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プロ野球史上最強の新人王落選者は誰か

横尾弘一野球ジャーナリスト
横浜DeNAの牧 秀悟は打率.314、22本塁打71打点でも新人王を逃した。(写真:CTK Photo/アフロ)

 横浜DeNAにドラフト1位で入団した度会隆輝は、開幕から2試合連発で度肝を抜き、その後はプロの厳しさに直面するも4月26日の巨人戦では満塁弾を放つ。また、巨人1位の西舘勇陽は、開幕から10試合連続ホールドと抜群の安定感を見せている。この2人が新人王を争うという声は気が早過ぎるだろうが、ルーキーの活躍は野球に対する関心をより深めてくれるものだ。

 さて、新人王は記者投票で最多得票の選手に授与されるため、目立つ数字を残しても受賞を逃す選手がいる。1987年は、近鉄の阿波野秀幸が15勝12敗、防御率2.88で選出され、日本ハムの西崎幸広は15勝7敗、防御率2.89と互角の数字を残したものの涙を呑んだ。ただ、西崎にはパ・リーグ会長特別賞が授与され、これ以降は新人王に匹敵する活躍を見せながら受賞を逃した選手も表彰されるようになった。

 近鉄の野茂英雄が投手タイトルを独占した1990年は、野茂のチームメイトで打率.300、22本塁打46打点の石井浩郎、43試合に登板して7勝8セーブをマークし、西武の日本一にも貢献した潮崎哲也、10勝を挙げた日本ハムの酒井光次郎が会長特別賞を受賞。

 中日の川上憲伸と巨人の高橋由伸が注目された1998年は、新人王争いは川上に軍配が上がるも、高橋、2リーグ制以降の新人最高となる打率.327を叩き出した阪神の坪井智哉、9勝18セーブを挙げた広島の小林幹英の3名がセ・リーグ会長特別表彰を受ける。

 その後も、16勝の小川泰弘(東京ヤクルト)が新人王の2013年は、13勝の菅野智之(巨人)と10勝の藤浪晋太郎(阪神)が新人特別賞。37セーブで東京五輪の胴上げ投手にもなった栗林良吏(広島)が新人王の2021年は、牧 秀悟(横浜DeNA)、奥川恭伸(東京ヤクルト)、佐藤輝明、中野拓夢、伊藤将司の阪神勢と、実に5名に新人特別賞が授与された。このように、1987年の西崎から2022年の湯浅京己(阪神)まで、28名が新人王は逃したものの同等の実績を認められている。

 では、新人王を逃した最強選手は誰か。これはもう、1967年の江夏 豊だろう。

当時は高卒ルーキーでも新人王なら20勝

 大阪学院大高では甲子園こそ出場していないが、四番でエースを担った江夏は1966年の一次ドラフトで阪神、巨人、東映(現・北海道日本ハム)、阪急(現・オリックス)が1位指名。抽選で交渉権を得た阪神へ入団する。変化球をまともに投げられなかったため、春季キャンプでは先輩投手の投げ方を観察したが、どの球種もマスターできないままペナントレースへ突入。それでも、力いっぱいに投げ込むストレートには威力があり、適度に荒れていたことで対戦する打者は手こずっていたという。

 果たして、江夏は高卒ルーキーとして42試合に登板。うち29試合に先発し、230回1/3を投げて225三振を奪い、防御率2.74で12勝13敗という成績を残す。だが、新人王の投票では182票中5票に終わる。そうして、171票を集めたサンケイ(現・東京ヤクルト)の武上四郎が、この年の新人王を手にした。

 武上は、宮崎大宮高から中央大へ進み、ベストナインに3回輝くと河合楽器へ入社。都市対抗などで活躍し、1966年の一次ドラフトでサンケイから8位指名されて入団する。すぐにセカンドでレギュラーとなり、阪神との開幕戦では初打席で安打を放ち、打点もマーク。1試合4安打を3回記録するなど107試合で打率.299、3本塁打27打点を挙げる。また、守りも軽快で、二塁手の守備率はセ・リーグ最高であった。

 武上と江夏の評価について、当時のスポーツ紙記者だった田村大五氏は、2000年代に以下のように回想していた。

「武上の成績は、その後も社会人出身野手として新人王の資格があるものでしょう。では、江夏はどうか。高卒ルーキーが12勝したら、今では間違いなく新人王候補の筆頭です。でも、1962年には浪商高(現・大体大浪商高)を2年で中退して東映入りした尾崎行雄が20勝9敗、1965年には下関商高から西鉄(現・埼玉西武)入りした池永正明が20勝10敗。セ・リーグでも、1966年に甲府商高から巨人1位の堀内恒夫が開幕から13連勝し、16勝2敗で防御率1.39です。新人王に選ばれた高卒ルーキーで比較すると、当時の江夏を推す声が少なかったのは理解できますよね」

 だが、江夏は2年目にシーズン401奪三振という金字塔を打ち立て、先発、リリーフともに際立つ数字を残して日本を代表するサウスポーとなる。いや、そんな江夏でも手にできなかったからこそ、一生に一度のチャンスと言っていい新人王には大きな価値がある。今季は誰がその栄誉に輝くだろう。ゴールデン・ウィークに書くのは気が早いが……。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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