【スピードスケート】逆襲する男子の旗頭。新濱立也の底知れぬポテンシャル

台頭著しかった新濱立也は大型スケーターだ(写真:ロイター/アフロ)

 平昌五輪で女子が金メダル3つを獲得してから1年1カ月。日本スピードスケート陣の“ポスト五輪シーズン”が終了した。

 小平奈緒(相澤病院)の世界スプリント選手権優勝、W杯500m連勝記録継続(23連勝)や、高木美帆(日体大助手)の1500m世界新記録樹立などのほか、チームパシュートが世界距離別選手権を制するなど、女子が変わらぬ隆盛ぶりを見せたのに続き、今季は男子が世界に向けて新たな勢いをアピールするシーズンとなった。

 その旗頭が、ナショナルチーム1年目だった新濱立也(しんはま・たつや=高崎健康福祉大学4年)だ。22歳の新濱は12月の全日本スプリント選手権で初優勝を飾ると、2月の世界スプリント選手権で総合2位に入り、今季が初参戦だったW杯では3勝を挙げる大活躍。特に3月9、10日に標高1400mの米国ユタ州ソルトレイクシティーで行われたW杯ファイナルでは2日連続で日本新記録を連発して初日は2位、2日目は優勝した。

 その滑りは荒削りにして豪快。身長183cm、体重89kgの恵まれた身体と、大舞台でも物怖じしたり気負ったりせずに自然体でいられるメンタルが武器である。

■2レース連続の33秒台は世界初

 観客を大興奮させる滑りを見せたのは、自身初の高速リンクレースとなったソルトレイクでの初日だった。W杯ファイナルはシーズンのポイント上位選手のみが出られる精鋭たちの大会。6組(12人)中の4組目で滑った新濱は、15年11月20日にこのリンクでパベル・クリズニコフ(ロシア)が出した33秒98の世界記録を上回る33秒83をマーク。電光掲示板には「World Record」の文字が映し出された。

 その後、最終6組で33秒61を出したクリズニコフに抜かれて2位になったが、久々の33秒台突入はスピードレースを見慣れたソルトレイクのファンをもうならせた。

「その瞬間はうれしかったけど、すぐ後に抜かれてしまったので悔しさはある。ただ、リラックスして、自分の感覚だけを信じ、自分のレースをして出た(タイム)という感じ。まさか33秒台が出ているとは思わなかった」

 初日にそう語っていた新濱の評価を大きく高めたのは2日目。同じインスタートで初日を上回る33秒79をマークし、タイムが実力であることを示した。

「ワールドレコードの更新を狙いたい」と話していた狙いは達成できなかったが、初日終了の時点でW杯ポイントで総合優勝の決まっていたクリズニコフが、最終組で出場しながらも一度もダッシュすることなく1分9秒もかけてゴールしてブーイングを浴びたのに対し、新濱には表彰式でもひときわ大きな拍手が注がれた。2レース連続で33秒台をそろえたのは、新濱が史上初だったのだ。

オリンピック・オーバルの世界記録誕生時の掲示板(撮影:矢内由美子)
オリンピック・オーバルの世界記録誕生時の掲示板(撮影:矢内由美子)

■性格は鷹揚。強みはバックストレート

 大物感が漂うところも魅力だ。

「今シーズン自分がここまで成長できるとは想像もしていなかったので、本当にまさかだなという感じです」

 そんな風に言いながら、33秒台の世界に入った感触について「特に何も感じなかったですね」と飄々と流す。堀井学、清水宏保、加藤条治、長島圭一郎と、繊細なフィーリングを持つタイプが歴代上位に並ぶ中で、新濱は実に鷹揚な性格の持ち主だ。

「今季はナーバスになった試合は一度もなかった」と言うのだから心強い。

 もちろん、滑りそのものにも独特の持ち味がある。それはバックストレートでの豪快な加速である。

 女子スプリント勢で世界でもトップクラスのロケットスタート能力を持つ辻麻希(開西病院)は新濱の滑りを見て「第1カーブからバックストレートへのつなぎがうまいのだと思う」と評する。そして、その土台になっているのが自転車の強さ。新濱によると、元々、自転車トレーニングではナショナルチームの選手よりも強かったという。

 底知れぬポテンシャルを持つ選手新濱が来季の舞台で試されるのは、アウトコーススタートでどこまでタイムを出せるかだろう。アウトスタートではバックストレートで追うことができるメリットがあるが、足に乳酸がたまった状態で超高速のまま突っ込むことになる第2カーブでのテクニックと、重力に抗う筋力が求められるからだ。

「僕は“バックストレートで追いたい派”なのでアウトインが好き。けど、高速リンクなので第2カーブを回れるかはやってみないとわからない。今の状態で第2カーブをどれだけ回れるかを知りたかったというのはあるが、それは運命的なもの。来季に知りたい。ただ、もっとコーナーワークが安定したら、クリズニコフにさらに追いつける感覚はある」

 未知への挑戦である。だからこそ、楽しみが来季につながっている。

■急成長の村上右磨

 新濱の台頭と同時に記しておきたいのは、村上右磨(村上電気)の成長だ。W杯ファイナル初日に新濱の1つ前の組で滑り、13年に加藤条治(博慈会)が出した34秒21を6年ぶりに塗り替える34秒11の好タイムを叩き出していたのが彼だった。

 2月の世界距離別選手権から約1カ月ぶりの本格レース。こちらも自身初となる高速リンクでタイムへの期待を膨らませながらスタートし、100mを全体の1位となる9秒46で通過すると、後半もうまくまとめてフィニッシュ。3位になり、新濱と一緒に表彰台に上がった。

 新濱が「村上さんが良い記録だったので、正直ヤバイと思った」と語るように、ライバルに刺激を与える滑り。

「まずは条治さんの持っている日本記録を更新しようという目標でソルトレイクに来たので、それは良かった。でも新濱くんやクリズニコフのタイムが素晴らしく、自分はまだまだだと思った」

 手応えと悔しさが同居する中で迎えた2日目も、34秒10とわずかではあるが自己ベストを再び更新し、今度は2位になった。

「100分の1秒でも更新したのは良かったし、シーズンの締めくくりとしても良かった。ただ、目指した33秒台に届かなかった。そこは来年の世界距離別選手権(ソルトレイク)で狙いたい」

 高い目標への挑戦は続いていく。

■羽賀亮平、長谷川翼も自己ベスト更新

 男子500mでは五輪未経験の新濱と村上のほかに、バンクーバー五輪出場のベテラン羽賀亮平(日本電産サンキョー)も初日に34秒23の自己ベストをマークした。また、平昌五輪出場の長谷川翼(日本電産サンキョー)はアウトスタートで滑った初日に、最終コーナーまで同走の村上と互角以上のレースを見せていた。最後のカーブでの転倒がなければかなりの好タイムが見込める状態だった。そして迎えた2日目もアウトスタート。前日転倒の恐怖感に打ち勝って34秒35の自己ベストを出したのは立派だった。こちらも先につながるレースだった。

■マススタートでは土屋良輔が初優勝

 W杯ファイナルの最後を飾る男子マススタートでは、長距離のエース、土屋良輔(メモリード)が気を吐いた。

 レースの序盤、自身と似たタイプの持久系の選手であるビタリー・ミハイロフ(ベラルーシ)と互いに思惑を察知して集団を飛び出し、空気抵抗の大きい先頭をうまく交代し合いながら大逃げを打った。末脚のある後続の有力選手たちが牽制し合って様子をうかがう中、2人は集団との差をどんどん突き放し、気を抜いた隙にスッと追い越す離れ技。周回遅れの失格に追い込み、最後はミハイロフとの競り合いを制した。

「最初から出るというのは予定通りだったが、1周目にベラルーシの選手の戦略を判断できたのも勝因として大きかった。逃げ切れるかどうかは賭けだったけど、後ろが牽制し合ったり、転倒もあって、最後は賭けに勝ったという感じ」

 運も味方にして初めて勝つことができた。

「勝つとしたらこれしかないという展開で勝てた。マススタートが種目として始まった4年前からずっとやってきて初めて勝てた。あとは一番の本業である5000mと1万mでシーズン終盤に失速したので、反省点を洗い出して来季は日本記録を目指したい」と話した。

■新濱「来季は男子も女子に負けないように」

 充実の今シーズンを総括して、新濱はこう言った。

「男子も全体的に世界で戦える選手が増えてきたけど、女子はまだまだ強い。男子も負けじと、来季は全種目を通して盛り上がっていけるようにしたい。自分は短距離でがんばりたい」

 上昇カーブを描いているスピードスケート。来季は男女そろっての世界制覇や世界記録という期待を膨らませながら見つめたい。