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カツオを大量窃盗? なぜ焼津港でカツオは横流しされたのか?

山路力也フードジャーナリスト
大量の冷凍カツオが盗まれた焼津港。(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

焼津漁業協同組合職員ら7人が逮捕

 2021年10月、静岡県焼津市で水揚げされた冷凍カツオ4.5トンを盗んだとして、水産加工会社の元社長や役員、焼津漁協職員、運送会社社員など7人が逮捕されたニュースが注目を集めている。焼津漁港は海産物の水揚げ額が412億円(2020年)と日本一で、冷凍カツオの水揚げ量も約89,000トンと日本一を誇る港だ。

 水揚げされたカツオは漁協が計量所で計量した後に、水産会社を通して水産加工会社へと納品される。今回逮捕された漁協職員はいずれも計量部門を担当しており、水揚げされたカツオは計量所を通さずに水産加工会社の倉庫に運ばれたという。水産加工会社役員からは見返りに漁協職員らに報酬が支払われていたとみられている。

 これによって、漁業者(漁師)である多くの漁協組合員たちや中抜きされた水産会社が被害を受けている。今回の事件について、焼津漁協は10月12日に調査委員会を立ち上げた。現場関係者から聞き取り調査を行い、事件の全容解明と再発防止を目指すという(参考記事:読売新聞オンライン 11月15日)。

漁協=漁業協同組合とは?

資源管理や漁業権管理を行う漁協は漁業者によって組織されている。
資源管理や漁業権管理を行う漁協は漁業者によって組織されている。写真:アフロ

 漁協とは漁業協同組合(JF=Japan Fisheries cooperative)のことである(参考ページ:JF全漁連ホームページ)。漁業者や水産会社(漁業会社)によって構成される協同組合で、主に資源管理や漁業権の管理を行う。漁業者は水揚げした魚を漁協に販売を委託し、漁協は魚の収穫量を計測して競りなどで売買し販売手数料を得る。

 今回の事件では焼津漁協の職員が、水揚げされたカツオの計測時に一部のカツオを計測せずに水産加工会社へ横流しし、見返りに報酬を得た疑いが持たれている。漁協関係者証言によれば、30年ほど前から噂があったということなので、人を替えてて長年にわたって不正が行われていた可能性がある。しかも、漁協職員のみならず水産加工会社や運送会社の人間までもが関与していたとなると、不正を見抜くのは困難だ。

 古くからの慣習によって、なかなか見えにくい水産物流通のシステム。今回の事件はその水産物流通の構造的な問題も指摘されている。問題解決の手段として、流通経路において一層の透明化が必要不可欠となる。

トレーサビリティの導入に向けて

大手スーパーには「海のエコラベル」商品が並んでいるコーナーも。
大手スーパーには「海のエコラベル」商品が並んでいるコーナーも。写真:アフロ

 流通を可視化する手段の一つとして「トレーサビリティシステム」の導入が考えられる。「トレーサビリティシステム」とは生産履歴や流通、加工履歴などを確認出来る仕組みで、農作物や畜肉などでは導入が進んでいるが、水産物のトレーサビリティに関しては、現在一部のブランド魚や養殖魚および貝毒による被害回避のために独自に行われているものの、法的義務もなく導入が進んでいないのが現状だ。

 その背景には水産物流通における古くからの流通の慣習と、システム導入による様々なコスト増への懸念がある。水産物のトレーサビリティを可能にする一つの例として、『MSC(Marine Stewardship Council 海洋管理協議会)』が進める「海のエコラベル」認証の利用があるが、トレーサビリティの確保を確実にするためには、漁業者だけではなく加工業者や販売業者などが「MSC CoC認証」をそれぞれ取得する必要がある。

 最近では高知と宮崎の伝統漁法である「近海かつお一本釣り」がMSC認証を取得するなど注目を集めてはいるが、認証を取得するには漁業者や事業者に高額なコストがかかることもあり、イオングループやセブン&アイグループなど、大資本のスーパーなどが中心で、中小企業などでは取得が進んでいないのが現状だ。

 また漁業者の中にはパソコンなどを使うことに対して苦手意識を持った人たちも少なくなく、システム導入が進まないという側面も指摘されている。人的にも金銭的にも、いかにローコストで水産物の流通経路を可視化出来るかが、今回のような問題解決の鍵になる。

取引価格が低迷しているカツオ漁

今年は例年にない豊漁のカツオ漁。
今年は例年にない豊漁のカツオ漁。写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 ここ数年のカツオ漁は好調で、特に今年は前年の3倍以上の水揚げと例年にない豊漁ということもあり、コロナ禍による外食需要の減少とも相まって取引価格が低迷している魚の一つである(参考記事:河北新報 7月13日)。多くの漁業関係者が苦心している中で、このような事件が起こったことは残念でならない。

 本来、漁協と漁業者は一心同体であり、信頼関係があってこそ漁協は成立している組織だが、一部の職員の私利私欲のために起こった事件によって、漁協に対する信頼感が失われてしまったことは否めない。焼津漁協は一刻も早く今回の事件がなぜ起こったのか全容を明らかにして、流通の可視化、透明化への努力が急務となる。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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