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2019年ドラフトを賑わすJR東日本のスーパートリオ【2】――笑顔でピンチを切り抜ける・西田光汰

横尾弘一野球ジャーナリスト
スムーズな重心移動でキレのあるボールを投げ込む西田光汰(JR東日本)。

 今季のJR東日本では、大いなる成長とドラフト指名が期待される3人の投手が切磋琢磨している。前回は、昨夏の都市対抗で若獅子賞を手にした190cmの大型右腕・太田 龍を紹介したが、今日は2人目の西田光汰にスポットを当てよう。

 大体大浪商高2年夏に、背番号10ながらエース格の力投で、大阪府大会決勝に進出。大阪偕星高を相手に10安打を許しながら完投したが、惜しくも3-4で敗れる。新チームで背番号1を着けると体格、球速ともグレードアップ。甲子園を目指したが、夏は五回戦で寺島成輝(現・東京ヤクルト)を擁する履正社高に0-2で敗れた。プロ志望届を提出したものの、右ヒジに不安を抱えていたこともあって指名はなく、さらなる成長を目指して2017年にJR東日本へ入社する。

「入社してすぐに右ヒジを肉離れし、8月には遊離軟骨の除去手術を受けました。焦らずに、まずは右ヒジを万全にしようと考えましたが、なかなか思い通りのピッチングをすることができず、去年の5月頃にはストレートも130キロくらいしか出なくなってしまったんです」

緊迫したマウンドで満面の笑みを浮かべる

 そこで、コーチとともに、しっかりと軸足にウエイトを乗せるフォーム固めに取り組む。西田の非凡さは、瞬く間にフォームを修正し、5月下旬の都市対抗東京二次予選で登板機会を得たことだ。そして、太田らの奮投で本大会への切符を手にすると、東京ドームでは西田も鮮烈なデビューを果たす。太田が先発した西濃運輸との一回戦では、3点リードの9回に登板。キレ味抜群のストレートをテンポよく投げ込み、3者凡退で試合を締める。続く二回戦は、新日鐵住金鹿島と息詰まる投手戦。先発の板東湧梧(現・福岡ソフトバンク)を1-0と最少リードの7回二死一、三塁でリリーフすると、四球で満塁とされたものの次打者を三振に仕留め、ここから9回の先頭まで5者連続三振を奪って1点を守り切る。何より強く印象に残ったのは、ベテランでも重圧を感じる場面でマウンドに登っても、笑顔を見せていること。それも、微笑む程度ではなく、白い歯を見せて満面の笑みを浮かべているのだ。

「バックを守る先輩方にも『笑うな』って言われるんですけど、とにかく野球が好きで、思い切り投げられることが楽しくて……。1年目の苦労を考えたら、怖いくらい順調に力をつけられています。プロで活躍したいという思いは、高校の頃よりもずっと強くなりましたね」

 ただ、太田が「3年目を強く意識する」と明かしたのに対して、西田は「今年ドラフト指名されなければならないとは考えていません」と言う。

「一番の目標は、JR東日本で都市対抗に優勝すること。そのためにやるべきことをやり遂げるのが大切だと思っています。結果的に、太田が先発で活躍して、僕はリリーフで登板機会が少なくなっても、日本一になれるならそれでいい。太田や山口(裕次郎)にライバル心をメラメラと燃やすこともないし、個人賞にも関心はない。チームの勝利に貢献して、その評価としてドラフト指名されれば、喜んでプロの世界に飛び込みたいと思っています」

 常に頭にあるのは、チェンジアップやカットボールの精度も高め、ケガなくシーズン通して投げること。そんな西田の笑顔をどれだけ見られるか。そして、どんな結果を残してくれるか。“スマイル王子”の可能性は無限大だ。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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