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世界初!! 台湾プロ野球が徹底した防疫対策で1000人の観客を迎える

横尾弘一野球ジャーナリスト
5月8日の2球場で、台湾プロ野球は約1000人の観客を迎えた。

 1日あたりの新型コロナウイルスの感染者数は減少傾向にあるが、緊急事態宣言が5月末まで延長された日本では、プロ野球ペナントレース開幕の目途が立っていない。アメリカのメジャー・リーグは6月にキャンプを再開し、7月1日の開幕を検討しているというが、まだ予断を許さない状況だろう。

 そんな中、韓国プロ野球は5月5日に無観客で開幕。このまま順調に試合を重ねられればと思う。また、台湾プロ野球(CPBL)は4月11日に開幕を設定し、この日は降雨によって順延したものの12日に開幕。その後、選手はもちろん、関係者からも感染者を出すことなく、5月8日には台北市に隣接する新北市・新荘棒球場で行なわれる統一セブンイレブン・ライオンズと富邦ガーディアンズ、楽天モンキーズと中信兄弟エレファンツが対戦する台中市の洲際棒球場ともに最大1000人の観客を入れることになった。シーズンチケットの購入者、主催球団ファンクラブ会員に優先販売となった入場券は、両球場ともほぼ完売したという。

 そもそも、台湾の感染症対策は早かった。昨年12月31日、台湾での休暇から帰国しようとしていると、国際空港が物々しい雰囲気になっている。係員に聞けば、中国の武漢で感染症が発生したため、武漢を発った航空機内で検疫を実施し、到着した搭乗者への対応を協議しているという。「そうなのか」と思った程度で帰国したが、それが新型コロナウイルスだったと知るのに時間はかからなかった。台湾では、2003年のSARS(重症性呼吸器症候群)の教訓が生かされていたのだ。

衛生福利部から認められた防疫対策と今後の課題

 CPBLの関係者は、開幕からの過程をこう説明してくれた。

「まずは、選手たちが感染しないよう、球場内で万全の態勢を整え、開幕してからはそれを継続した。ある程度まで継続できた5月5日の防疫会議で、上限1000人の観客を入れる方針を決定し、中央感染症指揮センターが翌6日に合意したことで実現しました。観客には検温とマスクの着用を義務付け、座席は十分な感覚を取り、球場内での飲食は当面できません(水分補給のみ許されている)。今後は、社会の情勢も見ながら、次のステップを目指すことになります」

観客には、検温やマスクの着用が義務付けられている。
観客には、検温やマスクの着用が義務付けられている。

 新荘棒球場には、観客を入れての試合を許可した衛生福利部の陳時中部長も来場した。陳部長は、メディアを通じて積極的に情報を発信。ピンク色のマスクを揶揄された男子児童がいたと聞けば、翌日にピンク色のマスクをして会見するなど、不眠不休かつ市民に寄り添った対応で「抗疫英雄」と称賛されている。背番号0のユニフォームを纏った陳部長は、試合開始前にこう語った。

「今日の感染者も0人だった。これは国民全体の努力の成果だ。台湾は今、健康で持続可能な防疫対策という新たなステージに入った。野球観戦は、そうした生活にピッタリだ」

 CPBLの運営もお墨付きをもらった形で、今後は他国のプロスポーツ団体も参考にしていくだろう。

「抗疫英雄」と称えられる衛生福利部の陳時中部長(左)も新荘棒球場に足を運んだ。
「抗疫英雄」と称えられる衛生福利部の陳時中部長(左)も新荘棒球場に足を運んだ。

 では、ファンの反応はどうか。日本代表をはじめ、日本のチームが台湾へ遠征した際、通訳を務めることが多い李淑芳さんは、台湾の社会、また野球ファンの現状を次のように語る。

「感染症を封じ込めるという点では、台湾は世界的にも成功例として報道されています。確かに、会社も学校も普段通りで、地下鉄の駅や銀行など、人の集まる場所で検温や消毒を徹底したのはよかったですね。CPBLもその一つです。ただ、旅行業や飲食業では倒産する会社もあり、日本とそう変わりません。2日に1回の勤務になったビジネスマンは、月給も半分になっている。そうした中では、なかなかプロ野球観戦に出かけようというムードにはなりませんよね」

 スポーツ観戦には、思い思いの形式で声援を送り、競技場で飲食も楽しむという付加価値がある。観客を入れる段階まで持ってきたCPBLの努力は素晴らしいし、日本も参考にできる点がいくつもあると思う。ただ、興行でもあるプロスポーツが本来の意味で“完全復活”するためには、観客が「観戦を楽しもう」という気持ちになるまでの時間も必要なのだろう。

(写真提供/中華職業棒球連盟)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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