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星のカービィは「星の形」の星に住んでいるけど、いったいどんな環境なのか考えてみた。

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

カービィは「ポップスター」という星に住んでいる。この星は「星の形」をしている。星が星の形をしているとは、まこと慶賀の至り……なわけがない!

星の形が星形!?  そんなコトがあるの!? 星というものは、絵で描くときはなぜか星形だけど、現実の星はだいたい球形なのだ。

ゲームの画面を見ると、ポップスターは5つのトンガリを持った星の形で、中央部が厚くて周辺部が薄く、クリスマスツリーのてっぺんに飾る星にそっくりだ(そのうえ輪がある)。

ゲームの設定では、のどかな草原や砂漠や広大な海があるなど、自然豊かな星だというのだが、こんなカタチをしていて、そんな自然環境が成立するのだろうか?

ここでは、ポップスターが実在したら、それはどんな星なのかを考えてみたい。

◆星の形をした星は珍しい!

地球や火星など岩石でできた惑星は、生まれた直後はマグマの塊だった。マグマは水のように低い方へ流れるので、均等にならされて球になった。木星や土星などガスでできた惑星も、ガスが重力で中心に向かって引っ張られているために、球になっている。

球形をしていないのは、探査機はやぶさ1&2が行った小惑星イトカワやリュウグウなど、小さくて重力の弱い星の特徴だ。

カービィたちの活躍を見る限り、ポップスターでも地球と同じぐらいの重力が働いているようだ。なのに、平然と星の形をしているポップスター。いったいどうやって形成されたのか、すごくナゾだ……。

ゲームの画面で測定すると、星形の中心から凹んだ部分までの距離は、中心からトンガリの先端までの7割ほど。また、中央の膨らんだ部分の厚さは中心からトンガリまでの半分ぐらい。非常に平べったい星である。

このような星は、星の重さが分散しているため、同じ重さの球形の星より重力が弱くなるが、ゲームやアニメを見る限り、カービィたちは地球と変わらない重力のもとで暮らしているようだ。こうなるからには、ポップスターはかなりデカいと思われる。

星の密度が地球と同じで、中央部に地球と同じ重力が働いているとすると、中心からトンガリの先端までは3万2千km。上から見た直径は6万4千kmで、地球の5倍。厚さでさえ1万6km千で、地球の直径の1.25倍もあることになる。

この大きさで星の形をしていると、表面積は8倍。まことに広々とした星なのだ。ただし「うらやましい」と思うのはまだ早いですぞ。

◆デデデ山はどこにある?

ポップスターには森や草原や海など、豊かな自然があるという。砂漠や雪山もあるが、気候は全体に温暖なようだ。また山もあり、デデデ山の山頂には、デデデ大王がデデデ城を築いているらしい。

そのデデデ山は、いったいどこにあるのだろう。もしかしたら星形のトンガリの一つがデデデ山?

だとしたら、これはモノスゴク高い山だ。その山頂の高さは、星形の凹んだ部分から測って9568km。おお8488mのエベレストを上回るのか、と思ったあなたは。単位をよく見てください。9568mではなくて9568km。つまりエベレストの千倍以上! 恐るべき山である。

どんな形の星でも、重力は星の中心に向かって働く。地球は球形だから、どこでも同じ強さの重力が真下に働いている。

ところが、星形の星では、そうはいかない。平面部の真ん中では、地球と同じように真下に働くが、周辺部では地面に対して斜めに働く。また周辺部ほど中心から遠いため、重力も弱くなっていく。かなり面妖な星なのだ。

◆住める場所はちょっとだけ

この結果、いろいろなものが中央部に集まってくる。それには、水も含まれる。つまり、この星において、海は真ん中にしか存在しない!

しかも海面は、テーブルに落とした水滴のように、真ん中がコンモリと盛り上がっているはずだ。これは、星の形がどうであっても、水は星の中心に引き寄せられて球になろうとするから。

海水の量が地球と同じだとすると、海の直径は3200km、高さは160km!

つまりポップスターには、球形に盛り上がった海が星の表と裏に一つずつあり、他に海はまったくない。この二つの海に交流はないから、おそらく生物たちは、それぞれ独自の進化を遂げているに違いない。

そして、空気も重力に引かれて球になろうとするから、海を覆うように存在する。

地球では標高5千mほどまで人が住んでいるが、ポップスターの陸地で、それ以上の濃さの空気があるのは、海の周囲の幅25kmのドーナツ型の部分だけである。

ポップスターの人たちにも空気が必要だとしたら、暮らせるのはその部分だけ。科学的に考えると、カービィが得意とする「すいこみ」にも空気が必要だから、吸い込みができるのもその部分だけ。地球の8倍もの表面積を持ちながら、居住可能&すいこみ可能面積は、星全体のわずか0.012%なのだ。ヒジョ~に狭い!

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

もちろん、ゲームやアニメのなかでは、そんなブキミなことにはなっていません。

これは、科学的に考えた場合、水や空気が中心部に集中した星なのでは……という筆者の解釈にすぎない。でも、たいへん珍しい星なのは確実だから、どうかカービィはメガトンパンチでカチ割ったりせず、穏やかに暮らしてもらいたい。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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