生産性向上は世界の課題。その方法と問題~私たちの働き方を変える101のキーワードより~

(写真:アフロ)

先日、イギリスのBBCが「現代の私たちの働き方を変化させている101の人、アイデア、ものごと」を発表しました(記事の原題は“The 101 people, ideas and things changing how we work today”)。

ジャーナリストと専門家のグローバルなネットワークを通じて集めた意見を集約した内容だそうで、これを見ると、私たちの働き方が大きく変わりつつある今の状況がよく分かります。

中でも生産性向上と働く人の健康問題に関するキーワードの数が多く、日本のビジネスパーソンや企業にとっても有益な情報だと感じたので、以下に紹介します。

(この記事の最後に、101個すべてのキーワードも列挙しています)

BBCのニュースサイトより“The 101 people, ideas and things changing how we work today”のページ
BBCのニュースサイトより“The 101 people, ideas and things changing how we work today”のページ

■生産性を高める様々な方法

101のキーワードを内容別に分類してみると、「現代の仕事環境においていかに生産性を高めるか」という問題に関わるものが最も多く挙がっていました。

テクノロジーの発展やビジネス環境が大きく変化した今、組織の統制や勤勉さといった過去の成功の秘訣が通用しなくなっているのです。

・重要なことに集中する仕事術や脳や身体のコンディション調整

AIやロボットで自動化する仕事が増えつつある今、人間にはより深く思考したり創造的であることが求められています。一方で、SNSやチャットなどを通じて常に新しい情報にさらされるようになった私たちは、ひとつのことに集中し続けるのがとても難しくなっています。

101のキーワードの中には、そんな状況下でやるべきことをやり遂げるための方法やツールがいろいろ挙がっています。

例えば「エッセンシャル思考(Essentialism)」は、なんでもかんでも手を出さず、本当に重要なことだけを選んでやり遂げ、成果を出そうという考え方です。

余計なデジタルツールや情報を遮断して重要なことに取り組む時間を作ることを提唱する「ディープ・ワーク(Deep work)」「デジタル・デトックス(Digital detoxing)」は、「エッセンシャル思考」を現代の仕事環境で実行する、より具体的な方法だと言えるでしょう。「先延ばし回避のためのコーチング(Procrastination nannies)」をサービスとして提供する会社も出てきています。

手を出しやすいものとしては「脱線防止アプリ(Anti-distraction apps)」、つまりPCやスマートフォンなどでSNSや特定のウェブサイトなどをブロックし、仕事からの脱線を防止するアプリがあります。また、定期的に「数分の休憩(Microbreaks)」を取ることや「昼寝(Hirune)」(日本企業の流行として日本語が紹介されています)も集中力の持続につながるそうです。

「脳や身体のコンディションを最高に」という意識が高まった先には、「バイオハッキング(Biohacking)」「微量の薬物摂取(Microdosing)」なども登場します。バイオハッキングとは自分の身体を「ハック」すること。瞑想や断食といったものから、サプリメントの摂取、少量のLSDの摂取、微弱電流で脳に刺激を与える、遺伝子編集……といった極端に思える方法まで、幅広い内容が含まれます。

・職場を集中できる場所にする

101のキーワードの中には、「空気の綺麗なオフィス(Breathable offices)」「オフィス内の騒音(Noise pollution)」「職場の温度管理(Thermostats)」など、職場環境の問題も登場します。「生産性向上プレイリスト(Productivity playlists)」として、仕事がはかどる音楽ばかりを流すストリーミングサービスなども出てきています。

これらも、より集中を要する仕事が増えているという時代の変化を反映している面があるでしょう。8月26日に厚労省の若手チームが発表した「厚生労働省の業務・組織改革のための緊急提言」には、「暑い、狭い、暗い、汚い」という劣悪な職場環境を訴える記述もありました。重要な仕事を担う人たちの職場だからこそ、きちんと改善してより高いパフォーマンスを発揮してほしいものです。

■成果を求める風潮と働く人の健康の問題

生産性を上げる様々なツールや方法は大いに参考になるものの、「仕事のためにコンディションを整え、最大限の成果を出せ!」という風潮に疲れてしまうこともあるのではないでしょうか。

101のキーワードのひとつ「Rise and grind」は、「起きて仕事するぞ!」みたいな意味の決まり文句のようです。インスタグラムを「#riseandgrind」で検索すると、ポジティブな写真や画像がたくさん並びますが、無理して自分を鼓舞している人も多いのかもしれません。元記事ではこれを「燃え尽き症候群(Burnout)」につながる姿勢として問題視しています。

他にも、「過労死(Karoshi)」「プレゼンティーイズム(Presenteeism)」「リーヴイズム(Leaveism)」など、「成果を出さなければ」「仕事で認められなければ」というプレッシャーが引き起こす問題が挙げられています。

「プレゼンティーイズム」は心身の健康状態に問題があるのに仕事を続けている状況を指し、回復を遅らせる、仕事の質の低下につながる、という問題につながります。

「リーヴイズム」は、有給休暇が「仕事から離れて休む」という本来の目的のためでなく、多すぎる仕事を片付けるためや、病気や家族の介護などのためなどに使われることを指します(欧米では、有給休暇とは別に病気休暇を申請するルールになっている国も多いのです)。上司や同僚はその人が抱えている問題に気づけないため、仕事量の調整などの対応が取られないまま問題が温存されてしまうのです。

こういった問題に対応するために、「幸福コーチ(Happiness coaches)」を雇ってストレスの少ない職場づくりをしたり、「週4日勤務(Four-day week)」を導入して仕事以外の時間を取れるようにしたりするということも、注目されつつあります。

■ダイバーシティ&インクルージョン、個人データの取り扱い、ギグ・ワーカーもグローバルな問題

以上、生産性向上と健康問題に関わるキーワードをご紹介しました。

ほかに数が多かったのは、職場のダイバーシティ&インクルージョンに関わるキーワードです。日本発の運動として「#KuToo」が紹介されていましたが、それ以外にも男女の賃金格差、LGBTQの権利、障害者の雇用などに関わる様々なキーワードが挙がっています。

また、日本では「リクナビ」を利用した学生の内定辞退率予測データが企業に販売されていたことが問題になりましたが、海外でも求職者や従業員のデータを分析して採用や評価、退職意向の予測などに利用する動きが活発になっています。101のキーワードの中には「ピープル・アナリティクス(People analytics)」「テクノロジーによる従業員の監視(Hypersurveillance at work)」「採用と解雇の自動化(Automated hiring - and firing)」「生体データ履歴書(Biometric CVs)」などが挙がっています。個人のプライバシーをどう考えるのか、AIの判定に頼って問題ないのかなど、今後も議論が続いていくでしょう。

これに加えて、「フリーランスの長期契約(Permalancing)」「ギグ・エコノミーの闇(Gig reality)」など、フリーランスやギグ・ワーカーという一見自由な働き方が、企業にとっては社会保障などの負担も労働時間管理などもなしに低コストで人を働かせる方法になっているのでは? という問題提起も目につきました。

これらの課題は日本でも認識されていますが、欧米諸国の方が大きな訴訟になるなど、よりセンシティブな問題になっているようです。日本の企業も働く個人も、リスクを回避するために、あるいは自分の権利を守るために、世界の動きを知っておく必要があるでしょう。

【私たちの働き方を変える101のキーワード】

※各キーワードの後ろのカッコ内の英語が、元記事で挙げられているキーワードです。元記事では、各キーワードからその内容を詳しく解説する別の記事へのリンクが貼られています。日本語訳は筆者によるもので、上述の解説記事を確認の上、わかりやすいように意訳しているものがあります。

1. 人生100年時代(100-year-lifespan)

2. 5G通信(5G)

3. AQ(適応性指数)(Adaptability quotient)

4. AIアルゴリズムの正義(Algorithmic justice)

5. 脱線防止アプリ(Anti-distraction apps)

6. AIによるメール文の自動作成(Autocomplete)

7. 採用と解雇の自動化(Automated hiring- and firing)

8. バイオハッキング(Biohacking)

9. 生体データ履歴書(Biometric CVs)

10. 空気の綺麗なオフィス(Breathable offices)

11. 燃え尽き症候群(Burnout)

12. カーフリー都市(Car-free cities)

13. 中国の「996勤務」(China's 996)

14. コリビング(Co-living)

15. 共働きカップル間の不平等(Couple inequality)

16. クラウド・ファンディング(Crowdfunding)

17. ディープ・ワーク(Deep work)

18. 「脱成長」運動(Degrowth movement)

19. デジタル・デトックス(Digital detoxing)

20. デジタル・ノマド(Digital nomads)

21. 多様性に関するデータ収集(Diversity tracking)

22. 電子国民(e-Residency)

23. 電動バイク(Electric scooters)

24. エッセンシャル思考(Essentialism)

25. 顔認識システム(Facial recognition)

26. 金融業界のフリースベスト(Finance vests)

27. 「経済的に独立して早期リタイア」ブーム(FIRE movement)

28. 環境保護のために飛行機に乗らない「飛び恥」運動(Flygskam)

29. 週4日勤務(Four-day week)

30. ガーナの起業家 フレッド・スワニカー(Fred Swaniker)

31. コロンビアの起業家 フレディ・ベガ(Freddy Vega)

32. 見えざる労働(Ghost work)

33. 職場におけるゴースティング(突然消えること)(Ghosting at work)

34. ギグ・エコノミーの闇(Gig reality)

35. ギグ・ワーカーと自動化の脅威(Globotics)

36. やり抜く力(Grit)

37. 幸福コーチ(Happiness coaches)

38. 目に見えない障害(Hidden disabilities)

39. 「いいね」の非表示(Hidden likes)

40. 昼寝(Hirune)

41. ヒューマニクス教育(Humanics)

42. 謙虚なリーダー(Humble leaders)

43. テクノロジーによる従業員の監視(Hypersurveillance at work)

44. リモートワーカーのオフィス出勤日(In-office days)

45. 差別防止研修(Inclusion workshops)

46. VTuber事務所(Influencer agencies)

47. 取り残される喜び(JOMO)

48. 過労死(Karoshi)

49. コンデ(「古い考え方を押し付けるオッサン」を指す韓国語のスラング)(Kkondae)

50. #KuToo(#KuToo)

51. リーヴイズム(仕事やその他の過負荷に対応するために休暇を取ること)(Leaveism)

52. リブラ(Facebookが発表した仮想通貨)(Libra)

53. ジョブシェア2.0(Job share 2.0)

54. リズ・ジョンソン(障害者の雇用促進の活動を行うパラリンピックメダリスト)(Liz Johnson)

55. 長寿経済(Longevity economy)

56. マリエム・ジャメ(女性にプログラミング教育を行う起業家)(Marieme Jamme)

57. 孫正義(Masayoshi Son)

58. #Me Tooの展開(MeToo evolution)

59. ミア・ペルドモとアンドレア・デ・ラ・ピエドラ(中南米の企業のジェンダー平等度合いをランク付けする会社の共同創業者)(Mia Perdomo and Andrea de la Piedra)

60. 数分の休憩(Microbreaks)

61. 微量の薬物摂取(Microdosing)

62. マイクログリッド(Microgrids)

63. ナノ・インフルエンサー(Nanoinfluencers)

64. 脳の多様性(Neurodiversity)

65. 第三の性の受容(Non-binary acceptance)

66. オフィス内の騒音(Noise pollution)

67. オフィスで野菜栽培(Office farming)

68. やりがい搾取(Passion exploitation)

69. 賃金の透明性(Pay transparency)

70. ピープル・アナリティクス(People analytics)

71. フリーランスの長期契約(Permalancing)

72. プラットフォーム協同組合(Platform co-operatives)

73. ポップアップ・オフィス(Pop-up offices)

74. ポートフォリオ・キャリア(Portfolio career)

75. 仕事のない世界(Post-work)

76. プレゼンティーイズム(Presenteeism)

77. 先延ばし回避コーチ(Procrastination nannies)

78. 生産性向上プレイリスト(Productivity playlists)

79. 徹底的に率直なフィードバック(Radical candour)

80. 自治体によるリモートワーカー誘致(Remote workforce)

81. リバース・メンタリング(Reverse mentoring)

82. 「修理する権利」運動( Right-to-repair movement)

83. 「起きて仕事するぞ!」(Rise and grind)

84. 衛星インターネット(Satellite internet)

85. ECプラットフォーム「Shopify」(Shopify)

86. コミュニケーションツール「Slack」(Slack)

87. スマートオフィス(Smart offices)

88. ソフトスキル(Soft skills)

89. 分隊(Sportifyモデルの組織)(Squads)

90. スーパーアプリ(Super apps)

91. スーパージョブ(Superjobs)

92. テレプレゼンス(Telepresence)

93. 職場の温度管理(Thermostats)

94. 動画共有サービス「Tik Tok」(TikTok)

95. 無意識の偏見(Unconscious bias)

96. ユニバーサル・ベーシックインカム(Universal Basic Income)

97. 無制限の有給休暇(Unlimited holidays)

98. 引退しないで働く(Unretirement)

99. アメリカ女子サッカー代表チームによる男女格差解消のための行動(USWNT)

100. The We Company(「We Work」の運営会社)(The We Company)

101. 女性専用コワーキングスペース(Women-only workspaces)

出典:The 101 people, ideas and things changing how we work today