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浦和レッズが小学4年生の大会に力を入れるのは、なぜか

矢内由美子サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター
昨年5月の「レッズランドカップ」決勝戦(浦和レッズ提供)

 風薫る5月、全国各地のサッカーグラウンドでは、子どもたちの大会が数多く行われている。その中にはJクラブが主催している大会もある。

 毎年この時期に浦和レッズが開催している大会が、小学校4年生を対象とする「浦和☆RedsLand CUP(レッズランドカップ)」だ。

 浦和レッズは2013年に3年生から6年生までを対象とする「レッズジュニア」を立ち上げ、中学生年代の「ジュニアユース」、高校生年代の「ユース」と合わせて「育成での最長10年間の一貫指導」を開始した。そのときに掲げた方針のひとつが「ジュニア年代の選手や指導者との交流による地域活性化を含む貢献」である。

 浦和レッズとして地域に貢献するためには、具体的にどのようなことを行うのが良いのか。クラブの育成部門がディスカッションを重ねて考えたのが、4年生の子どもたちに、レッズランドの天然芝グラウンドで開催する大会を提供することだった。

 こうして2014年に始まったのが「レッズランドカップ」。今年は5月19日にレッズランド(さいたま市桜区)の天然芝2面をつかって第6回大会が開催される。

■4年生が出る大会は少なかった

 浦和レッズが4年生にフォーカスしたのはなぜか。

 4年生と言えば誕生日前の子どもは9歳、誕生日を迎えると10歳になる学年。それはちょうどゴールデンエイジのスタート時期に当たる。

 埼玉県スポーツ協会の公式サイトでは「9歳から12歳の子どもたちは『ゴールデンエイジ』と呼ばれ、脳・神経系の発達が完成に近づき、動作の習得に対する準備態勢が整い、国際的にも競技力向上に必要なあらゆる能力を身に付けるための最適な時期とされています」と紹介している。

埼玉県スポーツ協会公式サイトより

 また、日本サッカー協会も「Uー10~Uー12年代は、心身の発達が調和し、動作習得に最も有利な時期とされています。(中略)『ゴールデンエイジ』と呼ばれ、世界中どこでも非常に重要視され、サッカーに必要なあらゆるスキルの獲得に最適な時期として位置づけられています」としている。

日本サッカー協会公式サイトより

 このように、4年生はゴールデンエイジの始まりという重要な時期だが、実はこの年代の子どもたちが出られる大会は意外と少ない。小学生の大会では、学年が上の5、6年生が中心になっているからだ。

 浦和レッズの上野優作アカデミーダイレクターは「レッズランドカップ」の狙いについてこのように説明する。

上野ダイレクターは「プレゴールデンエイジの子どもたちに天然芝でプレーする場を提供することには大きな意義があります」と語る(撮影:矢内由美子)
上野ダイレクターは「プレゴールデンエイジの子どもたちに天然芝でプレーする場を提供することには大きな意義があります」と語る(撮影:矢内由美子)

「4年生は誕生日が来るまでは9歳で、プレゴールデンエイジになります。チームによっては3年生も若干います。この年齢は戦い方を理解し、判断してプレーできる最初の時期なのですが、この学年の大会は少ない。だから4年生に大会を提供しましょう、というのが一番の狙いです」

 レッズランドカップには、子どもたちの成長をさらに促すための仕掛けがいくつかある。優勝から3位までのチームにトロフィーを渡すことや、各チームから1人ずつ選出される優秀選手へメダルを授与することなどで、子どもたちのモチベーションアップが期待できる。

 また、決勝戦は全チームの選手やコーチングスタッフ、保護者らが見つめる中で行われる。昨年の第5回大会の決勝戦の観衆は約300人。多くの人々が見つめる中、あえて緊張感のある環境で試合をすることは子どもたちの経験値となっていくうえ、そういう環境でプレーするからこそ気づくこともあるそうだ。

 わずか1日の大会でも成長のきっかけをつかむ子どもは多々いるものだが、きっちりと整備された「大会」があることによって、その緊張する舞台で力を発揮するために準備する期間があることも、子どもたちの成長を促すことにつながる。

■今年から堀川産業がスポンサーに

 プレゴールデンエイジの子どもたちに大会を提供することによって、地域貢献も果たしたい。そういったクラブの思いに賛同し、今年は「レッズランドカップ」に初めてスポンサーがついた。

 今年からトップチームのユニフォームパートナー(スポンサー)となった堀川産業(本社・埼玉県草加市)だ。同社は埼玉県を中心に事業展開する総合エネルギー企業。ブランド名の「Enecle (エネクル)」 がトップチームのユニフォームの左右鎖骨部分についている。

 堀川雅治社長は「子どもたちの大会を通じてもっと地域貢献をしたいという思いがありました。普段はエネルギーというインフラを扱う企業ですが、インフラという形だけでなく、こういう形で地域貢献ができたらと思い、この大会に協賛させていただきました」と話す。

社内には浦和レッズファンも多いという堀川産業の堀川社長(浦和レッズ提供)
社内には浦和レッズファンも多いという堀川産業の堀川社長(浦和レッズ提供)

 偶然ながら堀川社長のお子さんは現在小学4年生で、1年生から地元のサッカーチームに入っているそうだ。

「1、2年生の頃はサッカーを楽しむところから始まり、試合をするようになったのが3年生からです。試合をすることで悔しさを感じたり、周りの凄さを知ったり、サッカーに対する力の入れ方が変わってきました。この年代は世間が広くなる時期で、体も考えも、成長のスピードが速い。非常に重要な時期だと感じています」

 堀川社長は子育てを通じて、プレゴールデンエイジの成長スピードを実感している。お子さんは、試合となると朝からパッと目が覚めて、張り切って出かけるといい、「レッズランドカップに出たという選手が10年後に偶然、うちの会社に入ったらうれしいですね」と語った。

■将来は海外チームの招待も視野に入れている

「レッズランドカップ」はプレゴールデンエイジの子どもたちにとって有益な場であるだけではなく、さいたま市の指導者の連携面に果たす役割もある。

 レッズジュニアが発足した2013年、クラブが最初に声を掛けたのが、旧浦和市のチームが参加している「さいたま市南部少年サッカー指導者協議会」だった。

 元々、さいたま市南部指導者協議会では地区を8つのブロックに分けて3年生の大会を開催していた。そこで、各ブロックの優勝チームが翌年の「レッズランドカップ」に出るという形式で2014年に大会をスタート。レッズジュニアのほか、Jクラブの育成組織などの招待チームも合わせて12チームの参加で大会を開催してきた。

 昨年の第5回大会から8ブロックの代表にプレーオフ勝者2チームを加えるなど、16チームへと規模を拡大。将来的には海外チームの招待を視野に入れ、子どもたちと地域の指導者により広い世界と触れてもらえる場にしていきたいと考えているそうだ。実際、大会は今年で6回目となり、指導者同士の連携も一層活発になっているという。

第5回レッズランドカップの参加選手たち(浦和レッズ提供)
第5回レッズランドカップの参加選手たち(浦和レッズ提供)

 上野ダイレクターは言う。

「4年生は大会そのものが少ないうえに、手入れされた天然芝で試合をする機会はとても貴重です。天然芝の良さは、全力プレーを引き出せること。転んでも痛くないから、思い切ってプレーできます。良い対戦相手に、全力でぶつかっていく、全力でプレーする中で技術を発揮することで、プレゴールデンエイジからゴールデンエイジへとつながっていけばいいと思っています」 

 今年のレッズランドカップは5月19日(日)に、さいたま市桜区下大久保のレッズランドで開催される。試合は8人制、試合時間は10分ハーフ(決勝戦のみ12分ハーフ)。天然芝で思い切りプレーしながら成長していく子どもたちの姿がそこにある。

レッズランドには14年6月まで浦和レッズに在籍した原口元気の名をつけたピッチもある(撮影:矢内由美子)
レッズランドには14年6月まで浦和レッズに在籍した原口元気の名をつけたピッチもある(撮影:矢内由美子)
こちらは17年8月まで浦和レッズに所属した関根貴大の名がついたフットサルコート(撮影:矢内由美子)
こちらは17年8月まで浦和レッズに所属した関根貴大の名がついたフットサルコート(撮影:矢内由美子)
サッカーとオリンピックを中心に取材するスポーツライター

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。スポーツグラフィックナンバー「Olympic Road」コラム連載中。

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