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落合博満が語った「勝負強さ」を身につける方法とは

横尾弘一野球ジャーナリスト
1985年に得点圏打率.492を叩き出した落合博満は、勝負強さをどう養ったのか。

 どんな競技でも、超一流と評される選手たちは、ここ一番の場面に好結果をもたらす「勝負強さ」を備えている。では、その「勝負強さ」とは何なのだろう。野球では、走者が二塁か三塁、または二、三塁にいた際の得点圏打率が長く「勝負強さ」の指標になっている。また、アメリカで提唱されたセイバーメトリクスでは、ある打者がチームの『勝利期待値』をどれだけ増減させたかを示すWPA(Win Probability Added)と呼ばれる数字もある。

 ただ、ファンはそうした数字よりも、「燃える男」長嶋茂雄、日本シリーズやオールスターゲームで見せた清原和博の打棒を「勝負強さ」と感じている。もちろん、名勝負を繰り広げている選手たちにも、各々が感じている勝負強い選手がいる。2回目の三冠王を手にした1985年に、得点圏打率.492をマークした落合博満は後進を指導した際、技術面とともにこう聞かれることが少なくない。

「勝負強くなるために、何か効果的な取り組み方はありますか」

 あくまで技術を磨き上げるのか、それともメンタル面でのアプローチなのか。落合が追求し、身につけた「勝負強さ」はどういうものなのか。

「勝負強さか……。自分にとってのチャンスは、相手のピンチでしょう。バッテリーだって慎重に配球を考えるし、投手はより集中して『打たせるものか』と気持ちのこもったボールを投げ込んでくる。そんな状況では、簡単に打てるものじゃない。それに、チャンスに打てるノウハウがわかっていたら、誰もがそれを実行するはずでしょう」

4打数4安打の5打席目にどんな気持ちで打席に立つか

 落合には、野球に関することなら、どんな質問にも明確に答えてくれるという印象がある。だが、「プロを経験したからと言って、野球に関して何でも知っているわけではない」が口癖の落合は、「勝負強さに正体はない」と考えている。では、落合自身はどうやって勝負強さを発揮していたのかと問えば、「経験の積み重ねによって、チャンスでもそうでない場面でも同じような気持ちで打席に立ち、同じようなバッティングをすること」だと語った。

「勝負強さを養おうと考えても、実際にその場面になってみなければ、自分が何を考え、どういうバッティングをできるかはわからない。チャンスでは緊張したり、思わず力が入ってしまうものだけど、いかに普段通りにやるかを意識するのもひとつの方法だろう」

 そして、落合は面白い実例を示す。それは、どうしても集中力を高められないような場面で、パフォーマンスを磨くことだ。

「レギュラーにとってのシート打撃や紅白戦は、指導者からもさほど結果を求められていない。では、そんな状況でもベストな結果を残すにはどうすればいいか。実戦なら、大差がついた(勝っていても負けていても)展開、自分がそこで打っても勝敗には影響しない場面でどんなバッティングができるか。あるいは、自分が4安打して大きくリードした試合の5打席目も、高い集中力を保つには何が必要か。チャンスに強くなりたいのなら、チャンスではない場面にも強くなることから始めても面白いんじゃないか」

 確かに、4打数4安打の5打席目に無類の集中力を発揮して5安打目を放つことも、勝敗を左右する場面で好結果を残すのと同じくらい難しそうだ。「目の前に高い壁が現れたら、それを何とか乗り越えようと気持ちを奮い立たせる前に、どんな方法なら越えられるのか、あれこれ考えを巡らせてみればいい」という落合らしい考え方かもしれない。勝負強さとは、どんな場面でも普段通りに挑んで結果を残すことなのだ。

(写真=K.D.Archive)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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