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絶対に食べておかねばならない 横浜の家系ラーメン「ノスタルジック」3軒

山路力也フードジャーナリスト
1974年に横浜で創業した『吉村家』から、家系ラーメンの歴史は始まった。

すべては『吉村家』から始まった

創業して半世紀近く経つにもかかわらず、今も連日行列を作る家系総本山『吉村家』。
創業して半世紀近く経つにもかかわらず、今も連日行列を作る家系総本山『吉村家』。

 今や全国的に人気を集めている「家系(いえけい)ラーメン」。豚骨醤油スープに鶏油を浮かべ、短めの太麺を合わせ、具はチャーシュー、ホウレンソウ、海苔3枚というのが基本的な家系ラーメンのスタイル。麺の茹で加減やタレの濃さ、油の量などが自分好みに調整が出来、老若男女幅広い客層の支持を集めているラーメンだが、その発祥は神奈川県横浜市にある一軒のラーメン店だ。

 1974(昭和49)年、杉田の地に創業。その後移転して、今は横浜駅西口で連日行列を作る『吉村家』(神奈川県横浜市西区南幸2-12-6)。大量の豚ガラを使った濃厚なスープにキレのある醤油ダレの組み合わせは、創業者の吉村実さんが「九州の豚骨」と「東京の醤油」を合わせるという発想から生まれたものだ。

 『吉村家』は1986(昭和61)年に初の支店として『本牧家』を開業。『本牧家』は『吉村家』と袂を分かち、さらに『本牧家』から独立派生する形で1988(昭和63)年には『六角家』が開業。『吉村家』『本牧家』『六角家』は「家系御三家」と呼ばれ、90年代から2000年代初頭の家系ラーメン黎明期に競い合い業界を牽引していった。

 その後、それぞれの店が支店や暖簾分け店を出したり、独立店などが増えていく中で、いずれも屋号に「家」をつけていたことから、いつしかラーメンファンの間で「家系」と呼ばれるようになり、さらに『吉村家』などの流れを汲むことのない店やチェーン店も増えていき、今では一つのラーメンのジャンルとして認知されるまでになった。

 まずは原点である『吉村家』を食べたのなら、次に行くべき店はどこなのか。今回は数ある家系ラーメン店の中でも、基本中の基本とも言うべき「レジェンド」級の店をご紹介したい。家系ラーメン好きであるならば、絶対に食べておかねばならない店ばかりだ。

スープと醤油、鶏油の黄金比『本牧家 本店』(1986年創業)

2023年5月に閉店が決まっている『本牧家 本店』。
2023年5月に閉店が決まっている『本牧家 本店』。

 「家系御三家」と呼ばれるレジェンド家系が『本牧家 本店』(神奈川県横浜市港南区下永谷3-1-5)。1986(昭和61)年に『吉村家』の支店として本牧間門の地で開業。その後『吉村家』から離れて別資本となり、1994年には現在の場所に移転している。ラーメン店が数多い環状2号線沿いで今もなお人気を誇るが、店主が高齢のために2023年5月7日をもって閉店することが決まっている。2017年には同じく「家系御三家」だった『六角家 本店』も閉店しており、家系黎明期を支えた店がなくなってしまうのは寂しい限りだ。

 『吉村家』のパンチが効いたラーメンと比べると、『本牧家』のラーメンはバランス重視型。豚骨、鶏ガラのまろやかな旨味のあるスープに醤油ダレ、そして甘みのある鶏油。いずれも突出することなく調和した味わいで、食べ手を選ばない万人向けのバランスになっている。麺は家系御用達の製麺所『酒井製麺』の家系麺を使用。街道を走るドライバーたちのみならず、ベッドタウンである近隣の住民たちも家族連れで訪れる、地域密着型のノスタルジック家系ラーメン店だ。

マイルドな味わいの優しい家系『たかさご家 本店』(1992年創業)

緑に赤文字の看板が特徴的な『たかさご家 本店』。
緑に赤文字の看板が特徴的な『たかさご家 本店』。

 「家系御三家」の一つである『六角家』出身者が創業者の一人として、基本の味を作った店が『たかさご家 本店』(神奈川県横浜市中区日ノ出町1-17)。高砂町に創業したのが1992年。その後、創業店は閉店してしまい現在は日ノ出町の店舗が本店として営業を続けている。全国に多数店舗を展開する『武蔵家』や『町田家』などの人気店を数多く輩出している店でもある。

 『たかさご家』のラーメンは、ゲンコツと背骨にネックなどを炊いたライトなスープに、キリリとした醤油ダレとしつこさのない鶏油。口当たりが優しく朝でも深夜でも食べやすいラーメンだ。麺は家系御用達の『酒井製麺』製だが、一般的な家系ラーメンの麺よりもやや細めの切り出しで食べやすい。マイルドで優しい味わいのノスタルジック家系ラーメン店だ。

濃厚なスープとうずら卵発祥の店『壱六家 本店』(1992年創業)

国道16号沿いで創業したから『壱六家』。
国道16号沿いで創業したから『壱六家』。

 『吉村家』などの流れとは異なる独自の路線で人気を集めているのが、1992年に磯子の国道16号沿いに創業した『壱六家 本店』(神奈川県横浜市磯子区森2-2-7)。その独自の路線は「壱系」とも呼ばれ、『壱六家』の屋号で多数の店舗を展開しているほか、独立や暖簾分け店も群を抜いている。今や世界にも店舗を広げる『町田商店』や『松壱家』の修業先としても知られ、家系ラーメンにうずらの卵を乗せた発祥でもある。

 他の家系とは異なりスープは豚骨のみを使用。粘度もある濃厚でクリーミーなスープに強めの醤油ダレ、香り豊かな鶏油を合わせることで、インパクトのあるバランスになっている。無料トッピングの刻んだ生タマネギとの相性も抜群だ。麺は地元横浜の製麺所『長多屋製麺所』の特注麺で、つるモチの独特な食感が心地良い。現在の家系ラーメンの隆盛の原点とも呼べるノスタルジック家系ラーメン店だ。

 今回ご紹介した3軒は、いずれも家系ラーメンを語る上で欠かすことの出来ない店ばかり。ノスタルジック家系ラーメンの存在がなければ、現在の家系ラーメンブームは無かったと言っても良い。是非とも『吉村家』をはじめとするレジェンドたちの家系ラーメンを食べ歩いて、家系ラーメンをより深く楽しんで欲しい。中でも『本牧家 本店』は間もなく閉店してしまうので、すぐにでも足を運んで頂きたい。

※写真は筆者によるものです。

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フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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