五輪に備え「都内勤務の約500人を2週間出社させない」が成功 どんな準備した?

メンバーズの本社がある晴海トリトンスクエア。その向こう側に、選手村ができる。

今月はじめ、2020年オリンピックのマラソン・競歩の会場が東京から札幌に変更されることが決まりました。とはいえ、オリンピック・パラリンピックの大部分は東京で行われます。東京で暮らし、働く人にとっては、その影響は無視できないものでしょう。

選手村が建設されている東京 晴海に本社オフィスがある株式会社メンバーズは、大会期間中は出社が困難になると考え、その間をテレワークで乗り切る方針です。今年の7月24日~8月7日の2週間、東京エリアの勤務者全員(約500名)がテレワークを行う、いわば予行練習をしました。

その結果、一斉テレワークに必要な準備や課題、今後の展望などが見えてきたといいます。

■準備中に最も重視したのは「社員の参加意識」の醸成

駅からオフィスに至る歩道の上には、普段から通勤混雑が激しい様子を伺わせる掲示が。
駅からオフィスに至る歩道の上には、普段から通勤混雑が激しい様子を伺わせる掲示が。

メンバーズは企業のウェブ制作・運用やSNSの運用支援等を行うデジタルマーケティング会社です。以前から、外出先などでの一時的なモバイルワークや、在宅勤務前提での地方社員の採用などに積極的に取り組んできました。しかし、普段はオフィス勤務をしている社員が全員で2週間ずっとテレワークという状況は初めてのこと。そのため、入念に準備を重ねてきました。

・事務局からの情報提供で不安解消

まず、2018年に30~40名規模でのトライアルを行った上で、今年の5月下旬に7~8名のメンバーによる事務局を立ち上げて「完全マニュアル」を作成し、6月に全社員に周知しました。

「完全マニュアル」は140ページにもわたるもので、勤務ルールや注意事項、機器の取り扱い方法など、テレワーク期間中に社員が困ったり迷ったりした時に「これを見ればすべて書いてある」というもの。

また、事前にグループ経営企画室 事業推進グループのメンバー全員で1日在宅勤務を実施し、社内に「一日在宅勤務やってみたレポート」を発信しました。「自宅のどこで勤務したか」「勤務中のトラブルと解消法」「家族にどう説明したか」などの具体的な体験を報告することで、事前にテレワークのイメージをもってもらうことを狙ったのです。

・全員がテレワークできるためにレンタルオフィスの契約も

2週間いつものオフィスに行かなくても確実に仕事を進めるには、インフラの整備も非常に重要です。

VPNを増強してたくさんの社員が同時に社内ネットワークに接続できるようにした上で、通常はノートPC、特に重たいデータを扱う社員にはMacBookを配布。必要に応じてテレビ会議に使うウェブカメラとヘッドセット、Wi-Fiも貸し出しました。

また、自宅で仕事をしたくてもその場所がない、家族がいて集中できる環境でないといった問題もあります。そういう人のためには、東京、千葉、神奈川、埼玉の郊外主要駅近くのシェアオフィスやレンタルスペースを会社契約し、自由に使えるようにしました。期間中、これらの臨時オフィスの設置には100万円ほどの費用をかけたそうです。

また、この期間は特別に当時7ヶ所あった地方拠点への出張を許可しました。メンバーズでは普段から、地方拠点や地方で在宅勤務の社員が東京の社員が遠隔でやり取りしながら仕事を進めています。この機会に地方の同僚の元に出向いて相互理解を深める機会にもなったようです。

・テレワークでのパフォーマンスの出し方について、自ら考えて行動することを促した

今回のプロジェクトを主導した執行役員の米澤真弥さんは、「一番意識したのは、社員の参加意識の醸成」だと振り返ります。

いくら環境を用意しても、「面倒なことをやらされる」といった不満や、「みんなが離れた場所にいて、仕事ができるのか?」といった不安は、当然出てくるでしょう。それに対するひとつの対応策が「完全マニュアル」です。しかし、社員みんなに前向きに取り組んでもらうために、事務局ではもう一歩踏み込んだ取り組みをしました。

「どうしたら、離れていても、いつもと違う場所でも、最高のパフォーマンスを出せるのか」を全員で本気で考えて行動に移してほしい、というメッセージを発信し、事前に各部署で「実施方針」を作成してもらったのです。

「実施方針」の記入フォーマットには、「想定される課題と対応方法」、「生産性向上の取り組み」、「顧客側のテレワーク方針」などの項目があり、それぞれの業務内容に合わせての課題の洗い出しと対応方針、関係者との事前すり合わせが促される内容になっています。

■結果は上々。より積極的なテレワーク活用の機運も

2週間の状況を振り返ると、テレワーク期間中は残業時間が減少し、稼働率は向上。情報機器やシェアオフィスの利用料金などがかかりましたが、残業代や東京のオフィスの水道光熱費などが削減された結果、コストの増分は20万円ほどに収まったそうです。

また、社員アンケートによると、「来年のオリンピック期間中に問題なくテレワークが可能」と答えた社員は69%、「来年までに解決可能」が18%とのこと。

「問題あり」と答えた社員が13%おり、事務局で認識した課題もあります。具体的には、対面で話したりケアをしたりする機会がなくなったことが原因か、テレワーク期間終了後にメンタル不調を訴える社員が出てきたこと、重いデータを扱う場合に回線速度が遅くなったこと、顧客や仕事の内容によっては皆同じようにテレワークはできない、といったこと。どれも難しい課題ですが、オリンピックまでまだ時間がある時点でそれが分かったというのは、素晴らしい成果ではないでしょうか。

オリンピックへの対応ということに限らず、一斉テレワークを経験したことで、「時間を有効に使える」「生産性の高い仕事の仕方を考えられた」など、テレワークの良さを実感した社員も多かったようです。

会社としても、自社の社員がテレワークでも概ね問題なく仕事ができることを把握するよい機会になったのでしょう。取締役兼常務執行役員の高野明彦さんによれば、優秀な人材の獲得や東京一極集中の是正のために地方での採用を積極化するほか、今後は首都圏近郊でも住宅地の近くにサテライトオフィスを設置し、社員のワークライフバランスを高めつつ、メンバーが分散していてもうまく仕事が進む体制を作っていきたい、とのことです。

■テレワークが必要になるタイミングにそなえ、早めの準備を

メンバーズの取り組みから学べることは、誰もがテレワークをできるようになるためには、事前の準備と、全対象者が練習できる機会を作ることがとても有効だということです。やってみないことには課題もわかりませんし、自信もつかないからです。

オリンピックの影響を受けないとしても、異常気象やパンデミックなど、急にいつものオフィスに出勤できなくなる可能性は大いにあります。お店でモノを販売するなど、そこに行かなければどうしようもない仕事もありますが、そういう業種であっても、その場に行くのが困難な時に完全休業にするのか、事務仕事だけでもテレワークでやるのかなど、いわゆるBCP対策は考えておく必要があります。

11月は「テレワーク月間」で、政府や関連団体などからも様々な情報発信がされています。この機会に自社や個人としてのテレワークの仕方を考えてみてはいかがでしょうか。