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コロナワクチン健康被害の審査加速 死亡認定210人に 審査未了は依然4千件超

楊井人文弁護士
厚生労働省「疾病・障害認定審査会」の公開資料に基づき、筆者作成

 厚生労働省が新型コロナワクチン接種に伴う健康被害の審査体制を強化し、審査が加速している。一時、審査未了率は75%を超えていたが、増え続ける申請に対応するため、4つの部会で審査を担当する体制に強化し、50%以下に低下。これまでに死亡事案210件、後遺障害事案8件を含む3888件が認定されている。

 だが、依然として毎月、数百件の申請が受理されており、4千件超の審査が終わっていない。そのうち死亡・後遺障害事案の件数も明らかにされていない。

 厚労省の副反応検討部会は「現時点でワクチン接種によるベネフィットがリスクを上回ると考えられ、引き続きワクチンの接種体制に影響を与える重大な懸念は認められない」との見解を示している。政府は来月から、生後6ヶ月以上の全ての人(初回接種済み)に接種対象を拡大する一方、努力義務の対象は重症化リスクの高い人(65歳以上または基礎疾患あり)に限るとしている。

筆者作成
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審査未了率は昨秋の75%超から50%前後に低下

筆者作成
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新たに54人の死亡被害を認定 5月時点で741件受理

 厚労省は8月30日、コロナワクチン健康被害の審査結果を公表し、新たに54人の死亡事案が認定された。20代男性2人、30代男性3人も含まれている。

 これまで認定された死亡事案の大半は60代以上だが、30代以下が17人認定されている。後遺障害の認定は8件あり、うち4人が30代以下となっている。

筆者作成
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 健康被害救済制度が1977年に開始して以来、2021年までの44年間で累計3522件の健康被害が認定され、死亡認定を受けたのは151人だった(厚労省サイト)。この2年間のコロナワクチンの健康被害の認定件数はそれを上回っていることになる。

 6月に死亡事案の審査を担当する部会が設置された後、審査は加速している(冒頭のグラフ参照)。

 ただ、厚労省は8月30日時点で、死亡事案や後遺障害事案の申請受理件数を公表しておらず、それらの審査未了が何件あるのかはわかっていない。

 筆者の文書開示請求によって、5月26日時点で741件の死亡事案(死亡一時金・葬祭料)の申請が受理されていたことが判明している。この時点で審査を終えていたのは70件で、661件が審査未了だった。(詳しくはこちら

 6月以後の受理件数については、引き続き筆者が開示請求を行っている。

 サンテレビ(兵庫県)も8月30日、県内の申請・認定状況について情報公開請求を踏まえて報道。厚労省が昨年秋、件数の情報公開を差し控えるよう都道府県に通知を出していたことも指摘している

(審査状況や被害認定の最新情報はこちらのニュースレターで随時、お伝えしています)

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健康被害救済制度とは

 厚労省は予防接種の副反応による健康被害の発生は、極めて稀とはいえ不可避的に生ずるとして「健康被害が接種を受けたことによるものであると厚生労働大臣が認定したとき」に救済金を給付する制度を運用している。(健康被害救済制度のページ

 審査しているのは、「疾病・障害認定審査会」に設けられている「感染症・予防接種審査分科会」。医師、法律家、感染症専門家などの専門委員が審査を行っている。(厚労省の資料

申請から認定・支給までの流れ

厚生労働省 健康被害救済制度のページより
厚生労働省 健康被害救済制度のページより

 死亡認定がなされると「死亡一時金」(4530万円)、「葬祭料」(21万2000円)、後遺障害認定がなされると「障害年金」(毎年約310万〜517万円)が支給される。

 死亡・後遺障害に至らなくても、接種による健康被害で入通院した場合、「医療費」「医療手当」が支給される。

 ただ、この制度を利用するには、本人または遺族が診療録等多くの資料を自ら収集し、自治体に申請書類を提出する必要がある。

 大量の申請がきていることから、申請から審査結果が通知されるまでに2年近くかかっている事案もある()。

 こうした状況を受け、いくつかの民間の有志団体が発足し、被害者や遺族をサポートしている(非死亡事案を取り扱っている「新型コロナワクチン後遺症・患者の会」、死亡事案を取り扱っている「繋ぐ会(ワクチン被害者遺族の会)」などがある)。

健康被害救済制度に基づく審査状況(2017〜2021年)

厚生労働省・疾病・障害認定審査会(2023年2月24日開催)の資料より
厚生労働省・疾病・障害認定審査会(2023年2月24日開催)の資料より

死亡認定でも支給されない場合も

 厚労省は、迅速な被害救済の観点から「厳密な医学的な因果関係までは必要とせず、接種後の症状が予防接種によって起こることを否定できない場合」も認定の対象となり得ると説明している。

 ただ、「因果関係について判断するための資料が不足しており、医学的判断が不可能」と判断された事案のほか、「予防接種と疾病との因果関係について否定する論拠がある」ケースや「通常起こりうる副反応の範囲内である」と判断されたケースは否認され、給付の対象とならない。

 死亡一時金は、配偶者以外の遺族は生計を同じくしている場合に限られる(予防接種法施行令17条)。例えば、独立して生計を営んでいる未婚者が接種によって死亡した場合には、両親等がいても支払われない(約21万円の葬祭料は支払われる)。これまでにも葬祭料だけ認定されているケースが散見される。

 ただ、厚労省の予防接種を呼びかけるパンフレット健康被害救済制度に関するパンフレットには、そうした説明はない。

予防接種法施行令

(死亡一時金)

第十七条 法第十六条第一項第四号の政令で定める遺族は、配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。以下同じ。)、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹とする。ただし、配偶者以外の者にあっては、予防接種を受けたことにより死亡した者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者に限る。

厚労省のパンフレット最新版

厚生労働省ホームページより
厚生労働省ホームページより

(*) 誤字の修正、「健康被害救済制度とは」の加筆修正をしました。(2023/9/1)

(**) 冒頭のグラフで一部誤りがあり(2022年6月:否認0件→1件)、差し替えました。(2023/9/7)

弁護士

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHooを運営(〜2019年)。2017年、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年、共著『ファクトチェックとは何か』出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー)。2023年、Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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