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2019年ドラフトを賑わすJR東日本のスーパートリオ【3】――2度目の指名を待つ左腕・山口裕次郎

横尾弘一野球ジャーナリスト
履正社高3年時に北海道日本ハム6位指名を断った山口裕次郎(JR東日本)。

 ドラフトに向けた今季の飛躍が注目されるJR東日本の3人衆を紹介している。その3人目、山口裕次郎は履正社高3年だった2016年のドラフトで北海道日本ハムから6位指名されながら、さらなる成長を求めて社会人入りを選んだことで話題となった。

 その決断には、伏線があったのだという。高2の冬、投手としてのスキルアップや考え方を学ぼうと、山口は数日間JR東日本の練習に参加した。その際、申し分のない練習施設、自分と10歳も離れたベテラン選手と一緒に汗を流す環境など、プロと遜色なく、「自分が成長できる場所としてピンとくるチーム」があることを知る。もちろん、プロ志望に変わりはなかったが、JR東日本にも好印象を抱く。

 その後、3年夏には甲子園の土を踏む。寺島成輝(現・東京ヤクルト)が一、二回戦に完投勝ちし、三回戦は山口が先発。しかし、常総学院高の打線につかまり、2回途中4失点で寺島にマウンドを譲る。まだまだ成長しなければならないという思いで高校野球を終えた山口は、進路を熟考した。

「最終的には、プロか社会人……いや、プロかJR東日本。上位指名ならプロ、そうでなければJR東日本と考えました」

 ドラフトの指名順位は、実際に入団し、2月1日の春季キャンプを迎えれば一切関係ないと、多くのプロ関係者は言う。だが、その一方で、実力の高さを認められた選手は、多くの球団が獲得を望み、それに従って指名順位が上がるというのも事実だ。18歳の山口の決断は、自分の将来に自分で責任を持つという意味では理解できるものだろう。

 そうして、2017年にJR東日本へ入社する。同期の太田 龍や西田光汰が当たり前のように体力強化から取り組む中、山口は春の訪れを待たずに実戦のマウンドに登る。3月11日の東京スポニチ大会開幕日には、強豪のトヨタ自動車を相手に田嶋大樹(現・オリックス)に次ぐ二番手で登板。驚いたことに、翌12日のJFE東日本戦では先発を任される。

早期デビューで見つかった課題に試行錯誤する

 このデビューによって課題が見つかる。表題の写真を見ればわかるように、山口はテイクバックした際、肩甲骨が柔らかいゆえ、左腕がグッと背中の方まで入り込む。これが強いボールを投げられる原動力でもあるのだが、長い目で見れば肩や肘への負担が大きいのではないかということになり、フォームの修正に着手する。都市対抗予選など実戦登板をこなしながら、理想的なフォームを追求したものの、次第にどう投げればいいのかという迷宮に入ってしまう。

 昨年は、心身ともに強くなった太田と西田が東京ドームの晴れ舞台に立った。ところが、二人の前を走っていたはずの山口は、自分の抱くイメージと、そう投げられない現実の狭間でもがき続けていた。

「正直言えば、山口や西田の活躍は悔しかった。でも、僕の野球人生は二人と競争するわけじゃない。自分がいいと思ったことに取り組み、それで結果を残し、チームに貢献する。そういう意味では自分との闘いであり、悩みながらも少しずつ前には進んでいるという感じでした」

 3年目、再びドラフト指名が解禁となるシーズン。どうやら太田、西田と3人揃って有力候補と評されそうだ。

「3年目でのドラフト指名はひとつの目安です。でも、今年じゃなければいけないわけでもない。僕にとって大切なのは一年、一年しっかりと成長していくこと。昨年のように悩むことはなく、今は理想的なイメージを明確に持ち、それに近づいているという手応えがある。納得できるまで練習し、これだというボールを投げ、試合で活躍できればいいですね」

 野球人生というマラソンの中で、常に自分のペースを守る。時に先頭集団から離されることがあっても、決して焦らずにレース展開を読みながら走る。そんなクレバーな走り方が、山口のもうひとつの才能なのだろう。冬場の練習を具に観察していた堀井哲也監督はこう語る。

「太田も西田も順調ですが、蓋を開けたら2年前の田嶋のように、山口が絶対的なエースになっていても不思議ではないという印象があります」

 さて、互いを認め合う3人の勝負のシーズンは、どんな物語になるのだろう。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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