不屈のモスクワ五輪日本代表178人。全リストと驚きのメダリスト数

モスクワ五輪閉会式。ミーシャの涙(写真:山田真市/アフロ)

■1980年5月24日、ボイコット決定

 行き場のない怒りのさやをどこに収めたのか。国を代表するトップアスリートたちを一方的に悲嘆の縁に沈めたモスクワ五輪ボイコット決定から、5月24日でまる40年となった。

 東西冷戦下、ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議した米国のカーター大統領がモスクワ五輪ボイコットを呼びかけた。英国やフランス、スペインなど多くの西側先進国は応じなかったが、日本政府は応じた。

 最終的にはJOC(日本オリンピック委員会)による機関決定という形を取ったが、まさしく選手不在の“忖度ボイコット”。血の滲むような合宿やトレーニングの最中に悲報を聞いた選手たちは涙に暮れた。

 ボイコット決定後に認定された日本選手団は総勢178人。4年間の集大成となる場を失ったまま解散していった彼ら彼女らは、どのようにして比類なき失望を飲み込んでいったのだろうか。

 そんな思いから幻のモスクワ五輪代表のその後の戦績を調べると、意外な事実が浮かび上がった。多くのアスリートが4年後の84年ロサンゼルス五輪に出場していた。どん底のメンタル状態から実質的には2大会連続出場という高いハードルを越えたことを意味するだけに、その価値は極めて高い。

 88年ソウル五輪などを含めると、178人のうち3割近い51人がモスクワ以降の五輪の舞台を踏んでいた。モスクワ前の五輪を含めると69人、約4割の選手が五輪を経験していた。また、19人がモスクワ五輪前後にメダルを獲得していた。

■ロサンゼルス五輪金メダル10個中、5個がモスクワ組

 驚いたのは、ロサンゼルス五輪で日本が獲得した金メダルは10個で、そのうちの半分に当たる5個が、幻のモスクワ五輪代表が獲得したものだったことだ。体操の具志堅幸司(2つ)。レスリングの富山英明。柔道の山下泰裕。ライフル射撃の蒲池猛夫である。

 銀メダルは8個で、そのうちの4個が幻のモスクワ五輪代表のもの。体操の梶谷信之、具志堅幸司、レスリングの入江隆、太田章だ。

 銅メダルは14個で、モスクワ代表の中では女子バレーボール、体操男子団体総合と鉄棒の具志堅幸司、ゆかの外村哲也、レスリングの高田裕司がこの中に含まれる。高田はモントリオール五輪では金メダルを獲得している。

 32歳で初めて五輪代表の座を射止めながらはしごを外された悔しさをバネに、その後3大会連続で五輪に出場し、執念のメダル獲得へつなげたのはクレー射撃の渡辺和三だ。ロサンゼルス、ソウル、バルセロナ五輪に出場して徐々に順位を上げ、バルセロナでは44歳にしてとうとう銀メダルを獲得した。

 アーチェリーの松下和幹は31歳でロサンゼルス五輪出場を果たし、以後もソウル、アトランタ、シドニーと計4大会に出場している。

 ライフル射撃はモスクワ代表7人全員が前後の五輪舞台を踏んでいる。中でも蒲池猛夫はメキシコシティー五輪からロサンゼルス五輪まで5大会連続で代表になった文字通りの凄腕。48歳で出たロサンゼルス五輪で金メダルを手中に収めた。カヌーもモスクワ代表2選手ともロサンゼルス五輪に出場している。

 団体球技に目を向けると、男子ハンドボールがモントリオール五輪からソウル五輪まで5大会連続で出場権を手にしていたことが光る。

 ボイコット後は、4年後まで体力が持たずに引退した選手や、年齢による競技力低下で代表切符を掴めなかった選手がいるのも確かだ。ただ、彼ら彼女らの多くは後進の指導に当たり、後のオリンピアンや世界選手権代表を育てている。

 モスクワ組には、悔しさをバネにし、前向きのエネルギーに昇華させていく不屈のスピリットがあった。紛れもなく、敗れざる者たちだった。

■幻の代表178人とその後の五輪成績

★はモスクワ以外の五輪に出場した選手

<陸上競技18人>

 伊藤国光

 喜多秀喜

★新宅雅也(ソウル五輪時は永灯至に改名)=ロサンゼルス五輪男子10000m16位(28分55秒54)、ソウル五輪マラソン17位

 豊田敏夫

 中村孝生

 長尾隆史

 森口達也

★臼井淳一=ロサンゼルス五輪男子男子走り幅跳び7位入賞(7.87m)、ソウル五輪男子走り幅跳び/予選で落選記録なし

 片峰隆

★阪本孝男=ロサンゼルス五輪男子走り高跳び(2.21m)予選で落選

★高橋卓巳=ロサンゼルス五輪男子棒高跳び12位決勝での記録なし

★室伏重信=ミュンヘン五輪男子ハンマー投げ8位(70.88m)、モントリオール五輪男子ハンマー投げ11位(68.88m)、ロサンゼルス五輪7位入賞(70.92m) (※長男の室伏広治はアテネ五輪金メダリスト。長女の室伏由佳はアテネ五輪)

 吉本敏寿

★松井江美=ロサンゼルス五輪女子やり投げ(57.72m)予選で落選、ソウル五輪女子やり投げ(56.26m)予選で落選

 八木たまみ

★瀬古利彦=ロサンゼルス五輪男子マラソン14位(2時間14分13秒)、ソウル五輪男子マラソン9位(2時間13分41秒)

★宗茂=モントリオール五輪男子マラソン20位(2時間18分26秒0)、ロサンゼルス五輪男子マラソン17位(2時間14分38秒)

★宗猛=ロサンゼルス五輪男子マラソン4位入賞(2時間10分55秒)

<水泳競技20人>

 青木正男

 樺谷博

 香山進介

★坂本弘=ロサンゼルス五輪男子200m自由形 (01分54秒71)予選落ち

 設楽義信

 中西俊二

★原秀章=モントリオール五輪男子200mバタフライ(02分04秒68)予選落ち、男子4×100mメドレーリレー8位(03分54秒74)

 三科典由

 山崎重樹

 吉原一彦

 大崎芳栄

★久米直子=ロサンゼルス五輪女子200mバタフライ6位入賞(02分12秒57)、女子4×100mメドレーリレー決勝で失格

★長崎宏子=ロサンゼルス五輪女子100m平泳ぎ6位入賞(01分11秒33)、女子200m平泳ぎ4位入賞(02分32秒93)、女子4×100mメドレーリレー決勝で失格。ソウル五輪女子100m平泳ぎ(01分16秒63)予選落ち、女子200m平泳ぎ(02分37秒44)予選落ち、

 沼野美奈子

★簗瀬かおり=ロサンゼルス五輪女子100m自由形/(58秒47)予選落ち、女子200m自由形16位(02分05秒24)コンソレーション8位、女子4×100m自由形リレー(03分54秒68)予選落ち、女子4×100mメドレーリレー決勝で失格

 山崎幸子

 渡辺智恵子

 伊藤正明

★馬渕よしの=ロサンゼルス五輪女子高飛込9位

★山中理貴子=モントリオール五輪女子飛板飛込18位、女子高飛込10位

<ボート4人>

 秋吉健吾

★礒富昭=モントリオール五輪男子エイト11位

 岩波健児

 津田真男

<ボクシング6人>

 荒井幸人

 菅藤弘

 木庭浩一

 副島保彦

 中村司

 樋口伸二

<バレーボール12人(女子)>

 石川嘉枝

 清水睦子

★横山樹理=モントリオール五輪金メダル

 水原理枝子

 小川かず子

 奥嶋桂子

★江上由美(ソウル五輪時は丸山姓)=ロサンゼルス五輪銅メダル、ソウル五輪4位

 吉永美保子

 池知晶代

★広瀬美代子=ロサンゼルス五輪銅メダル

★三屋裕子=ロサンゼルス五輪銅メダル

 古橋美知子

<体操14人>

★梶谷信之=ロサンゼルス五輪男子団体総合銅メダル、男子平行棒銀メダル、男子個人総合8位入賞、男子あん馬6位入賞

★梶山広司=モントリオール五輪男子団体総合金メダル、跳馬銅メダル、男子個人総合5位入賞

 北川淳一

★具志堅幸司=ロサンゼルス五輪男子個人総合金メダル、つり輪金メダル、跳馬銀メダル、鉄棒銅メダル、平行棒5位入賞

★外村康二=ロサンゼルス五輪男子団体総合銅メダル、ゆか銅メダル。

息子の外村哲也は北京五輪男子トランポリン4位

★山脇恭二=ロサンゼルス五輪男子団体総合銅メダル。男子つり輪/6位入賞(※娘の山脇佳奈はシドニー五輪に出場)

 余吾元博

 赤羽綾子

 穴見利香

 内田桂

 加納弥生

 野沢咲子

 日向由佳

 松本由子

<レスリング20人>

★入江隆=ロサンゼルス五輪男子フリースタイル48キロ級銀メダル

★太田章=ロサンゼルス五輪男子フリースタイル90キロ級銀メダル、ソウル五輪フリースタイル(90kg級)銀メダル、バルセロナ五輪フリースタイル(90kg級)3回戦敗退

 清水一夫

★高田裕司=モントリオール男子フリースタイル52キロ級金メダル、ロサンゼルス五輪銅メダル

 多賀恒雄

★伊達治一郎=モントリオール男子フリースタイル74キロ級金メダル

★富山英明=ロサンゼルス五輪男子フリースタイル57キロ級金メダル

 宮原章

 森康哲

★谷津嘉章=モントリオール五輪8位

 朝倉利夫

 今村民夫

★長内清一=ロサンゼルス五輪グレコローマン(62kg級)8位入賞

 柏木究

 佐々木文和

 高西一宏

 野口次夫

 藤森安一

 南敏文

 宮内輝和

<セーリング8人>

★池田正=ソウル五輪ソリング級11位

 小笠原憲男

 箱守康之

★花岡一夫=モントリオール五輪フライングダッチマン級18位、ソウル五輪ソリング級11位

 日高茂樹

★広沢孝治=モントリオール五輪フィン級21位

 三船和馬

 吉川剛

<ウエイトリフティング9人>

★安藤謙吉=モントリオール五輪バンタム級銅メダル

 後藤節哉

 高田邦彦

 高橋雅朝

★平井一正=モントリオール五輪フェザー級銅メダル

 福田輝彦

 宮下日出海

 島屋八生

 湯地保雄

<ハンドボール14人(男子)>

 福井秀人

★大畑孝広=ロサンゼルス五輪10位

★井藤英忠=ロサンゼルス五輪10位、ソウル五輪11位

 津川昭

★志賀良弘=ロサンゼルス10位

★関健三=ロサンゼルス10位

 斎藤将一郎

 斎藤幸司

★山本伸二=ロサンゼルス五輪10位

 大原真造

★穂積豊彦=モントリオール五輪9位

 中村満明

★蒲生晴明=モントリオール五輪9位、ロサンゼルス五輪10位

★池ノ上孝司=ロサンゼルス五輪10位

<自転車6人>

 池浦敏秋

 岡堀勉

 斎藤邦夫

 坂本典男

 山崎敏正

 渡辺幹男

<馬術10人>

★小畑隆一=モントリオール五輪障害飛越個人11位、障害飛越団体13位、ロサンゼルス五輪障害飛越団体11位

★杉谷昌保=モントリオール五輪障害飛越団体13位

 高宮輝千代

★竹田恒和=モントリオール五輪障害飛越個人39位、障害飛越団体13位 (※元JOC会長)

 豊田一夫

 平沢敏美

 内藤左智子

★中俣修=ロサンゼルス五輪馬場馬術個人39位

★植田元=モントリオール五輪総合馬術個人・失権、総合馬術団体・失権

 斎藤庫之丞

<フェンシング10人>

 板倉英行

 大塚清

★佐藤範幸=モントリオール五輪男子フルーレ個人予選敗退、男子フルーレ団体予選敗退

 千田健一=(※息子の千田健太はロンドン五輪男子フルーレ団体銀メダル)

 村田省

 伊藤真知子

★岡秀子=モントリオール五輪女子フルーレ個人予選敗退、女子フルーレ団体予選敗退

 庄司孝子

 横井晶子

 吉岡正子

<柔道7人>

 恵谷正雄

 柏崎克彦

 香月清人

 河原月夫

 藤猪省三

 森脇保彦

★山下泰裕=ロサンゼルス五輪男子無差別級金メダル

<ライフル射撃7人>

★赤塚裕幸=ロサンゼルス五輪男子ラピッド・ファイア・ピストル23位

★尾崎道治=モントリオール五輪男子スモール・ボア・ライフル3姿勢44位

★蒲池猛夫=メキシコシティー五輪男子ラピッド・ファイア・ピストル12位、ミュンヘン五輪男子ラピッド・ファイア・ピストル33位、モントリオール五輪男子ラピッド・ファイア・ピストル12位、ロサンゼルス五輪男子ラピッド・ファイア・ピストル金メダル

★勢見月文久=ソウル五輪男子フリー・ピストル23位

★平井親文=ロサンゼルス五輪男子フリー・ピストル18位

★細川幸雄=モントリオール五輪男子スモール・ボア・ライフル伏射31位

★松尾薫=モントリオール五輪男子スモール・ボア・ライフル3姿勢41位、男子スモール・ボア・ライフル伏射68位、

ロサンゼルス五輪男子スモール・ボア・ライフル3姿勢/33位、ソウル五輪男子スモール・ボア・ライフル3姿勢44位、男子スモール・ボア・ライフル伏射15位

<近代五種3人>

★内田正二=ロサンゼルス五輪男子団体11位、個人28位

★川添博明=ロサンゼルス五輪男子団体11位、個人29位

 坂野勝

<カヌー2人>

★井上清登=ロサンゼルス五輪フラットウォーター男子カナディアン・シングル500m(C1)6位入賞(02分01秒79)、男子カナディアン・シングル1000m(C1)8位入賞(04分18秒72)

★福里修誠=ロサンゼルス五輪フラットウォーター男子カナディアン・ペア500m(C2)8位入賞(01分50秒22)、男子カナディアン・ペア1000m(C2)(04分10秒77)準決勝敗退

<アーチェリー4人>

 広瀬明

★松下和幹=ロサンゼルス五輪男子個人総合4位入賞、ソウル五輪男子個人総合14位準々決勝敗退、男子団体6位入賞、アトランタ五輪男子個人総合2回戦敗退、シドニー五輪男子個人総合ランキングラウンド44位、男子団体1回戦敗退14位

 岡崎芳子

 藤田正子

<クレー射撃4人>

 石原敬士

★平野元治=ロサンゼルス五輪トラップ11位

★山下友也=ソウル五輪スキート33位

★渡辺和三=ロサンゼルス五輪トラップ11位、ソウル五輪トラップ6位入賞、バルセロナ五輪トラップ銀メダル

参考:日本オリンピック委員会公式サイト