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2022年ユーロヴィジョン・コンテストのロックな展望と政治色 ウクライナは出場、ロシアは欠場

山崎智之音楽ライター
The Rasmus / photo by Venla Shalin

<世界最大のポップ・コンテストの“大らかさ”>

2022年5月に行われるユーロヴィジョン・ソング・コンテストが音楽ファンから熱い視線を注がれている。

1956年に第1回が開催、毎年行われてきたユーロヴィジョン(2020年のみ新型コロナウィルスが原因で中止)。世界最大のポップ・コンテストとしてフランス・ギャル「夢見るシャンソン人形」(1965年)やアバ「恋のウォータールー」(1974年)などが優勝を飾ってきたが、“シリアスな”音楽リスナーからは軽視される傾向があった。

その原因のひとつが、軽いノリのバブルガム・ポップが選出されがちなこと。口当たりの良い楽曲はその場だけヒットするが瞬時に忘れられ、顧みられることが稀であり、優勝アーティストの一覧表を見返しても「誰だっけ?」と首を傾げてしまうことが少なくなかったりする。

さらに出場アーティストの選出基準が不明瞭なのもユーロヴィジョンの特徴だ。彼らはそれぞれの国を代表することになっているが、必ずしも出身国とは限らず、1988年にはカナダ出身のセリーヌ・ディオンが「私をおいて旅立たないで」で“スイス代表”として優勝を果たしている。何故スイス?と問われて、セリーヌ自身も「よく判らない」と答えているほどだ。1978年にはスペイン出身のバカラ(「誘惑のブギー」が日本でもヒット)が「誘惑のフランセ」で優勝したが、“ルクセンブルク代表”としてだった。それも普通だったら「何故?」という疑問が湧き上がるところだが、「まあユーロヴィジョンだからねえ...」とみんな納得してしまうのである。

出場アーティストの多くは若手だが、そうとも限らないのがユーロヴィジョンである。1997年には、1985年に「ウォーキング・オン・サンシャイン」をヒットさせたベテラン・バンドのカトリーナ&ザ・ウェイヴズが「ラヴ・シャイン・ア・ライト」で優勝。他の出場アーティストとは世代が異なっていたが、さして疑問を挟まれることもなく受け入れられている。

コンテストへの参加国もかなり大雑把なものだ。基本的に欧州放送連合(EBU)加盟国が出場条件のため、ヨーロッパでなくともイスラエルは1973年からレギュラー参加しているし、モロッコも1980年に参加。2015年に“特別参加枠”で出場したオーストラリアはそれ以来、毎年参加している。

<2022年、ロシアは不参加。ウクライナは参加>

そんな“何でもアリ”の大らかさで愛されてきたユーロヴィジョンだが、多数の国が参加するインターナショナルなイベントゆえ、政治と切り離すことが出来ないのも事実である。2005年にはヨルダンが参加する予定だったが、非友好関係にあるイスラエルを含む番組の完全放送を義務づけられたため不参加。2009年にはジョージアのステファン&3Gが「ウィ・ドント・ワナ・プット・イン」で出場することになっていたが、反ロシア的なメッセージ性(Put InとPutinプーチンをかけている)が問題に。EBUは歌詞を変えることを求めたがアーティスト側は拒否。出場辞退に至っている。

2016年にはウクライナ代表のジャマラが「1944」で出場している。この曲は1944年、スターリン政権下のソ連によるクリミア・タタール人の強制移住を題材としており、ロシア側からのクレームがついたが、そのまま通過。優勝を獲得している。なお彼女は2022年、ロシアによるウクライナ侵攻に伴い、トルコに避難しているという。

ちなみにロシアとベラルーシはEBU参加を一時停止されているため、2022年の大会には不参加が決まっている。

なお2022年の大会にはウクライナ代表としてカルシュ・オーケストラが「ステファニア」で出場する予定だ。

<フィンランドの特異なポジション>

そんなユーロヴィジョンにおいて特異なポジションを占めているのがフィンランドだ。1961年から参加、良質ながら突き抜けたもののないポップで毎年コンテストの中位から下位をウロウロしてきた同国だが2006年、モンスターかぶり物メタル・バンド、ローディが「ハード・ロック・ハレルヤ」で初優勝。2008年にもメタル系のテラスベトーニを送り込んでいる。2015年に出場したペルティ・クリカン・ニミパイヴァットは障害者たちによるパンク・バンドで、担当パートが“介護”というメンバーがいることも話題を呼んだ(演奏には関わらない)。2021年のブラインド・チャンネルもメタル色の濃いバンドだ。

そして2022年のユーロヴィジョンでフィンランド代表となったのがザ・ラスマスだ。出場曲の「ジェゼベル」はヴォーカリストのラウリ・ヨーネンと外部ソングライターのデズモンド・チャイルドによる新曲。1995年にデビュー、ヘヴィでメロディックなロック・サウンドで世界的な支持を得ている彼らは日本でもインディーズ系フェスのヘッドライナーを務めたことがある人気バンドで、何で今更ユーロヴィジョンに...?とも思えるが、それもまたユーロヴィジョンの“何でもアリ”なところ。2022年5月にイタリアのミラノで開催される大会で彼らがどこまで勝ち抜くか?もしかして優勝も?...と期待が高まる。

<ユーロヴィジョンのロック化>

実はユーロヴィジョンのロック化はフィンランドだけの現象ではなかったりする。2021年にはイタリアのマネスキンが「ジッティ・エ・ブオーニ」で優勝、数多くの音楽リスナーのユーロヴィジョンに対する見方を改めさせることになった。2022年の大会にはザ・ラスマスだけでなく、ブルガリア代表としてインテリジェント・ミュージック・プロジェクトが出場。彼らのエントリー曲「インテンション」ではロニー・ロメロがヴォーカルを取っている。ユーロヴィジョンのステージにリッチー・ブラックモアズ・レインボー〜マイケル・シェンカー・グループのロニーが上がる!?...というのも、大きな注目ポイントだ。

なお本選進出はならなかったものの、フィンランド予選に出場したサイアン・キッズの「ハリケーン」はアマランスのエリゼ・リードとの共作曲で、プロデュースを手がけたのは元デス・キャブ・フォー・キューティーのクリス・ワラと、やはりロック色が強いものだった。

ユーロヴィジョンは曲がり角を迎えようとしているのだろうか。2022年5月の大会に注目である。

【Eurovision Song Contest 2022】

イタリア・トリノPalaOlimpico

2022年5月10日・12日(準決勝)/14日(決勝)

公式サイト 

https://eurovision.tv/event/turin-2022

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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