今年も先進国最下位。日本の労働生産性の課題と持続可能な生活のためにもっと大事なこと

(写真:アフロ)

12月18日、「労働生産性の国際比較」の2019年版が発表されました。

日本の労働生産性は、「1人当り」と「時間当たり」共に先進7カ国中の最下位という状態が20年以上続いています。

この「国際比較」の結果をどう見ればいいのかは、昨年「日本の生産性は先進7カ国で最下位!」に惑わされないために知っておきたいことという記事で詳しく解説しました。

上の記事では

・ランキング結果だけを見て一喜一憂しても意味がない(「労働生産性」の算出方法や各国のビジネス環境の違いなどの理解が必要)

・「効率よく働けば生産性ランキング上位国になれる」と考えるのは間違い

ということを伝えた上で、私たちの生活を豊かにしていくには、産業別、企業別、部署別、そして個人の人生といったより小さな単位での「生産性」に注目し、改善を続けていくことが重要だと訴えました。

この点を踏まえつつ、今年の「国際比較」の結果から、注目すべきポイントをいくつか紹介したいと思います。

ランキング1位のアイルランドをめぐる動き

今回、「1人当り」および「時間当たり」の労働生産性で1位だったアイルランドは、1人当たり労働生産性については2015年、時間当たり労働生産性については2016年から、ずっと1位の座を保持しています。

これは、極めて低い法人税率でグーグルやアップルといった大企業を国外から誘致し、その売上がアイルランドで計上されていることが大きな要因です。アイルランド国内の労働者が効率良く働いているということではなく、国の政策が功を奏しているわけです。

しかし、この状況は今後変わっていきそうです。というのも、アイルランドおよび同国に本社機能を置くグローバルIT企業に対し、実際に利益を上げている国に税金を収めていないという国際的な批判が高まり、そういった企業が巨額の追徴金や罰金を支払うという事態が起きているからです(参考:グーグル、1150億円支払いで仏と和解 課税逃れ問題(日本経済新聞 2019年9月13日))。

今後はアイルランドに本社を置くメリットが薄れていき、長い目で見ると同国の労働生産性は低下していくと思われます。これはアイルランドにとっては損失ですが、企業が実際に活動した国の人たちに利益が還元されるようになるのであれば、国際的に見て望ましいことだと言えるでしょう。

日本の人手不足と労働生産性の関係

日本の状況を見てみると、1人当りの労働生産性は前年を0.2%下回りました。データを集計した日本生産性本部は、「経済成長は比較的堅調だったものの、それ以上に人手不足と認識する企業が雇用を拡大させたことが生産性に影響したものと考えられる」と分析しています。

また、時間当たり労働生産性の方は2017年と比べて1.5%上昇していますが、他国との差は縮まっていません。これも、企業が人手不足で雇用を拡大させた結果、現時点では未熟練者が多くて業務効率が低いということかもしれません。

単に人を増やしただけでは、企業の業績アップにはつながらないのです。個々の職場の単位では、採用した人をきちんと育てて業績に貢献してくれる人材にすることや、今いる人材でできることを増やしていくための業務の効率化などが、今後の課題となるでしょう。

主要先進7カ国の時間当たり労働生産性の順位の変遷(日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2019」より)
主要先進7カ国の時間当たり労働生産性の順位の変遷(日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2019」より)

日本では、サービス産業の生産性向上が重要

ところで、「労働生産性の国際比較 2019」レポートでは、「製造業の比重が比較的大きく、産業構造が近い」ということでドイツに注目しています。上の図を見ても分かる通り、先進7カ国の中でもドイツは時間当たり生産性がアメリカに次いで高いのです。

レポートには、ドイツは年間平均労働時間が1,363時間(2018年)と短く、「無駄なことを極力省いて効率的に仕事を進める意識が徹底されている」ことが労働生産性の高さにつながっているとあります。

これは確かに見習うべきことではあります。しかし、次のグラフを見ても分かる通り、日本で就業している人の過半数が第三次産業で働いている現状では、製造業以上にサービス産業に注目し、その生産性の向上を考えるべきではないかと思います。

産業別就業者数の推移(第一次~第三次産業)1951年~2018年 年平均 (独立行政法人労働政策研究・研修機構 「早わかり グラフでみる長期労働統計  > 労働力、就業、雇用(産業別)> 図4 産業別就業者数」より
産業別就業者数の推移(第一次~第三次産業)1951年~2018年 年平均 (独立行政法人労働政策研究・研修機構 「早わかり グラフでみる長期労働統計 > 労働力、就業、雇用(産業別)> 図4 産業別就業者数」より

サービス産業については、日本はアメリカの半分程度の水準であるという分析が昨年発表されました(参考:産業別労働生産性水準(2015 年)の国際比較)。特に、卸売・小売、宿泊・飲食、運輸・郵便の分野での差が大きく、改善の余地が大きいということが指摘されています。

最近では、スーパーやコンビニのセルフレジの導入や、24時間営業の見直し、飲食・小売チェーンの正月休業の動きなどが目立ちます。それが「実験」に終わることなく、機械化、無駄な営業や業務の見直しなどが進められ、サービス産業で働く人たちに利益が還元されていくことを期待します。

労働生産性の数値に反映されない価値もある

「労働生産性の国際比較 2019」レポートでは、2010年代に入ってから主要国の労働生産性上昇率が鈍化していることを指摘し、その要因のひとつとして「シェアリングエコノミーの台頭」が挙げられています。

例えば民泊やフリマアプリを介したモノやサービスのやり取りは、「Airbnb」や「メルカリ」などの運営会社が得る手数料は別として、個人の収入が統計上に現れてきません。内閣府の調査によると、シェアリングエコノミーの生産額(市場規模)の概算は、2017年に6,300億円~6,700億円程度で、そのうち1,300億円~1,600億円程度が補足できていない経済活動規模だとのことです(内閣府「「2018年度シェアリング・エコノミー等新分野の経済活動の計測に関する調査研究」報告書」より)。

政府はシェアリングエコノミーによって生み出された付加価値額をGDPに反映させることを検討しています。しかし、インターネットを介して個人がつながる時代であると同時に、地域の中のリアルなつながりも見直されつつある時代です。今後ますます、個人と個人の間で色々な活動が行われていく可能性を考えると、それを全てGDPに反映させていこうとするのは無理があるのではないでしょうか。

また、環境を守るために資源を使わないようにする、新たにモノを買わずに再利用する、といったことも、私たちの生活を維持していくためにとても重要なことですが、GDPにはマイナスの影響を及ぼします。

GDPや国の労働生産性というのは、経済的な価値をもとに算出される、ひとつの指標に過ぎません。その変化を追うことは、国がどういう状態にあるのかを捉えるために重要ですが、その中の個人が豊かな生活を送るためには、数値に表れない価値にも気づき、大事にしていくことが必要です。

参考:労働生産性の国際比較(公益財団法人 日本生産性本部)