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伝説を作ったラーメン職人が再び自ら厨房に立った理由とは?

山路力也フードジャーナリスト
2019年8月にオープンした『伊蔵八本店』(西日暮里)の「伊蔵八の中華そば」

ラーメンファンが西日暮里に集結

再び厨房に立ちラーメンを作る『伊蔵八』店主の小宮一哲さん
再び厨房に立ちラーメンを作る『伊蔵八』店主の小宮一哲さん

 2019年8月11日、JR西日暮里駅の入口脇に長い列が出来ていた。夏の陽射しが照りつける中、汗を拭いながら並ぶ人たちのお目当ては「ラーメン」。この日オープンしたラーメン店『伊蔵八(いぞばち)本店』(東京都荒川区西日暮里5-21-2)は、オープン前から閉店まで客足が途切れることがなかった。

 カウンターに座る客たちの視線の先。厨房に立って麺を上げているのは、店主の小宮一哲(かずのり)さん。2005年千駄木に創業し、一躍つけ麺ブームを牽引する人気店となった『つけめんTETSU』の創業者だ。こうして自身の店の厨房に立ってラーメンを作るのは久しぶりのこと。ラーメンファンたちは嬉しそうにその姿を見つめている。

「TETSU」「あの小宮」を生み出した男

小宮さんが創業した『つけめんTETSU』とプロデュースを手掛ける『あの小宮』
小宮さんが創業した『つけめんTETSU』とプロデュースを手掛ける『あの小宮』

 2014年にはTETSUを運営する『株式会社YUNARI』の全株式を売却し、外食企業傘下になった事も話題になった。「ラーメンドリーム」とも呼ばれる、昨今増えているラーメン業態のM&Aの先駆けでもある。その後、2016年に自身の立ち上げたYUNARIを離れてからは、TETSU時代のスタッフが独立して立ち上げたラーメン店『あの小宮』のプロデューサーとしてラーメン作りには関わっていたが、自身が経営するラーメン店としては今回の『伊蔵八』が初めてとなる。小宮さんにとって言わば「第二の創業」だ。

 「『TETSU』も『あの小宮』も僕にとっては平等に大切な「我が子」ですが、皆立派に成長して大人になって親元から巣立っていきました。今回の『伊蔵八』は今一番面白い「子ども」という感じですね」(伊蔵八店主 小宮一哲さん)

『いつまでもラーメン屋のオヤジでいたい』

 小宮さんは業界でも屈指のアイディアマンでオリジネーターでもある。『つけめんTETSU』では「つけダレが冷めてしまう」というつけ麺の構造的弱点を「焼き石」によって再加熱するというアイディアで人気を集めた。『あの小宮』では出店するごとにコンセプトやラーメンが異なるスタイルが話題になった。

西日暮里駅に隣接した場所にある『伊蔵八本店』と「伊蔵八の中華そば」
西日暮里駅に隣接した場所にある『伊蔵八本店』と「伊蔵八の中華そば」

 今回の『伊蔵八』のラーメンは、昔ながらの中華そばをブラッシュアップさせたような醤油ラーメン「伊蔵八の中華そば」が看板メニュー。鶏と椎茸などの旨味あふれる出汁にキリリとした醤油ダレをブレンドしたスープに、ザクッとした食感が印象的な細ストレート麺を合わせた。もちろん他の店にはない設計で個性的なラーメンではあるが、これまで革新的なアイディアを世に問うてきた2つのブランドと比べると、ある意味オーソドックスで正攻法のラーメンで勝負しているとも言える。

 「今回のブランドの基本的なコンセプトは『僕が食べたいと思うラーメンを作る』です。これまでのブランドで出来なかったことや、やり残したこともあるので、それをやっていけたらと思っています」(小宮さん)

 2005年、『つけめんTETSU』を創業したのは、西日暮里から程近い千駄木だった。そしてその創業日も同じ8月11日。新たな門出の日にはTETSUを立ち上げた仲間や弟子たちも集結して小宮さんをサポートした。TETSU創業からの常連客たちも列に並んだ。再びラーメン店主として復帰するのにふさわしい場所で大切な人たちに囲まれて、最高のスタートを切った。

 「『なぜまたラーメン屋をやるの?』と聞かれる事もありますが、やっぱり僕はラーメンが大好きなんです。目指しているのは『ラーメン屋のオヤジ』なんですよね」(小宮さん)

※写真は筆者の撮影によるものです。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

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