元日の虚報 「改憲勢力3分の2で発議加速」しなかった現実を直視せよ

朝日新聞2019年1月1日付朝刊15面より(筆者撮影)

 2019年元日の新聞は、またもや紋切り型の報道で始まった。「改憲勢力2/3維持焦点」「改憲『2/3維持』なら加速」「改憲勢力、発議へ86議席」ーーいずれも今年夏の参議院選挙について見通しを報じた記事の見出しだ。しかし、これまでの経緯と国会の構造をみれば、「改憲勢力が3分の2を占めれば改憲が進む」というのはもはや「幻想」であることは明らかではないか。

2019年元日の東京新聞、産経新聞、読売新聞(左から順に)
2019年元日の東京新聞、産経新聞、読売新聞(左から順に)

「3分の2」があっても改憲に向けて一歩も進まない理由

 「事実」と「現実」を確認してみよう。

(1)「改憲勢力」が「3分の2」を衆参両院で超えたとされるのは、(第二次安倍政権発足後、最初に行われた)2013年夏の参院選だった。

(2)その後3回の国政選挙(2014年冬の衆院選2016年夏の参院選2017年秋の衆院選)では、いずれもメディアの称する「改憲勢力」が「3分の2」を超えた、とされた。

【関連】朝日新聞、論説主幹コラムを訂正 改憲勢力「初めて3分の2」は誤り(2016/11/25)

(3)ところが、この5年間、国会で憲法改正に向けた手続きは何ひとつ前進しなかった。2018年は自民党が改憲の具体案を憲法審査会に「提示」することすら、かなわなかった。

(4)憲法96条には、衆参両院の総議員の3分の2以上の賛成で憲法改正案を発議でき、国民投票で決すると定められている。ところが、実は憲法改正を審議する憲法審査会には、野党第1党の協力なくして審議を進められないという「不文律」がある(参照:衆議院憲法審査会2017/5/18)。野党第1党(民進党→立憲民主党)は一貫して「安倍政権下の改憲」に反対し、自民党の改憲案「提示」すら拒否している。野党側の協力を得られる見通しは立っていない。

(5)そもそも「改憲勢力」というのはメディア側がさしたる根拠もなく勝手に名付けたものにすぎず、「改憲勢力」内の考え方は全く統一されていない。その中にカウントされている公明党は自民党との協議に一貫して消極的であるし(参照:公明・山口那津男代表 「改憲勢力」扱いに抵抗感 自民とのアプローチの違い強調[産経新聞 2016/7/4])、自民と維新の改憲の具体案にもかなり隔たりがある。

【関連】参院選 「改憲勢力3分の2」が焦点? メディアが報じない5つのファクト、1つの視点(2016/7/8)

3年前の参院選でも「改憲勢力3分の2」が焦点と盛んに報じられた。毎日新聞ニュースサイトより
3年前の参院選でも「改憲勢力3分の2」が焦点と盛んに報じられた。毎日新聞ニュースサイトより

小泉元首相「憲法改正なんかできるわけない」 根拠を分析せよ

 主要メディアは、改憲に賛成・反対に関係なく、選挙が近くたびに「改憲勢力3分の2があればいよいよ改憲が現実化する」と煽る報道を繰り返してきた。しかし、現実にはそうならなかった。現実はそう単純なものではないことを、現場の記者はとうに気づいているはずだ。今後もステレオタイプの見通し報道を続けるなら、「虚報」といわれても仕方がない。

 野党第1党の協力を得て憲法審査会の手続きを進めるという「不文律」(慣習)が存続し続ける限り、焦点は、自民・公明中心の他称「改憲勢力」が3分の2を取るかどうかではない。主導権は、野党第1党が握っている。つまり、他称「改憲勢力」が3分の2を取っていようがいまいが、野党第1党が協力すれば、改憲発議に向けた審議は進むだろうし、協力しなければ進まない。そういう仕組みになっているのだ。逆に言えば、改憲発議プロセスにおいて、野党第1党の責任は非常に重いとも言える。

 小泉純一郎元首相も、昨年のテレビ番組で、憲法改正には野党の協力が必要で、現状では「憲法改正なんかできるわけない」と言っていた(朝日新聞2018/10/8)。ところが、メディアは「発言した」という事実を報じただけで、なぜそのように言えるのか、発言の具体的な根拠があるのかを解説しなかった。これでは、メディアは本来の役割を果たしているとは言えない。

 野党の意向と関係なく手続きを進められるよう「不文律」を改廃してしまう方法や、党議拘束を外して政治家個人が自由に審議・採決に参加できるように与野党が合意する方法も考えられる。可能性はゼロではないが、現実にはかなり困難を伴うであろう。

 いずれにせよ、メディアはそろそろ、従来繰り返してきた「改憲勢力3分の2」報道の過ちを改めるときに来ている。まず、「改憲勢力3分の2」があっても一歩も進まなかった現実(構造的要因)を冷静に分析すべきだろう。選挙のたびに「改憲勢力に3分の2を与えるか、阻止するか」という空虚な対立軸をメディアが設定することは、もうおしまいにすべきである。

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