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センバツの中止などアマチュア野球の日程が中止・変更される中、ドラフトの目玉は安定感抜群の栗林良吏だ

横尾弘一野球ジャーナリスト
昨夏の都市対抗決勝に、新人で先発した栗林良吏(トヨタ自動車)はドラフトの目玉だ。

 3月19日に開幕する予定だった第92回選抜高校野球大会は中止になり、20日に予定されていたプロ野球ペナントレースの開幕も延期された。球音が聞こえてこない春、「なかなか思い通りに動けない」と嘆くスカウトと、今年の野球界についてあれこれと長話をした。

 ただでさえ、東京五輪によってアマチュア野球の大会には後ろ倒しになったものがある。例えば、社会人のメインと言っていい第91回都市対抗野球大会は、例年の7月から11月下旬にズレ込んでいる。つまり、ドラフト会議が終わったあとに開催されるわけで、こうしたイレギュラーな日程がプロを目指す選手に与える影響は少なくないだろう。

「我々は、甲子園や都市対抗のパフォーマンスだけで、ドラフト指名する選手を決めているわけじゃない。ただ、一方では、大舞台で発揮する力が占めるウエイトは決して小さくないのも事実。選抜の中止は痛いし、都市対抗が遅いのも難しい判断を迫られますよね」

 そう語るスカウトは、「大舞台でのプレーを見られない分、特に大学生や社会人には安定感が求められます」と明かし、最有力候補にトヨタ自動車の栗林良吏を挙げた。

大学卒業時も有力候補で1年目の結果が群を抜く

 弥富高から2013年に校名変更した愛知黎明高では遊撃手だった栗林は、2年秋から投手兼任に。強く正確なスローイングに投手としての資質を見出されると、名城大で潜在能力を開花させる。1年春からリーグ戦のマウンドに登り、2年秋にはリーグ戦2位ながら神宮大会に駒を進める。

 初の大舞台では、初戦(二回戦)で上武大に1対2と惜敗したが、実力差というよりは二段モーションでボークを取られ、クイック・モーションにしたために球速が落ちたという不運な要素もあった。3年時には大学日本代表入り。そこで一緒にプレーした東 克樹(現・横浜DeNA)や松本 航(現・埼玉西武)らがプロ志望だったため、「負けたくない」とプロを目指したという。

 ちょうどこの年から、中日で2ケタ勝利を挙げたこともある山内壮馬が名城大のコーチに就き、栗林は貴重なアドバイスを受けて、さらに実績を積み重ねていく。4年秋にはリーグ戦の途中でプロ志望届を提出し、25季ぶり10回目優勝の原動力となる。全12球団から調査書が届き、ドラフト指名は確実と目されたものの指名はなかった。前出のスカウトは、こう振り返る。

「私も驚きましたが、栗林君は2位までに指名されなければトヨタ自動車に入社するということだった。愛知大学リーグでは通算32勝ですが、全国での実績がなく、それが2位までの指名を決断できなかった大きな理由だと思います」

 そんな経緯でトヨタ自動車へ入社した栗林は、春先から着実に登板を重ね、昨夏の都市対抗では三回戦と決勝に先発。日本選手権一回戦では13奪三振の完封勝利をマークすると、社会人選抜の一員としてアジア・ウインター・ベースボール(AWB)にも出場する。

 AWBで活躍した福岡ソフトバンクの尾形崇斗とリチャードが支配下登録を勝ち取ったことは、以下の記事ですでにお伝えした。

福岡ソフトバンクの20歳コンビ・尾形崇斗とリチャードは、なぜ支配下登録を勝ち取れたのか

 そんなプロを相手にした栗林も、リリーフで6試合に登板。14回1/3を僅か1失点で、防御率0.63、1勝4セーブで社会人選抜の初優勝に貢献し、スカウト陣にも「やはり、上位指名の力はあった」と認識させた。それがすべてではないが、大きなウエイトを占めるという全国での実績を残し、高い評価を不動のものとした栗林が、今秋のドラフトで目玉になるのは確実だろう。

 ただ、栗林自身は「プロを意識し過ぎて、大学時代に失敗している。常に自分の投球を心がけ、チームで結果を残した先にプロがあればいい。トヨタ自動車に入社して、本当によかったと思っています」と、トヨタ自動車での日本一を目指す。そうした気持ちの持ち方も、社会人の一年間で成長した部分なのだろう。新型コロナウイルス禍で出足がすっきりしないシーズンを、ぜひ熱くしてもらいたい。

(写真提供/小学館グランドスラム)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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