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PK戦もある決勝トーナメントに突入!森保ジャパン、選手たちの心構えは? #アジアカップ

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
2022年W杯決勝トーナメント1回戦クロアチア戦でPK戦の末に敗退した日本(写真:ロイター/アフロ)

日本代表が3大会ぶり5度目の優勝を狙うアジアカップ(カタール)はグループリーグを終え、負けたらおしまいの決勝トーナメントが始まっている。日本はクロアチアと戦った2022年カタールW杯決勝トーナメント1回戦で、PK戦の末に敗退。目標としていたベスト8にたどりつくことが出来ず、ベスト16で大会から姿を消した。

悔し涙を流したあの試合から約1年2カ月。日本代表の森保一監督は、アジアカップ決勝トーナメント1回戦バーレーン戦を翌日に控えた1月30日、公式会見に臨み、PK戦になった場合のキッカーの選定方法を、W杯時の「挙手制」から監督による「指名制」とする可能性について言及。W杯で「結果で選手に責任を負わせることになった」のを反省したとし、監督による指名制を「優先順位の高い選択肢として持っておきたい」と語った。


また、W杯などではPK戦直前にGKを交代するケースが過去にあるが、森保監督は会見で「PKのトレーニングは積んでいる。試合終了間際に考えたい」と、選手交代のオプションのひとつとして考えているとした。

PK戦になった場合、選手個々はどのような心構えを持っているのか。アジアカップで取材したコメントを紹介する。

グループリーグ初戦のベトナム戦で2得点を決めた南野拓実(撮影:矢内由美子)
グループリーグ初戦のベトナム戦で2得点を決めた南野拓実(撮影:矢内由美子)

■南野拓実「もちろん蹴りたい」

選手による挙手制でキッカーを決めたカタールW杯クロアチア戦のPK戦では南野拓実、三笘薫が止められ、3人目の浅野拓磨が成功。4人目の吉田麻也も止められ、1-3で敗退が決まった。

カタールW杯で勇気ある一番手キッカーに名乗りを上げた南野は、アジアカップのグループリーグを突破した後のタイミングでPKについての思いを聞かれ、このように語った。

「自然体というか、もちろんそういう場面が来たら蹴りたい。でも、同じシチュエーションになったら僕が蹴ってやる、とは思っていません」

気負いのない表情でそう言うのは「PKになるまでに勝たないといけないというのがまずあるし、そのための準備をチームとしてしている」から。ただ、「PKの練習もやっている。もし、そういう時が来たら自信を持って蹴りたいなと思います」と強い気持ちを見せることも忘れなかった。

アジアカップ参戦中の浅野拓磨。ドーハで汗を流す(撮影:矢内由美子)
アジアカップ参戦中の浅野拓磨。ドーハで汗を流す(撮影:矢内由美子)

■浅野拓磨「とにかく自信を持って蹴ることが大事」

浅野はW杯クロアチア戦の後半19分から交代で出場。PK戦では前の2人が失敗して0-2と窮地に追い込まれながらも、思い切りの良いキックをしっかりと沈めた。

このアジアカップでもPKについての迷いは一切ない。

「試合も一緒ですけど、自信を持ってやっている中で勝負がある世界。自分なりにとにかく自信を持って蹴ることが大事かなと、僕は思っている。どういう時にそういう(PKの)場面が来ても決める自信はあります」

そのように語った浅野は「(PKは)全員が自信を持って蹴っていると思います」とも言った。

PK戦でも貢献しようという強い意志を持つ伊東純也(撮影:矢内由美子)
PK戦でも貢献しようという強い意志を持つ伊東純也(撮影:矢内由美子)

■カタールW杯以降、PKを磨いてきた伊東純也「次は蹴ろうと思っている」

カタールW杯でPKキッカーにならなかった選手たちにはどんな思いがあるのか。

クロアチア戦で120分間フル出場したMF伊東純也は、足に違和感を覚えていたためキッカーを回避したが、昨年9月のトルコとの国際親善マッチでは自身のドリブル突破で貰ったPKを自分で決めている。伊東はこの時、PKを獲得するとすぐにボールを取りに向かった。その様子も印象的だった。

「絶対に自分で蹴ろうと思った」(伊東)と語っていたのは、トルコ戦の試合会場が3年半にわたって所属したゲンクの本拠地だったことも理由だが、カタールW杯で刻まれた様々な思いを反映していることは間違いないだろう。

今回のアジアカップではPKについて得意かと問われると「普通ですね」という返答。「でも、次は蹴ろうと思っている」という決意を口にした。

「あの時(クロアチア戦)は足が肉離れをしていたので、個人的に蹴るのをやめておいた。もともと得意じゃないと思っていたというのもある。でも今は所属チーム(スタッド・ランス)でも蹴れるポジションまで来ている。いろんなところに自信を持って蹴れるように練習してきたし、GKを見るやり方も試している。自信を持って蹴れればと思っています」

ドーハで軽快な動きを見せている堂安律(撮影:矢内由美子)
ドーハで軽快な動きを見せている堂安律(撮影:矢内由美子)

■堂安律は? 久保建英は?

堂安律はカタールW杯クロアチア戦では先発して後半途中に退いたため、PKを蹴っていない。今回のアジアカップでは前向きにこう話している。

「PKはもちろん監督に求めてもらえれば蹴りたいと思ってますし、そこはそうなれば考えたい」

一方、カタールW杯クロアチア戦を体調不良で欠場した久保建英はPKに関しては「かなり苦手。苦手なので克服するように頑張っていますけど、元々あまり得意じゃない」と割り切りを込めて言う。そして、「(今回の代表合宿では)ちゃんと練習したので問題ないですけど、僕個人の気持ちとしては、やっぱりPKまで行かせずにしっかりチームを勝たせるというのが重要になってくるかなと思います」と語っている。

アジアカップ序盤はヒゲを生やしていた久保建英(撮影:矢内由美子)
アジアカップ序盤はヒゲを生やしていた久保建英(撮影:矢内由美子)

■GK陣の思い 鈴木彩艶「PKは自分なりのやり方がある」

相手のPKを受ける側となるGK陣はどうだろうか。

ここまでグループリーグ全3試合にフル出場している鈴木彩艶は「PK戦にならないことが一番」という前提を示しつつ、「PKは自分なりのやり方があるので、雰囲気に飲まれずに発揮することだと思います。大事なのはメンタルの部分。(得意かどうかは)分からないけど、U-23のアジアカップでは止めました」と自信を覗かせた。

彩艶の言葉通り、22年6月3日にウズベキスタンで行われたU23アジア杯グループリーグ初戦のUAE戦では、1-1で迎えた後半25分にPKをストップ。彩艶のビッグセーブでピンチを逃れた日本はその後、細谷真大のゴールで2-1の勝利を収めて白星発進に成功している。

調子を上げてきた鈴木彩艶(撮影:矢内由美子)
調子を上げてきた鈴木彩艶(撮影:矢内由美子)

■GK前川黛也は、神戸で昨季J1リーグPK2本を止めた実績

W杯ではPK戦を見越して延長戦でGKを交代するケースも過去にあった。前川黛也は30日の取材対応で「僕はその経験はないですね。でもW杯でそういうやり方をしているチームがありますし、それも戦い方、戦術の一つ。監督が決めること」と語った。

森保ジャパンは昨年末の事前合宿時からPK練習に着手。決勝トーナメント進出を果たしてからは非公開の時間帯にPK戦に備えてしっかりと準備をしている。前川は「PK戦になってもぶっつけ本番にならないように、日々、フィールドもキーパーも練習している」と説明している。

現在はPKキッカーについての情報戦が進んでおり、「世界のキッカーがどっちに蹴るか、蹴り足がどっちかなど、いろいろなところがすぐに分かるようになってきている」と指摘。そのうえで「情報はすごく大事だが、情報を凌駕する技術があれば関係ないと思う。相手に癖がバレていようが、結局、上手ければ決まる」と語った。

対応する側としては「その時のフィーリングというか直感に委ねる時もありますし、やっぱり情報通りに来るんだろうなと思ったりもする。逆に、相手もバレているというのを分かった上で蹴ってくるので、駆け引きも含めながら、その時の感覚でやっています」という。

所属のヴィッセル神戸で昨季のJ1リーグ優勝を果たした前川は、「昨年は止める機会が多くあって、そこから少しずつ自信にもつながってきた。今では落ち着いて対応できる自信はある」と話している。昨季J1では2度、PKをストップしている。

アジアカップではまだ出番がないが準備は万端の前川黛也(撮影:矢内由美子)
アジアカップではまだ出番がないが準備は万端の前川黛也(撮影:矢内由美子)

鈴木彩艶(右)も前川黛也もPKストップに自信を持っている(撮影:矢内由美子)
鈴木彩艶(右)も前川黛也もPKストップに自信を持っている(撮影:矢内由美子)

サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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