省略されやすい日本語の特徴に原因があります。つまり長い名前を「略」して親しみやすく加工したフレーズは、口コミとして広がりやすいものです。みんなが面白がって使ってくれる言葉だと、なおさら浸透度は速いでしょう。
そういう意味で「爆速」というネーミングは、「口コミ」で広がりやすい秀逸なスローガンだったと言えます。「爆速Girls」や「爆速Tシャツ」に代表されるように、「爆速」という名称を活用したプロジェクトや商品、サービスが現場のアイデアによって作り上げられ、ドンドン組織内の「空気」が変わっていく様子が、外部の人間にも伝わってきます。
フェイスブックやツイッター。ブログやSNSなどのコミュニケーションツールが発達したことにより、以前に増して「口コミ」による伝播の度合いが強まっています。ヤフーは「爆速」というスローガンを社内のみならず、社外でも効果的に広めて、外の「空気」も変えていきました。
経営陣が正しい戦略や方針をロジカルに発信し続けても、組織内の「空気」が変わらない限り、意思決定や価値判断の基準は変わらないものです。重い「空気」を変えたいと悩んでいる経営者、マネジャーは、新生ヤフーの「爆速経営」を参考に、口コミで広がりそうなスローガンや、誰もが応援したくなるようなプロジェクト名を作り上げて、社内の「空気」を変えていってはいかがでしょうか。