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【インタビュー後編】アーチ・エコー、そのプログレッシヴな原点を語る

山崎智之音楽ライター
Joey Izzo / (c)Yuki Kuroyanagi

プログレッシヴ・フュージョンの新時代をリードするインストゥルメンタル・グループ、アーチ・エコーのキーボード奏者、ジョーイ・イッゾへのインタビュー、全2回の後編。

前編記事では最新EP『ストーリー・ワン』について語ってもらったが、今回はバンドとジョーイ自身の音楽的バックグラウンドについて掘り下げて訊いてみたい。

<プロデュースやミックスは、曲作りやライヴと同じぐらいバンドの創造行為>

●あなたはニューヨーク州レイクプラシッド出身だそうですが、それは音楽活動にどのような影響を及ぼしていますか?

うーん、音楽的にはあまり影響がないかもね。クラブ・シーンもないし、有名なバンドも出ていない。でも精神的には多大な影響を受けてきたよ。今でもレイクプラシッドに住んでいるんだ。ニューヨーク州北部のカナダに近いほうで、自然が素晴らしいところだ。コンピュータの仕事に飽きたら、外をジョギングしたり散歩したり出来る。

●レイクプラシッドといえば1980年の冬季オリンピック開催地として有名ですね。

Arch Echo『Story I』ジャケット/P-Vine Records 現在発売中
Arch Echo『Story I』ジャケット/P-Vine Records 現在発売中

俺は1994年生まれだからオリンピックのときはまだ生まれていなかった。でも地元には、何らかの形で関わっていた人もたくさんいるよ。俺の両親も1980年にはここに住んでいなかったけど、妻の両親がここの人で、開会式の合唱隊で歌ったそうだ。

●あと『U.M.A.レイク・プラシッド』(1999)という映画もありましたが、巨大ワニも住んでいますか?

巨大ワニは見たことがないな(笑)。でもまあ、自然が豊かな場所だしね。ワニがいてもそんなに驚かないよ。

(注:映画の舞台はメイン州の架空の小都市で、ニューヨーク州レイクプラシッドは関係ありませんでした。地方観光局も「ワニを見たければルイジアナに行って下さい」と声明を出しています。お詫びして訂正します。)

●アーチ・エコーのメンバー達は、バンド結成前からプロとしての活動はしていましたか?

みんなそれぞれ、専業ではなくとも異なったバンドでやっていたよ。アダム・ベントレイ(ギター)はバークリー時代にはウィズアウト・ウォールズというバンドもやっていた。このバンドのもう1人のギタリスト、ジョニュエル・ハスニーは今トゥースグラインダーでやっていて、ペリフェリーやビトゥイーン・ザ・ベリード・アンド・ミーとツアーしているよ。ベントレイはアーチ・エコーと並行してアブセントリーというバンドもやっている。

●サウンド・ストラグルというバンドは、アーチ・エコーの前身と考えて良いでしょうか?

間違いではないよ。サウンド・ストラグルはアダム・ラフォウィッツ(ギター)、ジョー・カルデローン(ベース)、そして俺がバークリー時代に始めたバンドなんだ。もう1人のギタリストだったキャメロン・ラスムッセンは今ではブロードウェイのミュージカルでギターを弾いている。しっかりした技術を持っていないと出来ない仕事だよ。リッチー・マルティネス(ドラムス)もアーチ・エコーに参加する前、テキサスでいろんなバンドで活動してきた。みんなそれぞれ別のことをやってきたんだ。

●あなたはバークリー音楽大学でどんなことを学んでいたのですか?

音楽プロダクションとエンジニアリングを専攻していた。アダム・ベントレイも同じ学部で、それで出会ったんだ。自分のバンドをやるのにも、どんな音楽、どんなサウンドを求めるかのヴィジョンが明確に見えてくるという点で役立った。プロデュースやエンジニア、ミックスを自分で出来ると、外部スタッフとの意思疎通の誤解がないし、費用も安上がりで済む。自分の求める理想像が判っているからやりやすいし、時間がかかっても何故遅れているか自分で判るから、苛立つこともないんだ。俺はプロデューサーとしてアルバム作りの作業をオーガナイズして、アダム・ベントレイはミックスを手がけている。それは曲を書いたりライヴでプレイするのと同じぐらい、バンドの創造行為のひとつなんだ。今の俺たちのスタイルはうまく行っているし、今後もアウトソーシングする可能性は低いよ。

●影響を受けたプロデューサーはいますか?

デヴィン・タウンゼンドにはアーティストとしてもプロデューサーとしても敬意を持っている。彼のディテールへのこだわり、細かいパーツから大きな全体像を組み立てる手腕は凄いよ。ペリフェリーのミシャ・マンスールも優れたプロデューサーだ。彼はどんな要素もキャッチーに出来るし、そんな意味で影響を受けた。

●キーボード奏者と2人のギタリストという3人のリード奏者が音数の多いプレイを聴かせるというアーチ・エコーの音楽性は、プロデューサーとして交通整理するのが大変そうですね。

まったくその通りだ(笑)。幸い、このバンドにはプリマドンナはいない。それぞれが自己主張するけど、チームワークを重視している。楽器の配置やアレンジはデモの段階で入念に固めているよ。それぞれの楽器のインプロヴィゼーションのパートもあるけど、どこでインプロヴィゼーションをやるかは事前にきっちり決めている。お互いの足を踏まないように気を付けているんだ。

●これだけ密度の濃い音楽をやっていて、新たな要素を入れるのは難しそうではありますが、ヴォーカルを入れようと考えたことはありますか?

うん、いつかヴォーカルを入れたら面白いかもね。ただ、それはアーチ・エコーにシンガーが加わるというのではなく、コラボレーションあるいはプロジェクト扱いになると思う。4曲入りEPで、4人のシンガーが1曲ずつ歌うというのはどうかな(笑)?インストゥルメンタルだとリード楽器のどれかがメイン・メロディを演奏するけど、シンガーがいればそれを省くことが出来る。いろんな可能性が生まれるし、どうなるか興味があるね。

Arch Echo in Japan / (c)Yuki Kuroyanagi
Arch Echo in Japan / (c)Yuki Kuroyanagi

<また日本でプレイする日のために、しっかり練習するよ>

●アーチ・エコーの音楽を表現するのにしばしば“プログレッシヴ”という言葉が使われますが、自分たちがプログレッシヴ・ロックをやっているという認識はありますか?

プログレッシヴ・ロックはひとつの音楽スタイルというより、音楽に対する取り組み方、あるいは思想といえるかも知れない。クラシックやジャズ、ポップやカントリーなど、あらゆる要素を持ち込んでもいいし、どんな楽器を使ってもいい。音楽が良ければ、何をしてもいいんだ。そんな姿勢はアーチ・エコーの音楽と共通していると思う。俺たちの音楽にはメタルの要素もあるし、コールドプレイみたいなポップさもある。俺が好きなプログレッシヴ・アーティストは、誰もやったことのない音楽をやって成功する人たちなんだ。ラッシュの『西暦2112年』(1976)は発表当時、その斬新さで支持されたし、イエスの1970年代のアルバムの数々、そしてペリフェリーのファースト・アルバム(2010)もそうだ。挑戦することを恐れないアーティストが好きなんだ。

●1960年代後半から1970年代前半に確立されたプログレッシヴ・ロックというスタイルについてはどう考えますか?

1970年代のプログレッシヴ・ロックやハード・ロックは大好きだよ。父親からの影響が少なからずあるね。彼は1956年生まれで、ニューヨークの“マディソン・スクエア・ガーデン”でレッド・ツェッペリンを見ているんだ。ミュージシャンではなかったけど音楽好きで、テッド・ニュージェントのライヴを見にいったとき、前座のクレイジーなバンドに衝撃を受けたと言っていた。それが若手時代のヴァン・ヘイレンだったんだ。父は膨大なレコード・コレクションを持っていた。ラッシュは『プレスト』(1989)まで揃っていたし、レッド・ツェッペリンやスティクスは全アルバムを持っていた。俺は子供の頃からクラシック・ピアノを習っていて、ショパンの曲を弾くコンクールに出場したりもしたけど、ロックを聴くようになって、ロック・キーボーディストになることを決意したんだ。バークリーに通ってからは今のスタイルに近い方向に進んだけどね。

●クラシック・ピアノを習得したことは、現在の活動に役立っていますか?

もちろん!演奏技術や音楽理論など、今の自分のバックグラウンドにあるのがクラシックだよ。ロックンロールだから理屈は要らないと思うかも知れないけど、知識は武器だし、必ず役に立つよ。

●最近のアーティストで、真の意味で“プログレッシヴ”なことをやっている人はいますか?

ペリフェリーやアニマルズ・アズ・リーダーズ...イギリスのスリープ・トーケンは面白いことをやっていると思う。全員がマスクをした正体不明のバンドで、アンビエンスのあるプログレッシヴ・メタルをやっている。もし今年、新型コロナウィルスがなかったら、彼らはツアーでブレイクしていただろうね。

●なかなか今後の予定を立てづらいご時世ですが、アーチ・エコーとして、どんな活動を考えていますか?

次のアルバム用に新曲を書き始めているんだ。まだ種を蒔いている状態で、30秒から1分のテーマやメロディを書き溜めている。バンドの共有フォルダには幾つものアイディアがあるよ。それがどう発展していくか、俺たち自身も楽しみにしているんだ。バンドにとってもリスナーにとってもフルレンス・アルバムは長いしズッシリ来るから、『ストーリー・ワン』みたいなEPも並行して作っていきたい。新型コロナウィルスの蔓延は永久には続かないと信じているし、いつかライヴを出来るようになる。その日に備えて、自分たちの楽器をしっかり練習するよ。また日本でプレイする日は必ず来るから、ぜひ見に来て欲しいね。

【最新タイトル】

『ストーリー・ワン』

P-VINE RECORDS PCD-18045

『アーチ・エコー』

P-VINE RECORDS PCD-24988

2017年発売のファースト・アルバム日本初発売

『ユー・ウォント・ビリーヴ・ホワット・ハプンズ・ネクスト!』

P-VINE RECORDS PCD-24858

2019年発売のセカンド・アルバム

http://p-vine.jp/music/pcd-24858

【アーティスト日本公式サイト】

http://p-vine.jp/artists/arch-echo

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,200以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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