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ウルトラマンの活躍時間は3分間。それで地球の平和を守れるだろうか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今日の研究レポートは……。

ウルトラマンの活動時間は3分間。

この有名な弱点、『ウルトラマン』の劇中では時間が明言されたことはないらしいのだが、当時の雑誌や怪獣図鑑にはハッキリ書かれていて、子どもたちには浸透していた。

筆者はいまでも「3分間」と聞くと、ボクシングの1ラウンドか、カップ麺の茹で時間か、ウルトラマンの制限時間をイメージしてしまう。

しかし3分とは、あまりにも短い。ボクシングでも1ラウンドで決着がつくことは稀だし、カップ麺はささっと作ってささっと食べるファストフード。

それらと同じ時間で、ウルトラマンは怪獣を倒さなければならないのだ!

しかも、彼の使命は「地球の平和」を守ること。地球は周囲4万km、総面積5億1千万km²。まことに広大である。

これをたった1人で、しかも3分というわずかな時間で守り抜くことなどできるのだろうか?

◆ウルトラマンの行動範囲は?

地球の平和を荒らす怪獣は、いつどこに出現するか予測できない。ただちに現場に駆けつけるには、ウルトラマンはかなりの広範囲にわたって活動する必要がある。

怪獣図鑑によれば、ウルトラマンはマッハ5で空を飛び、時速450kmで走る。また、200ノットで泳ぐこともできるという。

この能力から、彼の行動範囲がどれほどか、具体的に考えてみよう。

まず、泳ぐ速さの200ノットに注目したい。ノットは船や飛行機の速さを表す単位で、1ノットは時速1.85kmだ。

すると、200ノットとは時速370km。人間など及びもつかない優れた泳力である。

しかし、与えられた時間はたったの3分。この時間にどれだけ泳げるか、計算してみると、なんと18.5km! 東京湾から飛び込んで猛然と泳ぎ始めたウルトラマンは、悲しいことに横浜沖に達しないうちに力尽きてしまうのだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

走力はどうだろうか。時速450kmは確かに速い。時速320kmを誇る東北新幹線はやぶさにも圧勝するスピードだ。

だが、3分で走れる距離は、たったの22.5km。ウルトラマンがはやぶさと競争し、同時に上野駅から北へ向かうと、スタート直後はウルトラマンがリードするが、次の停車駅・大宮の5.2km手前で3分経ってしまってハヤタ隊員に戻り、ヘタバっているところを、はやぶさ号が軽やかに抜き去ることになる。このヒーロー、速いことは速いが、著しくスタミナに欠けるのだ。

新宿から国分寺までの21.1kmを、JR中央線がほぼ直線状に走っている。2021年5月現在、乗車賃は396円。地上を移動する限り、だいたいこのあたりが彼の行動半径ということになる。人間なら通勤通学圏内。なんとウルトラマンの活動範囲は、サラリーマンや学生よりも狭かった!

◆ウルトラマンは大阪を守れない!

だが、ウルトラマンの移動手段といえば、やはり空を飛ぶことだ。これを抜きに、彼の行動範囲を語るべきではないだろう。

その速度はマッハ5。すごいスピードである。音の速さは気温によって変化するが、地表の平均気温15度のとき、マッハ5とは秒速1700m=時速6120kmだ。やはりウルトラマンはすごい。

では、科学特捜隊の基地から出発して西に向かった場合、3分間でどこまで飛べるのだろうか。科特隊の基地の場所は明らかでないが、「東京郊外」という設定なので、東京の西部にある調布市だと仮定しよう。

そこからマッハ5で飛び立ったウルトラマンが、3分間でどこまで行けるかを計算してみると……えっ。琵琶湖!?

これには驚いた。マッハ5という猛烈なスピードで飛んでも、たったの3分では306kmしか移動できないのである。ウルトラマンは琵琶湖の上空で変身が解けてハヤタに戻り、そのまま日本最大の湖にボチャンと落下……。

他の方角はどうか。北へ向かえば仙台、北西に針路を取れば金沢が限界である。

なんとウルトラマンは、地球の平和を守るといいながら、大阪や盛岡さえ守れない!

守備圏内にある名古屋にしても、調布から245kmも離れているため、移動するだけで2分24秒を使ってしまう。すると、戦えるのはたったの36秒。これはもう、地上に降り立つなり、いきなりスペシウム光線をしゅばばば~と浴びせるしかない。暴れていた怪獣も「そんなのアリ!?」と驚くだろう。

北海道や九州に暮らす皆さん。怪獣が現れたって、ウルトラマンは決して来てくれませんぞ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

現実的に考えれば、ハヤタ隊員は怪獣の出現地まで乗り物で移動し、現地でウルトラマンに変身していただきたい。大阪に怪獣が出現したら、ハヤタはただちに新幹線の切符を買う。これがウルトラマンの正しい出動シーンだ。

あ。でも、ハヤタ隊員は科学特捜隊の一員なのだから、この組織が保有する戦闘機・ジェットビートルに乗ればいいのか。ビートルのスピードはマッハ2.2で、ウルトラマンの半分にも満たないが、時間制限がないのが何よりありがたい。

実は科特隊は、気づかないうちに、ウルトラマンを現場まで運ぶという重大な役割を果たしていたわけである。

何よりも、地球にやってきたウルトラマンが乗り移ったのが科特隊の隊員で、本当にヨカッタ。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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