Yahoo!ニュース

今都内で最も熱いラーメン戦争が繰り広げられている街とは?

山路力也フードジャーナリスト
4月24日に「中華そば満鶏軒」がオープンし、錦糸町ラーメン戦争がさらに過熱化。

「3年以上続く店は3割」厳しいラーメンの世界

 今や国民食とも言うべき人気を誇る「ラーメン」。全国にあるラーメン専門店は30,000店以上と言われており、毎月数千軒もの店が新しくオープンしているが、ほぼ同数の店が暖簾を畳んでいる現実がある。新しくオープンしたラーメン店のうち、7割以上の店舗が営業3年以内で閉店し、4割以上の店舗については営業1年以内に閉店してしまう、実に厳しい世界でもあるのだ(参考資料:株式会社シンクロ・フード プレスリリース 2015年7月27日)。

 駅前や幹線道路沿い、商店街など人が集まるところには必ずラーメン店が複数店舗存在している。渋谷、新宿、池袋などのターミナル駅はもちろん新宿小滝橋通りや世田谷一帯の環状7号沿いなど、東京都内には数多くの「ラーメン激戦区」と呼ばれる場所が存在する。ラーメン店が多く集まる場所だからこそ、その闘いは熾烈を極める。その闘いを征して昼夜を問わず行列を作る人気店が生まれる一方で、人知れず閉店していく店も少なくない。そして閉店したラーメン店の場所にまた新たなラーメン店が出来る。その繰り返しである。

新たなラーメン激戦区となった錦糸町

2016年1月オープン「真鯛らーめん麺魚」。2017年4月には斜向いの立地に移転し客席は倍増した。
2016年1月オープン「真鯛らーめん麺魚」。2017年4月には斜向いの立地に移転し客席は倍増した。

 そんな東京のラーメンシーンにおいて、今注目を集めている街が「錦糸町」である。以前より実力ラーメン店が少なくはなかった錦糸町エリアではあるが、ラーメンファンたちの意識が注がれたのは2016年初頭のことだった。

 1月にオープンした「真鯛らーめん麺魚(めんぎょ)」は、千葉で「◯は(まるは)」ブランドのラーメン店をいくつも手掛けていた橋本友則さんが満を持して独立を果たした店。人気店「麺屋武蔵」出身にして料理人や魚の仲買の経験も持つ橋本さんならではの、ラーメンと和食を融合させた真鯛ラーメンが話題を集めて、オープン早々にメディアが殺到し一躍行列店の仲間入りを果たした。前年よりラーメン業界では真鯛をはじめとする鮮魚を使ったラーメンに注目が集まっており、麺魚がそのブームを加速化させたと言ってもいいだろう。

2016年オープンの「麺屋中川會」と、2018年オープンの「中華そばムタヒロ」。
2016年オープンの「麺屋中川會」と、2018年オープンの「中華そばムタヒロ」。

 そして翌2月には住吉、曳舟などで人気を集める「麺屋中川會」の新本店が錦糸町にオープン。濃厚な豚骨魚介スープのつけ麺で、締めにはカレー風味にスープを仕上げてご飯と食べるスタイルで人気に火が点いた中川會。順調に支店展開を重ねている人気店が麺魚に続いてオープンしたことで、錦糸町は一気に注目される「新・ラーメン激戦区」となった。

 その後も実力店が次々とオープンしていき、都内でも有数のラーメン激戦区となった錦糸町だが、2018年に入ってまたその勢いが激しくなっている。国分寺など武蔵野エリアでドミナント出店を重ねていた「中華そばムタヒロ」が、これまでの西東京から一気に東東京へ飛び、2018年3月に錦糸町へと出店を果たしたのだ。

 ムタヒログループを牽引する「株式会社GREAT SMILE」代表取締役の牟田伸吾さんは、東京スカイツリーや浅草にも程近い錦糸町という立地はインバウンド需要も大きいと錦糸町への出店を決めたと語る。『錦糸町駅周辺には飲食店も多く、これまで展開している国分寺にも通じる賑やかさがあるので、今後錦糸町周辺でのドミナント展開も視野に入れています』(代表の牟田伸吾さん)

「ムタヒロ」を迎え撃つ「麺魚」の新ブランド

「真鯛らーめん麺魚」店主の橋本友則さん。人気店の相乗効果で錦糸町の活性化を期待する。
「真鯛らーめん麺魚」店主の橋本友則さん。人気店の相乗効果で錦糸町の活性化を期待する。

 そして2018年4月には、錦糸町ラーメン戦争の火付け役でもある「麺魚」が新たなブランド「中華そば 満鶏軒(まんちーけん)」をオープンさせた。場所は昨年まで「麺魚」の店舗だった物件を流用。移転した「麺魚」と目と鼻の先という好立地で異なるブランドを並べてきた。

 両店を展開する「株式会社 麺魚」代表取締役の橋本友則さんは、麺魚移転時から旧店舗を手放すことなく次の展開を考えていたという。当初は麺魚のスープなどを仕込むキッチンとして利用していたが、新たに大きなキッチンが完成したため第二のラーメン店にすることに決めた。『麺魚をオープンさせる時に、鯛で行くか鴨で行くかを迷って鯛にした経緯があるんです。なので、今回は迷うことなく鴨を使おうと思いました』(代表の橋本友則さん)

「中華そば 満鶏軒」の「鴨中華そば(塩)」。合鴨と水、塩しか使わないシンプルなスープ。
「中華そば 満鶏軒」の「鴨中華そば(塩)」。合鴨と水、塩しか使わないシンプルなスープ。

 これまで「真鯛」をテーマにしてきた麺魚だが、新たなブランドである「満鶏軒」では「鴨」をテーマにしたラーメンを提供している。ベースとなるスープは合鴨と水だけで抽出。仕上げにフォアグラをソテーして取り出したフォアグラ油を浮かべ、味付けはドイツの岩塩のみと、シンプルな構成は麺魚と同様。チャーシューはもちろん鴨を使い、スモークしたモモ肉とロース肉の2種類を乗せた。燻製する手法も麺魚と同様だ。スッキリとしつつも飲み進めるほどに旨味がどんどん増していくスープは、既存の鴨ラーメンとは一線を画する、確かに麺魚らしいアプローチの味わいになっている。

 2018年に入って実力店の新店が相次いでオープンしたことにより、錦糸町ラーメン戦争はさらに過熱化することは間違いないだろう。『錦糸町は実力のあるお店がたくさんあるので気が抜けません。それが結果として相乗効果で錦糸町が盛り上がっていけば良いのではないでしょうか。麺魚としてもさらに錦糸町での出店を計画中でドミナント展開が出来ればと思っています』(代表の橋本さん)

※写真は筆者の撮影によるものです。

フードジャーナリスト

フードジャーナリスト/ラーメン評論家/かき氷評論家 著書『トーキョーノスタルジックラーメン』『ラーメンマップ千葉』他/連載『シティ情報Fukuoka』/テレビ『郷愁の街角ラーメン』(BS-TBS)『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日)『ABEMA Prime』(ABEMA TV)他/オンラインサロン『山路力也の飲食店戦略ゼミ』(DMM.com)/音声メディア『美味しいラジオ』(Voicy)/ウェブ『トーキョーラーメン会議』『千葉拉麺通信』『福岡ラーメン通信』他/飲食店プロデュース・コンサルティング/「作り手の顔が見える料理」を愛し「その料理が美味しい理由」を考えながら様々な媒体で活動中。

山路力也の最近の記事