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福岡ソフトバンクの20歳コンビ・尾形崇斗とリチャードは、なぜ支配下登録を勝ち取れたのか

横尾弘一野球ジャーナリスト
快速球が魅力の尾形崇斗(左)とパワフルな打撃のリチャード(右)。

 新型コロナウイルスの感染防止のため、オープン戦が無観客で行なわれ、3月20日に予定されていたペナントレースの開幕も延期される。なかなか明るい話題がなかったプロ野球で、福岡ソフトバンクの育成選手2名が支配下登録され、球団から発表された。

 尾形崇斗投手は、2018年に学法石川高から育成ドラフト1位で入団。150キロ超のストレートが最大の魅力と言われていたが、高校時代の最高成績は福島県大会ベスト8と、甲子園を経験していないため、実戦力の点で育成指名になったという印象だった。

 ルーキーながら春季キャンプを順調に過ごし、開幕直後にはウエスタン・リーグで登板機会を得て白星を手にするも、疲労骨折で長期離脱してしまう。それでも、昨年は三軍戦とフェニックス・リーグを合わせて31試合に登板し、66回2/3で104奪三振、防御率1.62と目立つ数字を残す。

 リチャード内野手も、2018年に沖縄尚学高から育成ドラフト3位で入団と、尾形とは同期になる。アメリカ人の父を持ち、2歳上の実兄で、北中城高からアメリカの南ネヴァダ短大に進学したジョーイ・オブライエンも、2018年のドラフトでシアトル・マリナーズから6巡指名されている。

 入団時に188cm・106kgの恵まれた体格を生かし、長距離砲としての成長が期待されたが、1年目は三軍戦でも打率.158。選球眼や確実性が課題と評され、2年目は三軍戦で12本塁打を放つも、365打席で102三振を喫した。ただ、尾形もリチャードも、育成から支配下になれるか否かの目安となる3年目、今季を迎える前に、昨年のアジア・ウインター・ベースボール(AWB)に出場した。

アジア・ウインター・ベースボールが飛躍への転機になる

 11月23日の社会人選抜との開幕戦、1点を追う9回表に五番手でリリーフ登板した尾形は、2三振を奪う力投で攻撃のリズムを引き出し、その裏の同点劇をお膳立てする。また、四番ファーストでスタメン出場したリチャードは、三振もエラーもあったものの、4回裏一死一塁からセンターへの先制二塁打を放つ。

 こうして滑り出したAWBでは、二人とも試合を重ねるごとに他チームの選手たちからも知られる存在となる。果たして、尾形は10試合にリリーフ登板して防御率0.77、11回2/3で23奪三振をマーク。リチャードは打率.299、3本塁打、17打点と各部門で上位の数字を残す。

 尾形が会見で「対応力を身につけさせてもらったという点でターニング・ポイント」と語ったように、シーズンオフにもAWBで実戦を経験したことにより、今春のキャンプには明確なテーマを持って臨むことができたはずだ。そうして、A組に抜擢された春季キャンプ、オープン戦を通じて持てる力をしっかりとアピールした。

 背番号は尾形が120から39、リチャードは127から52となる。そして、福岡ソフトバンクで育成から支配下登録されるのは30、31人目ということだ。尾形とリチャードは同期だと先に書いたが、尾形に続く育成ドラフト2位は、日本代表入りしたスピードスターの周東佑京、リチャードに次ぐ育成ドラフト4位は、同期の先陣を切って1年目の夏に支配下登録された大竹耕太郎である。

 福岡ソフトバンクの育成力の高さに異論はないだろうが、あるスカウトによれば、「自己成長力のありそうな選手を育成ドラフトで指名する」らしい。その眼力も恐るべしだ。

(写真提供/小学館グランドスラム)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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