週4日勤務(週休3日制)への期待と懸念~イギリスの場合~

(写真:アフロ)

ここのところ、「週休3日」または「週4日勤務」に関するニュースを目にすることが増えました。

世界中で議論が起きるきっかけとなったのは、ニュージーランドのパーペチュアル・ガーディアン(Perpetual Guardian)社が昨年、全社員を巻き込んで2ヶ月間の週4日勤務を実験し、その結果を広く公開したことでしょう(その後、同社は希望者が週4日勤務をできる制度を正式導入しました)。

日本でも、株式会社サタケが2017年から夏季限定で週休3日のトライアルを続けているほか、今年はマイクロソフトが8月の全ての金曜日を休業にする働き方改革のプロジェクトを実施し、話題になりました。

ただ、日本で週4日勤務の正社員が増えていく兆候は、まだ見られません。一方でヨーロッパ、特にイギリスではより現実的な施策として週4日勤務の効果についての研究や、導入の検討が活発に行われているようです。

イギリスでは週4日勤務がどのように受け止められているのか、なぜ検討が進んでいるのかについて解説します。

調査対象企業の半数が週4日勤務制度を導入

今年7月、イギリスのヘンリービジネススクールが、同国における週4日勤務の影響に関する調査報告を発表しました。

それによると、調査対象となった505人のビジネスリーダー(企業のCxOクラスやオーナー)の50%が、一部または全従業員向けに週4日勤務を可能にしていると回答しています。導入しているのは主に大企業で、管理職を対象としているところが多いようですが、今後は企業規模も対象となる社員の範囲も広がっていくことが予想されます。

それにしても、すでに50%というのは驚きの普及度です。なぜこんなに週4日勤務が広がっているのか? 調査報告からはいくつかの理由が読み取れます。

週4日勤務による生産性向上効果

日本でも欧米でも、社員の欠勤(アブセンティーイズム)、出勤はしているものの心身の健康状態が良くないことでパフォーマンスが下がる「プレゼンティーイズム」、過度なプレッシャーのもとで仕事を頑張ることから生じる「燃え尽き症候群」などが、経営上の大きな課題になっています。週休4日勤務制度は、そういった問題を解消する有効な手段のひとつとしても注目されています。

実際、週4日勤務導入企業の70%が「従業員のストレスが少ない」、78%が「従業員がより幸せである」、62%が「従業員の病気が減った」と回答しています。また、「週5日以上の勤務の場合と比べて質の高い仕事をしている」(63%)、「従業員の生産性が高まり、より多くの仕事がなされている」(64%)など、仕事の成果に対する評価も上々です。そしてこれらの企業は、週4日勤務によるコスト削減の効果を年に920億ポンド(総売上高の約2%)と見積もっているそうです。

週4日勤務が従業員の心身の健康や幸福度の向上に役立ち、結果として質の高い仕事やより多くの仕事が可能になり、企業も利益を得ていることが推測されます。

"Four Better or Four Worse? A White Paper from Henley Business School”より”Benefits of a four-day Week”のデータを利用して筆者が作図

週4日勤務制度が人材を引きつける効果

今、欧米の企業は「quad-generation」といって、Z世代(90年代後半~2000年代前半生まれ)、ミレニアル世代(80年代~90年代中盤生まれ)、X世代(1960年代後半~1970年代生まれ)、ベビーブーマー(1940年代後半~1960年代前半生まれ)の4つの世代が入り交じる状況になっています。

週4日勤務導入企業へのアンケートの結果を見ると、70%が「年長の従業員を引きつけて維持するのに役立つ」と回答しています。これは、若いときよりも穏やかなペースで働きたいと考えるベビーブーマー世代のニーズに、週4日勤務が合うということだと考えられます。

「子供や介護の責任を持つ従業員を引き付け、維持するのに役立つ」(71%)については、子育て期にあたるX世代が主な対象でしょう。

また、ミレニアル世代、Z世代を念頭においたと思われる「若い従業員を引きつけて維持するのに役立つ」についても、64%がイエスと答えています。

週4日勤務は、それぞれに価値観が異なる4世代のニーズを満たす方法としても、有効だと考えられているようです。

"Four Better or Four Worse? A White Paper from Henley Business School”より”Benefits of a four-day Week”のデータを利用して筆者が作図

サイドハッスル(副業)に時間を使いたいミレニアル世代・ジェネレーションZ

週4日勤務が若い従業員を引きつける理由のひとつは、彼らがスキルアップや「サイドハッスル(side hustle)」と呼ばれる副業に、より多くの時間を使いたいと考えていることのようです。

調査報告書によると、休暇の使い方について、ミレニアル世代の49%とZ世代の44%が「自らの仕事のスキルを伸ばすために使う」、ミレニアル世代の57%とZ世代の51%が「個人的な興味のためにスキルを学ぶ」と回答しています。また、勤務先を選択する際に重視することとして、Z世代の80%が「柔軟な勤務時間の制度」を、64%が「ほかの仕事ができる」を選んでいます

ヘンリービジネススクールは2018年、イギリスにおける「サイドハッスル」の実態について調査しており、44歳以下の各年代ではそれぞれ3割以上が副業を持っていると発表しています。

”The Side Hustle Economy A White Paper from Henley Business School”より”who are side-hustling by age group”のデータを利用して筆者が作図
”The Side Hustle Economy A White Paper from Henley Business School”より”who are side-hustling by age group”のデータを利用して筆者が作図

日本でも「人生100年時代」に向け、一つの企業に人生を預けるのではなく自分でキャリアを切り開いていくための副業が注目されつつあります。イギリスは、なんといっても「人生100年時代」を提唱したリンダ・グラットン教授(ロンドン・ビジネススクール)のお膝元です。日本以上に若い人たちの副業がスタンダードになりつつあり、企業にもそれを可能にする働き方を求める声が高まっているのでしょう。

週4日勤務の懸念点

もちろん、誰もが週4日勤務に賛成しているわけではありません。

企業の最大の懸念点は、顧客への対応です。また、職場に週4日勤務の人が増えるとさまざまな勤務パターンが発生し、勤怠管理が複雑化することも考えられます。実際、世界第2位の研究資金支援財団のウェルカム・トラスト(本部:ロンドン)は、800人の本部スタッフに対する週4日勤務の導入を検討した上で、中止しました。理由は「実施するのが業務上、あまりにも繁雑」だから、だそうです。

先に週4日勤務が4つの異なる世代(quad-generation)それぞれのニーズを満たす可能性があることを指摘しました。逆に特定の人にだけその恩恵が与えられると不公平感を生じさせ、人間関係を悪化させる恐れもあります。その権利が平等に与えられたとしても、勤務日の減少で互いに顔を合わせる機会が減れば、世代間の相互理解が進みにくくなる可能性も指摘されています。

個人の側も、新しい勤務制度にいきなり馴染めるわけではありません。今回の調査対象となった約2,000人の従業員のうち45%は「同僚から怠けていると思われる恐れがあるのなら週4日勤務を選択しない」と回答しており、35%は自分の仕事を同僚に委ねることになるのを気にしています。

ロシアでは、メドベージェフ首相が週4日勤務制の導入を提唱したところ、かなりの逆風にあっているというニュースもありました。(参考:「週休3日」 ロシアで波紋 専門家「給料減る」「肥満増える」

パートタイム先進国オランダの影響

様々な課題があっても、イギリスにおいて週4日勤務への期待が高いのはなぜか。筆者は、同じヨーロッパ内に、“パートタイム労働の先進国”オランダが存在することも大きいとみています。

オランダは、かつて「オランダ病」と呼ばれた大不況を抜け出すため、1982年に政府の支援のもと、雇用者団体と労働者団体の間で、賃金削減と雇用確保のための労働時間短縮について合意しました(ワッセナー合意)。仕事をより多くの人でシェアすることで失業率を下げる、という方向に舵をきったのです。

それ以来、フルタイムとパートタイムの間で待遇の格差をつけることを禁じる法律や(いわゆる同一労働同一賃金の実現)、労働者が使用者に対して働く時間や日数の短縮や延長を申し出ることのできる労働時間調整法などを制定し、徐々に働き方の柔軟性の高い社会へと変わっていきました。

そして今では、特に子供を育てる夫婦などでは週4日勤務や週3日勤務を選ぶ人も珍しくないという状態になっています。企業も従業員の様々な希望を聞きつつ、なんとかマネジメントしているわけです。ヨーロッパの国々はそういう例を身近に見ながら、自分たちにも週4日勤務が可能かどうかを真剣に考え始めているのです。

日本では、まだまだ雲の上の話のように感じてしまいがちな週4日勤務(週休3日制)ですが、シニア層が長く働き続けるニーズが増えたり、若い世代で副業やスキルアップのために時間を使いたいという機運が高まっていることなども考えると、もっと積極的に考えてみても良いのではないかと思います。